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✿後日譚
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撮影が終わった。
帰ってきた旅館の食堂で、酒田は聞きたかったことを尋ねてみた。
「そういえば、休憩の最中、大事そうにそれ、抱えてるけど、何なの?」
酒田に聞かれても、新崎はにやにやと締まりのない顔をしているので、なんとなくわかってしまった。
「さぁ? なんでしょう~?」
聞いたほうが馬鹿だったというべきだろう。
それにしても、こいつ、事務所が二枚目として売り出したいというのは知っていたが、本当に大丈夫なのだろうか。今の新崎はただの間抜けにしか見えない。いや、ただの間抜けだ。
現場ではあれほどハキハキと輝いていた男が――これである。
「なんつーか、罪づくりな男だよな」
「はあ!?」
「ああ、いや、新崎くんに言ったんじゃなくて……」
ま、いっか。
どうせ、あと三日で地方ロケも終わる。
✿
「し、しまったーっ!!」
新崎は帰ってきた東京の自室で包を開いた。中からはドロドロにコーティング・チョコレートの溶けたクッキーが出現した。
せっかく千尋にもらったのだから、撮影が終わってから、いただこうと思って、今まで食べずにいたのだ。
それをこれほど後悔するなんて。
「千尋さんにもらったものなのに~っ」
泣きつきたい気持ちになってスマホを取る。しかし、かけようと思った相手とは違う相手からの着信にそれは震えた。
「はい、新崎です」
「お疲れさまです。伊東です」
「あ、はい、お疲れさまです」
マネージャーだった。
「新崎さん。次、TV局からバラエティ番組の出演の仕事、大丈夫でふか?」
「え、あ、はいっ」
「今撮っているドラマの宣伝も兼ねて決まった話なので、しっかりお願いします。日程は……」
新崎は慌てて手帳を手に取る。
そうだ。
憂いてばかりではいられない。
前に、前に進んでいかなくては。
「あ、それと。近々、大きなオーディションがありますので」
「えっ」
「あとで詳しいこと、お伝えしますね」
やけに弾んでいるマネージャーの口調に、新崎は小さな胸騒ぎを感じた。けれど。
「はい! よろしくお願いします!!」
後日譚 (了)
帰ってきた旅館の食堂で、酒田は聞きたかったことを尋ねてみた。
「そういえば、休憩の最中、大事そうにそれ、抱えてるけど、何なの?」
酒田に聞かれても、新崎はにやにやと締まりのない顔をしているので、なんとなくわかってしまった。
「さぁ? なんでしょう~?」
聞いたほうが馬鹿だったというべきだろう。
それにしても、こいつ、事務所が二枚目として売り出したいというのは知っていたが、本当に大丈夫なのだろうか。今の新崎はただの間抜けにしか見えない。いや、ただの間抜けだ。
現場ではあれほどハキハキと輝いていた男が――これである。
「なんつーか、罪づくりな男だよな」
「はあ!?」
「ああ、いや、新崎くんに言ったんじゃなくて……」
ま、いっか。
どうせ、あと三日で地方ロケも終わる。
✿
「し、しまったーっ!!」
新崎は帰ってきた東京の自室で包を開いた。中からはドロドロにコーティング・チョコレートの溶けたクッキーが出現した。
せっかく千尋にもらったのだから、撮影が終わってから、いただこうと思って、今まで食べずにいたのだ。
それをこれほど後悔するなんて。
「千尋さんにもらったものなのに~っ」
泣きつきたい気持ちになってスマホを取る。しかし、かけようと思った相手とは違う相手からの着信にそれは震えた。
「はい、新崎です」
「お疲れさまです。伊東です」
「あ、はい、お疲れさまです」
マネージャーだった。
「新崎さん。次、TV局からバラエティ番組の出演の仕事、大丈夫でふか?」
「え、あ、はいっ」
「今撮っているドラマの宣伝も兼ねて決まった話なので、しっかりお願いします。日程は……」
新崎は慌てて手帳を手に取る。
そうだ。
憂いてばかりではいられない。
前に、前に進んでいかなくては。
「あ、それと。近々、大きなオーディションがありますので」
「えっ」
「あとで詳しいこと、お伝えしますね」
やけに弾んでいるマネージャーの口調に、新崎は小さな胸騒ぎを感じた。けれど。
「はい! よろしくお願いします!!」
後日譚 (了)
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