5 / 13
✿5.
しおりを挟む
「おーい、千尋さーん」
監督がひょっこりと顔を出した。
「旅館のひとに聞いたらオッケーだって」
「へ? 何が?」
「夕食。食べていくだろ?」
「あ、ああ。そうか。わざわざありがとう」
「それから部屋なんだけど」
「部屋っ!? いいよ。ぼくはぼくで自分でホテルとってるし」
「どうせ、安いからってビジネス・ホテルとかカプセル・ホテルとかだろ? 足伸ばしてゆっくりしてげよ」
「いいって……」
正直、むっとする。新崎は監督に横入りされたようで少し腹を立てた。しかし、ふたりの間にどうと割ってでることもできない。ただ黙っている。その選択。
「いいじゃん。俺の隣の部屋、もともと空き室だったっていうんでさ。布団、運び入れてもらったから、泊んな? な?」
「でも、それって……。それにぼく、撮影関係者じゃないし」
「おーわ、お堅い。そんなバキバキだから千尋さんは一皮むきたくなるんだよ」
「それはさせません!!」
思わず、叫んでしまった。
大声を上げた新崎に、千尋と監督の視線が突き刺さる。
「おいおい、むくったってそりゃ、本気でむきにいくわけじゃないぞ」
「あ、いや、その……すみません」
「ああ、そういうや、新崎くんって、千尋さんのファンだったんだっけ?」
「あ、えっと……」
「たしか劇団にいたころ、めちゃくちゃ付きまとわれてたって千尋さんから……」
「は、話したんですか!?」
「話されたっていうか語られた。めちゃくちゃな熱量で、今の若い子がねぇって。ほんと、千尋さんそんなに年寄りかよって感じ」
「な……」
ガツンと後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃だった。それが、何を意味しているのかも、新崎にはわかっていた。
嫉妬。そして、悔しさ。
監督が千尋と仲がいいということに嫉妬して。監督が千尋のあらゆる面のことを知っていることが悔しくて。
だからといって、ここで泣いて叫ぶわけにもいかない。千尋が自分を選んだと自慢してやることだって――そんなことしたら破滅しかない。
「それより、食事まで時間あるし、風呂行かないかい?」
「え……でも……ぼくは」
「行きます! 俺は、監督と千尋さんと、ご一緒します!」
「新崎くん……って、ひっぱらないでよ」
新崎は千尋の腕を引いた。
「お風呂、こっちです!」
「いや、あの、あのねぇ……」
監督がひょっこりと顔を出した。
「旅館のひとに聞いたらオッケーだって」
「へ? 何が?」
「夕食。食べていくだろ?」
「あ、ああ。そうか。わざわざありがとう」
「それから部屋なんだけど」
「部屋っ!? いいよ。ぼくはぼくで自分でホテルとってるし」
「どうせ、安いからってビジネス・ホテルとかカプセル・ホテルとかだろ? 足伸ばしてゆっくりしてげよ」
「いいって……」
正直、むっとする。新崎は監督に横入りされたようで少し腹を立てた。しかし、ふたりの間にどうと割ってでることもできない。ただ黙っている。その選択。
「いいじゃん。俺の隣の部屋、もともと空き室だったっていうんでさ。布団、運び入れてもらったから、泊んな? な?」
「でも、それって……。それにぼく、撮影関係者じゃないし」
「おーわ、お堅い。そんなバキバキだから千尋さんは一皮むきたくなるんだよ」
「それはさせません!!」
思わず、叫んでしまった。
大声を上げた新崎に、千尋と監督の視線が突き刺さる。
「おいおい、むくったってそりゃ、本気でむきにいくわけじゃないぞ」
「あ、いや、その……すみません」
「ああ、そういうや、新崎くんって、千尋さんのファンだったんだっけ?」
「あ、えっと……」
「たしか劇団にいたころ、めちゃくちゃ付きまとわれてたって千尋さんから……」
「は、話したんですか!?」
「話されたっていうか語られた。めちゃくちゃな熱量で、今の若い子がねぇって。ほんと、千尋さんそんなに年寄りかよって感じ」
「な……」
ガツンと後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃だった。それが、何を意味しているのかも、新崎にはわかっていた。
嫉妬。そして、悔しさ。
監督が千尋と仲がいいということに嫉妬して。監督が千尋のあらゆる面のことを知っていることが悔しくて。
だからといって、ここで泣いて叫ぶわけにもいかない。千尋が自分を選んだと自慢してやることだって――そんなことしたら破滅しかない。
「それより、食事まで時間あるし、風呂行かないかい?」
「え……でも……ぼくは」
「行きます! 俺は、監督と千尋さんと、ご一緒します!」
「新崎くん……って、ひっぱらないでよ」
新崎は千尋の腕を引いた。
「お風呂、こっちです!」
「いや、あの、あのねぇ……」
3
✿ 新崎×千尋 過去作一覧 ✿
1.delete=number/2.目指す道の途中で/3.追いつく先においついて4.ご飯でもお風呂でもなくて/5.可愛いに負けてる/6.チョコレートのお返し、ください。/6.膝小僧を擦りむいて
1.delete=number/2.目指す道の途中で/3.追いつく先においついて4.ご飯でもお風呂でもなくて/5.可愛いに負けてる/6.チョコレートのお返し、ください。/6.膝小僧を擦りむいて
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
憧れが恋に変わったそのあとに――俳優×脚本家SS
阿沙🌷
BL
新進気鋭の今をときめく若手俳優・新崎迅人と、彼の秘密の恋人である日曜脚本家・千尋崇彦。
年上で頼れる存在で目標のようなひとであるのに、めちゃくちゃ千尋が可愛くてぽんこつになってしまう新崎と、年下の明らかにいい男に言い寄られて彼に落とされたのはいいけれど、どこか不安が付きまといつつ、彼が隣にいると安心してしまう千尋のかなーりのんびりした掌編などなど。
やまなし、いみなし、おちもなし。
昔書いたやつだとか、サイトに載せていたもの、ツイッターに流したSS、創作アイディアとか即興小説だとか、ワンライとかごった煮。全部単発ものだし、いっかーという感じのノリで載せています。
このお話のなかで、まじめに大人している大人はいません。みんな、ばぶうぅ。
初夢はサンタクロース
阿沙🌷
BL
大きなオーディションに失敗した新人俳優・新崎迅人を恋人に持つ日曜脚本家の千尋崇彦は、クリスマス当日に新崎が倒れたと連絡を受ける。原因はただの過労であったが、それから彼に対してぎくしゃくしてしまって――。
「千尋さん、俺、あなたを目指しているんです。あなたの隣がいい。あなたの隣で胸を張っていられるように、ただ、そうなりたいだけだった……なのに」
顔はいいけれど頭がぽんこつ、ひたむきだけど周りが見えない年下攻め×おっとりしているけれど仕事はバリバリな多分天然(?)入りの年上受け
俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)の、クリスマスから大晦日に至るまでの話、多分、そうなる予定!!
※年末までに終わらせられるか書いている本人が心配です。見切り発車で勢いとノリとクリスマスソングに乗せられて書き始めていますが、その、えっと……えへへ。まあその、私、やっぱり、年上受けのハートに年下攻めの青臭い暴走的情熱がガツーンとくる瞬間が最高に萌えるのでそういうこと(なんのこっちゃ)。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる