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桃色ほっぺ
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気になるやつがいます。クラスメイト。
母方の実家から贈られてきた中身パンパンの段ボールを開封したとき、思わず彼のことを思い出してしまい、俺は母が隣にいることすら忘れてしまった。だから彼女に声をかけられて、びくりと肩を震わせてしまう。
「なに、にやついてんの?」
「べ、べつに」
「ふーん。あんた、そんなに、桃、すきだったったっけ?」
丁寧に梱包された箱の中身は桃だった。毎年、この時期になると送られてくる。母方側は農家をやっているのだ。
「いいだろ、別に」
まさか、桃を見て別のことを考えていただなんて、口が裂けても言えやしない。それも、同級生、男の――。
「ま、いいけど、コレ、しまうの手伝ってよね」
「あいあい」
我が家の女王の指図は絶対だ。俺は一抱えもある段ボールを抱えて、台所へと向かった。
✿
「へー、だから、今日も桃尽くしなんだ」
昼休み。騒がしい教室をバックに友人と弁当を囲んでいた。
「桃尽くしってお前……」
「デザートでいつもパックに入れて持ってきているからさぁ」
「尽くしてはないだろ、尽くしては」
「それにしてもうまそうだな。ひとくちくれよ」
「あいあい、どうぞどうぞ」
勝手にとられていく皮をむかれて一口サイズにカットされた果実たち。ぽいぽいと友人の大きな口の中に放り込まれていくのをただ見ていた。
その背後にふと揺れる人影を見た。
あ、あいつ。
「どした?」
友人がぼーっと彼の肩越しに教室の奥を眺めている俺に対して声をかけた。
「あ、えっとべつに」
「桃、取られたのが悔しいのか」
「ぜんぜん」
違う、そうじゃない。
彼を見ていたのだ。
突然、何か思うことがあったのか、彼が後ろを振り向いた。俺の視線の先を辿るようにして、彼の存在に気付かれてしまう。
「お前なぁ」
にやにやと友人が不気味な笑みを浮かべる。
「最近、あいつにお熱だよなぁ」
「ばっ、ばかなこと、言うなよ」
「うーわ、本気になった。ほらな。だから、絶対ガチなやつじゃん」
「ふざけるなって!」
着崩すことなくぴっちりと着こまれた制服の、前髪さえ乱したことのないようなやつ。地味でいつも端っこにいるようなやつ。それなのに、妙に色白の色っぽい肌をしていて、特に頬がやばい。
ふっくらとしていてきっと中身はジューシーだ。うっすらと生えた産毛に、すこし桃色がかったその部分は人間の体の一部とは思えないほど、美味しそうに思えてしまう。
いや、だからといって、やつはクラスメイトで男だ。それも、話しかけたことすらないのに。
「いーんじゃないの。ザ・青春って感じで。敵わぬ恋を知ることも大人になる一歩ってことじゃないでしょうかなー」
てきとうなことをいう友人の戯言を右から左に流して、それでも俺の瞳は彼を追おうとする。
ああ、自分でもばかなことだって、わかっちゃいるんだけど。
(了)
母方の実家から贈られてきた中身パンパンの段ボールを開封したとき、思わず彼のことを思い出してしまい、俺は母が隣にいることすら忘れてしまった。だから彼女に声をかけられて、びくりと肩を震わせてしまう。
「なに、にやついてんの?」
「べ、べつに」
「ふーん。あんた、そんなに、桃、すきだったったっけ?」
丁寧に梱包された箱の中身は桃だった。毎年、この時期になると送られてくる。母方側は農家をやっているのだ。
「いいだろ、別に」
まさか、桃を見て別のことを考えていただなんて、口が裂けても言えやしない。それも、同級生、男の――。
「ま、いいけど、コレ、しまうの手伝ってよね」
「あいあい」
我が家の女王の指図は絶対だ。俺は一抱えもある段ボールを抱えて、台所へと向かった。
✿
「へー、だから、今日も桃尽くしなんだ」
昼休み。騒がしい教室をバックに友人と弁当を囲んでいた。
「桃尽くしってお前……」
「デザートでいつもパックに入れて持ってきているからさぁ」
「尽くしてはないだろ、尽くしては」
「それにしてもうまそうだな。ひとくちくれよ」
「あいあい、どうぞどうぞ」
勝手にとられていく皮をむかれて一口サイズにカットされた果実たち。ぽいぽいと友人の大きな口の中に放り込まれていくのをただ見ていた。
その背後にふと揺れる人影を見た。
あ、あいつ。
「どした?」
友人がぼーっと彼の肩越しに教室の奥を眺めている俺に対して声をかけた。
「あ、えっとべつに」
「桃、取られたのが悔しいのか」
「ぜんぜん」
違う、そうじゃない。
彼を見ていたのだ。
突然、何か思うことがあったのか、彼が後ろを振り向いた。俺の視線の先を辿るようにして、彼の存在に気付かれてしまう。
「お前なぁ」
にやにやと友人が不気味な笑みを浮かべる。
「最近、あいつにお熱だよなぁ」
「ばっ、ばかなこと、言うなよ」
「うーわ、本気になった。ほらな。だから、絶対ガチなやつじゃん」
「ふざけるなって!」
着崩すことなくぴっちりと着こまれた制服の、前髪さえ乱したことのないようなやつ。地味でいつも端っこにいるようなやつ。それなのに、妙に色白の色っぽい肌をしていて、特に頬がやばい。
ふっくらとしていてきっと中身はジューシーだ。うっすらと生えた産毛に、すこし桃色がかったその部分は人間の体の一部とは思えないほど、美味しそうに思えてしまう。
いや、だからといって、やつはクラスメイトで男だ。それも、話しかけたことすらないのに。
「いーんじゃないの。ザ・青春って感じで。敵わぬ恋を知ることも大人になる一歩ってことじゃないでしょうかなー」
てきとうなことをいう友人の戯言を右から左に流して、それでも俺の瞳は彼を追おうとする。
ああ、自分でもばかなことだって、わかっちゃいるんだけど。
(了)
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