チョコレートのお返し、ください。

阿沙🌷

文字の大きさ
上 下
2 / 13

✿2.

しおりを挟む
「おっと、新崎くんのその笑い方がでてきたということは、何か重要な意味があるということですな!」
 しかし、それは完全に逆効果だったということに気が付く。
「なっ!」
「酒井のおじさんをなめるなよぉ。こちとら俳優、人間観察が趣味! 新崎くんの笑い方の癖なんてとっくに知っているんだからな!」
 ば、ばれてる!?
「はーい、そろそろ次のシーン、行きます! 新崎くん、スタンバイお願いします」
「は、はい!」
 助け舟か。スタッフから声がかかった。新崎はそそくさと立ち上がる。そのとき。
「え……!?」
 新崎は、現場の端のほうにある人影を見つけて、唖然とした。
「どうしたの? 新崎くん?」
 立ち尽くしたままの新崎に撮影スタッフが近寄る。
「あ、いいえ。別に……」
 そう。それは絶対に気のせいに違いない。
 と、いうのも、新崎が見た気がした・・・・人影は、彼が会いたくてしかたがない人、千尋そのひとのものに見えたからだ。
 だが、千尋は東京にいるはずだ。こんな場所にいるはずがない。
 新崎はメイクを崩さないように気を付けながら、自分の頬を叩いた。
 寝ぼけているのなら、そんなもの、どこかに振り捨てて、今はただ集中する。目の前のことに! 演技に! 自分のできることに! これから自分がすること、すべて、一挙一動に全神経を注げ! 自分にしかできない演技コトをしろ!!



「はい、カット!」
 監督の声が高らかに春の空に響き渡った。
「オーケイです。新崎くん、少し休んで」
「は、はい!」
 新崎は再びパイプ椅子へと戻る。喉が渇いた。マネージャーが慌ててペットボトルを差し出す。ふたをあけて、口をつける。喉奥へと水を流し込んだ。その冷たい感触が食堂を通って胃へと落ちていくのを感じる。心地がいい。
「大丈夫ですか? 新崎さん」
「ああ。うん」
「今日はあと、ワンシーン撮って、終わりだそうです」
「はい、頑張ります!」
 小休憩を取ったあと、また声がかかった。
「新崎くん、スタンバイ、お願いします!」
「はい!!」
 新崎はカメラの前に立った。



「はい、お疲れさまです。今日の撮影はこれまで!」
 その一声に、新崎の全身から力が抜けた。立っていられなくなり、ふらりと地面に倒れる。
「新崎くん!?」
 近くにいた酒井が飛んできた。
「大丈夫!?」
「あ……はい。いや、あの、緊張が急に抜けちゃって」
「まったくもう。困った後輩だな」
 そう言って笑みをたたえた酒井を見て、そして、その奥にものすごい形相で佇んでいたひとを見た。
「……! 千尋さん!!」
 思わず声に出して叫んでしまう。そのひとの名を。
「え?」
 酒井が驚いて、振り返った。その先に、千尋はいた。
 そう、夢などではない。駆け寄ってきた千尋の顔面は真っ青だった。
「新崎くん!?」
 その声。まさしく千尋のものだった。
「大丈夫ですか?」
 マネージャーも飛び出してくる。新崎は恥ずかしさに頬を赤く染めて、立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

憧れが恋に変わったそのあとに――俳優×脚本家SS

阿沙🌷
BL
新進気鋭の今をときめく若手俳優・新崎迅人と、彼の秘密の恋人である日曜脚本家・千尋崇彦。 年上で頼れる存在で目標のようなひとであるのに、めちゃくちゃ千尋が可愛くてぽんこつになってしまう新崎と、年下の明らかにいい男に言い寄られて彼に落とされたのはいいけれど、どこか不安が付きまといつつ、彼が隣にいると安心してしまう千尋のかなーりのんびりした掌編などなど。 やまなし、いみなし、おちもなし。 昔書いたやつだとか、サイトに載せていたもの、ツイッターに流したSS、創作アイディアとか即興小説だとか、ワンライとかごった煮。全部単発ものだし、いっかーという感じのノリで載せています。 このお話のなかで、まじめに大人している大人はいません。みんな、ばぶうぅ。

初夢はサンタクロース

阿沙🌷
BL
大きなオーディションに失敗した新人俳優・新崎迅人を恋人に持つ日曜脚本家の千尋崇彦は、クリスマス当日に新崎が倒れたと連絡を受ける。原因はただの過労であったが、それから彼に対してぎくしゃくしてしまって――。 「千尋さん、俺、あなたを目指しているんです。あなたの隣がいい。あなたの隣で胸を張っていられるように、ただ、そうなりたいだけだった……なのに」 顔はいいけれど頭がぽんこつ、ひたむきだけど周りが見えない年下攻め×おっとりしているけれど仕事はバリバリな多分天然(?)入りの年上受け 俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)の、クリスマスから大晦日に至るまでの話、多分、そうなる予定!! ※年末までに終わらせられるか書いている本人が心配です。見切り発車で勢いとノリとクリスマスソングに乗せられて書き始めていますが、その、えっと……えへへ。まあその、私、やっぱり、年上受けのハートに年下攻めの青臭い暴走的情熱がガツーンとくる瞬間が最高に萌えるのでそういうこと(なんのこっちゃ)。

お月見には間に合わない

阿沙🌷
BL
新米俳優の新崎迅人は、愛する恋人千尋崇彦に別れを告げて、W県まで撮影ロケに来た。 そこで観光していた漫画家の松葉ゆうと彼の連れである門倉史明に遭遇。阿鼻叫喚のなか、彼は無事に千尋のもとへと帰れるのか――!! 相変わらずテンションだけで書き殴ったお月見ものです。去年は松宮侑汰の話を書いていたので、今年は新崎たちのものを。 ✿去年のお月見SS→https://www.alphapolis.co.jp/novel/54693141/462546940「月見に誘う」 ✿松宮門倉の旅行風景(?)→https://www.alphapolis.co.jp/novel/54693141/141663922"「寝顔をとらせろ」

龍神様の神使

石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。 しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。 そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。 ※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

台本、見られまして

阿沙🌷
BL
新進気鋭のイケメン若手役者、新崎迅人は居間で次の仕事の台本を読んでいた。何を隠そう、次に演じるのは彼の愛しいひと、千尋崇彦の好きな小説家の作品を原作にしたSFドラマだ。そのことを新崎は必死に隠そうとしていたのだが――。

憧れが恋に変わったそのあとに――俳優×日曜脚本家SS掌編集!!

阿沙🌷
BL
新人俳優の新崎迅人と日曜脚本家の千尋崇彦のいちゃいちゃなSS詰め!のつもり!

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

処理中です...