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「おーい、千尋さーん」
 監督がひょっこりと顔を出した。
「旅館のひとに聞いたらオッケーだって」
「へ? 何が?」
「夕食。食べていくだろ?」
「あ、ああ。そうか。わざわざありがとう」
「それから部屋なんだけど」
「部屋っ!? いいよ。ぼくはぼくで自分でホテルとってるし」
「どうせ、安いからってビジネス・ホテルとかカプセル・ホテルとかだろ? 足伸ばしてゆっくりしてげよ」
「いいって……」
 正直、むっとする。新崎は監督に横入りされたようで少し腹を立てた。しかし、ふたりの間にどうと割ってでることもできない。ただ黙っている。その選択。
「いいじゃん。俺の隣の部屋、もともと空き室だったっていうんでさ。布団、運び入れてもらったから、泊んな? な?」
「でも、それって……。それにぼく、撮影関係者じゃないし」
「おーわ、お堅い。そんなバキバキだから千尋さんは一皮むきたくなるんだよ」
「それはさせません!!」
 思わず、叫んでしまった。
 大声を上げた新崎に、千尋と監督の視線が突き刺さる。
「おいおい、むくったってそりゃ、本気でむきにいくわけじゃないぞ」
「あ、いや、その……すみません」
「ああ、そういうや、新崎くんって、千尋さんのファンだったんだっけ?」
「あ、えっと……」
「たしか劇団にいたころ、めちゃくちゃ付きまとわれてたって千尋さんから……」
「は、話したんですか!?」
「話されたっていうか語られた。めちゃくちゃな熱量で、今の若い子がねぇって。ほんと、千尋さんそんなに年寄りかよって感じ」
「な……」
 ガツンと後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃だった。それが、何を意味しているのかも、新崎にはわかっていた。
 嫉妬。そして、悔しさ。
 監督が千尋と仲がいいということに嫉妬して。監督が千尋のあらゆる面のことを知っていることが悔しくて。
 だからといって、ここで泣いて叫ぶわけにもいかない。千尋が自分を選んだと自慢してやることだって――そんなことしたら破滅しかない。
「それより、食事まで時間あるし、風呂行かないかい?」
「え……でも……ぼくは」
「行きます! 俺は、監督と千尋さんと、ご一緒します!」
「新崎くん……って、ひっぱらないでよ」
 新崎は千尋の腕を引いた。
「お風呂、こっちです!」
「いや、あの、あのねぇ……」
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