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✿01:あっこれって追放ですね知っています
*17.グレイの旦那(1)
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そして、現在に至る。
「なあ、早くしてくれよ。ユーシャさまぁ」
ここでも、癒月は誤算だった。
というのも、いくら辺境の地とはいえど、魔王を倒したという名声くらいは保てるとばかり思い込んでいた。
だからたとえ身ひとつで、金銭など持っていなくても、自分が勇者だと言えば、融通してくれる。そう思い込んでいた。
それが、これだ。
周囲の誰も、自分をただの薄汚い青年としか見ていない。その事実。
悔しくて涙すら出てきそうになる。
「あれま、どーしたのぉ。ユーシャくん。泣いてもお金なくちゃ、お金ってダイジだよぉ。ダメだねぇ、無銭飲食だめだねぇ」
酔っていないとやってられない。なのに、酔うことすら許されないのか。
悔しい。
死んでしまいたいくらいに。
いっそ、この店主を殴り飛ばしてやりたい。闇に落ちたい。魔物と共謀して人類一発滅ぼしてやろうか。
そんな考えすら浮かんできた刹那。
「旦那。ここは俺が」
癒月の目の前を札束が現れた。
「おっと、これはグレイの旦那」
「おうよ。こいつぁ、実は俺のカワイコちゃんなんだわ。あは、ってことでさ、これで許してやってくんない?」
グレイ?
そう店主に呼ばれた日焼けした男は、さっと懐から出した札束を惜しげもなく店主に渡した。
「あの……」
慌てる癒月に彼は片目をつむって見せる。
(うわ……)
同性から見ても彼は恰好がいい。たくましい胸元はシャツをまとっていてもわかる。
「そんじゃ、しっかたないっすなぁ」
思わぬ収入に店主はでれでれで答える。
「あんがとな。じゃ、ボーイ。こっちおいで」
「えっ、あ、俺っ!?」
「じゃね、酒屋の旦那。また今後ともよろしくね」
爽やかに癒月を連れて男は店を後にする。
「あ、あの……」
男に引っ張られて歩きながら、癒月は彼に向かって話しかけた。
「ん? 何かな。キュートなボーイくん」
「え」
キュート? 俺が?
「あはは。そんなドン引かなくていいのに。可愛いって思ったのはほんとだよ」
こくんと小首をかしげる男の似合わないくらい幼い仕草。そのギャップに癒月は呆然とした。
「おたく、名前は?」
「それは尋ねるほうが聞くんじゃないですか?」
「おっと、すまないね」
助けてもらったほうからのぶしつけなことばにも彼は怒らずに流してくれる。
「俺はねぇ、グレイっていうの。悪いやつじゃないぜ」
「ふっ、それ自分でいいますか?」
「んじゃ、それじゃきみは悪い子?」
「それは……」
悪い? 俺が。
「そんなわけないです……って! え!?」
応えている最中になぜか男は癒月の頬をつんつんと指先でつつきだしたのだった。
「なあ、早くしてくれよ。ユーシャさまぁ」
ここでも、癒月は誤算だった。
というのも、いくら辺境の地とはいえど、魔王を倒したという名声くらいは保てるとばかり思い込んでいた。
だからたとえ身ひとつで、金銭など持っていなくても、自分が勇者だと言えば、融通してくれる。そう思い込んでいた。
それが、これだ。
周囲の誰も、自分をただの薄汚い青年としか見ていない。その事実。
悔しくて涙すら出てきそうになる。
「あれま、どーしたのぉ。ユーシャくん。泣いてもお金なくちゃ、お金ってダイジだよぉ。ダメだねぇ、無銭飲食だめだねぇ」
酔っていないとやってられない。なのに、酔うことすら許されないのか。
悔しい。
死んでしまいたいくらいに。
いっそ、この店主を殴り飛ばしてやりたい。闇に落ちたい。魔物と共謀して人類一発滅ぼしてやろうか。
そんな考えすら浮かんできた刹那。
「旦那。ここは俺が」
癒月の目の前を札束が現れた。
「おっと、これはグレイの旦那」
「おうよ。こいつぁ、実は俺のカワイコちゃんなんだわ。あは、ってことでさ、これで許してやってくんない?」
グレイ?
そう店主に呼ばれた日焼けした男は、さっと懐から出した札束を惜しげもなく店主に渡した。
「あの……」
慌てる癒月に彼は片目をつむって見せる。
(うわ……)
同性から見ても彼は恰好がいい。たくましい胸元はシャツをまとっていてもわかる。
「そんじゃ、しっかたないっすなぁ」
思わぬ収入に店主はでれでれで答える。
「あんがとな。じゃ、ボーイ。こっちおいで」
「えっ、あ、俺っ!?」
「じゃね、酒屋の旦那。また今後ともよろしくね」
爽やかに癒月を連れて男は店を後にする。
「あ、あの……」
男に引っ張られて歩きながら、癒月は彼に向かって話しかけた。
「ん? 何かな。キュートなボーイくん」
「え」
キュート? 俺が?
「あはは。そんなドン引かなくていいのに。可愛いって思ったのはほんとだよ」
こくんと小首をかしげる男の似合わないくらい幼い仕草。そのギャップに癒月は呆然とした。
「おたく、名前は?」
「それは尋ねるほうが聞くんじゃないですか?」
「おっと、すまないね」
助けてもらったほうからのぶしつけなことばにも彼は怒らずに流してくれる。
「俺はねぇ、グレイっていうの。悪いやつじゃないぜ」
「ふっ、それ自分でいいますか?」
「んじゃ、それじゃきみは悪い子?」
「それは……」
悪い? 俺が。
「そんなわけないです……って! え!?」
応えている最中になぜか男は癒月の頬をつんつんと指先でつつきだしたのだった。
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