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 脱衣所に入ったとき、新崎は激しく後悔した。というのも、監督がいる。なのに、千尋はためらいもなく上着を脱ぎ棄てた。千尋のその体をほかの男に見せたくないのに、ここに連れてきたのは自分自身だ。
 今日ほど自分を憎いと思ったことはない。
「どうしたの? 新崎くん」
 急に落ち込んだから不安になったのだろう。千尋が心配そうに尋ねてくる。
「千尋さん……」
 うなだれていたが、彼のほうへと頭を上げたら――、見てしまった。
「はっ、え、あ!?」
 思わず変な声を出して、後ずさりする。まずい。そうはわかっているが、新崎はぼっと頬が爆発しそうな勢いで熱を持ち始めているのをどうしようもできなかった。
「あれ? ほっぺ赤くない? もう、まだ入ってないのに、のぼせちゃったの? きみが入りたいっていうから、ぼくだって覚悟を決めたのに」
「覚悟!? 覚悟って!?」
 いや、それ以上にまずい。視覚的にかなりまずい。とういうのも、千尋さんは裸だ。
 けれど、彼の肌を見てしまったからといって、取り乱すのはだめだ。絶対にだめだ。
 千尋本人がいるから、というのもあるのだが、そうじゃなくても周囲には監督もいる。第三者がいる。ばれてはいけない。
 いつもの、普段の、スマートな二枚目俳優としての、ああ、だめだ、こんなことを考えている時点でボロは出ている。それでも、クールにこの場をおさめていかなくてはならない。
 新崎の目の前に難題が降り注いだ。
「じゃあ、ぼく、先に行ってるね」
「えっ、あ、待ってください!! 俺もすぐに脱ぎますんで」
「じゃ、俺もお先に」
「か、監督!?」
 まずい。まずい、まずい、まずい。まずすぎる。
 監督と先に千尋さんを行かせてしまうなんて。そんな……!!
 新崎は慌てて服を脱ぎ捨てた。
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