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✿01:あっこれって追放ですね知っています
*05.薄暗闇の中で
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「出せ! 出してくれ! これは何かの陰謀だ! 俺は無実だ!! 出してくれって!!」
必死に懇願するが、癒月は王城の地下牢へと閉じ込められた。
「今はまだ魔法院と王城にて沙汰がない。両者の協議の上でお前の処罰は決まるだろう」
「そんな!! 俺は無実だ!!」
「とにかく沙汰が下るまでここで静かにしているんだな」
ばたりと重たい鉄製の扉が閉まった。癒月に残ったのは、薄暗い室内。
地下牢。
癒月はただひとりこの狭い空間に閉じ込められたのだ。救いといってはなんだが、薄汚れたベッドもある。扉の前で叫ぶのに疲れて、癒月はその傍に寄った。スプリングの効かない簡易な木製のベッドだったが、そのマットレスに血の跡を見つけて、ぞっと背筋に冷たいものが走った。
俺が、何をしたというのだろう。
そのことばかり頭にめぐる。
何も悪いことなどしていない。
すべてはこの国のため、人類のために、薄汚い魔物たちの返り血を浴び続け、腐った匂いのする魔物の肉体をいくばくも切り刻み、戦場へ走り、ダンジョンを潜り抜け、次から次へと敵をなぎ倒してきた。
そしてようやく悪の親玉を倒したのだ。その偉業を成し遂げたのは自分なのだぞ。
なのに。
「ほんと、裏切られた……」
落胆。
今の癒月の隣に息をひそめているのはその二文字のことばだった。
このままここで果てたら、あいつらどう思うだろうか。右手が取り上げられたモントトレーネを探り当てようとして蠢くが掴む柄を失ってただ虚しく空気を掴んだ。
けれど。
この牢に自分は閉じ込められていたとしても、癒月には厚い友情を交わした仲間たちがいる。幾たびもの死線を一緒になって潜り抜けてきた仲間たちだ。絶対、何とかしてくれる。そのはずだ。
前を向こう。暗くなっていてはだめだ。
癒月は自分を鼓舞するように上を向いた。そのとき。
「うう……おおぅ」
どこからか声がした。
「え? 俺のほかに誰かいるんですか?」
ずっとひとりだとばかり思っていた癒月は、自分の入れられている牢の向こう側にも同じように小部屋があることに気が付いた。
「いるよぉ」
少し低めの余ったる声。
「えっと、俺は癒月。っていっても、この世界の人からすると発音しずらいみたいなので、仲間にはユージィンだとかユーザと呼ばれています」
「あ、そう。癒月ね。はいはい」
「えっ!!」
すごい。
思わず癒月は鳥肌が立った。
この世界に転生してから一回も彼の名前を綺麗に発音できた者はいなかったからだ。
「わー、え、すごいですね」
「なにがー?」
しかし、その声の主はさもあらんといった風情で、にこやかな声を響かせていただけだった。
「ところで」
声の主が切り出した。
「お主はまさか自分が無罪になるとでも思っているのかな?」
必死に懇願するが、癒月は王城の地下牢へと閉じ込められた。
「今はまだ魔法院と王城にて沙汰がない。両者の協議の上でお前の処罰は決まるだろう」
「そんな!! 俺は無実だ!!」
「とにかく沙汰が下るまでここで静かにしているんだな」
ばたりと重たい鉄製の扉が閉まった。癒月に残ったのは、薄暗い室内。
地下牢。
癒月はただひとりこの狭い空間に閉じ込められたのだ。救いといってはなんだが、薄汚れたベッドもある。扉の前で叫ぶのに疲れて、癒月はその傍に寄った。スプリングの効かない簡易な木製のベッドだったが、そのマットレスに血の跡を見つけて、ぞっと背筋に冷たいものが走った。
俺が、何をしたというのだろう。
そのことばかり頭にめぐる。
何も悪いことなどしていない。
すべてはこの国のため、人類のために、薄汚い魔物たちの返り血を浴び続け、腐った匂いのする魔物の肉体をいくばくも切り刻み、戦場へ走り、ダンジョンを潜り抜け、次から次へと敵をなぎ倒してきた。
そしてようやく悪の親玉を倒したのだ。その偉業を成し遂げたのは自分なのだぞ。
なのに。
「ほんと、裏切られた……」
落胆。
今の癒月の隣に息をひそめているのはその二文字のことばだった。
このままここで果てたら、あいつらどう思うだろうか。右手が取り上げられたモントトレーネを探り当てようとして蠢くが掴む柄を失ってただ虚しく空気を掴んだ。
けれど。
この牢に自分は閉じ込められていたとしても、癒月には厚い友情を交わした仲間たちがいる。幾たびもの死線を一緒になって潜り抜けてきた仲間たちだ。絶対、何とかしてくれる。そのはずだ。
前を向こう。暗くなっていてはだめだ。
癒月は自分を鼓舞するように上を向いた。そのとき。
「うう……おおぅ」
どこからか声がした。
「え? 俺のほかに誰かいるんですか?」
ずっとひとりだとばかり思っていた癒月は、自分の入れられている牢の向こう側にも同じように小部屋があることに気が付いた。
「いるよぉ」
少し低めの余ったる声。
「えっと、俺は癒月。っていっても、この世界の人からすると発音しずらいみたいなので、仲間にはユージィンだとかユーザと呼ばれています」
「あ、そう。癒月ね。はいはい」
「えっ!!」
すごい。
思わず癒月は鳥肌が立った。
この世界に転生してから一回も彼の名前を綺麗に発音できた者はいなかったからだ。
「わー、え、すごいですね」
「なにがー?」
しかし、その声の主はさもあらんといった風情で、にこやかな声を響かせていただけだった。
「ところで」
声の主が切り出した。
「お主はまさか自分が無罪になるとでも思っているのかな?」
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