3 / 6
ソドムの館
✿Chapter2.1
しおりを挟む
室路は、ベッドの上で熟睡している次郎をおこさないように静かに上体を起こした。寝始めると完全に睡眠にとりつかれる彼の体質からは物音さえ気をつければ大丈夫だ。男はゆっくりと足を滑らせてベッドを降りると、床に散らばった衣服をかき集めた。そっと、上着だけを全裸の皮膚にまとわせる。
深夜はご主人のお相手をしなければならない。廊下に誰もいないことを確認して素早く次郎の私室を後にする。夜十一時を過ぎれば屋敷のなかに使用人はいなくなる。けれど、自分が裸体に上着をまとっただけの姿であることを考慮して慎重に、そして素早く廊下を走り、突き当たりの部屋に逃げ込んだ。
正直に云って、これから行われることを考えると室路は改めて服装を正すことも面倒に思われた。主人の息子の穴に腰を振った重たい身体のまま、ため息をつく。
室内の本棚を確認する。そっと所定の蔵書を抜き取ると、本棚の奥板に急にプラスチックじみたものが現れる。九桁の数字盤だ。暗号四文字を順番通りに押すと、鈍い音を立てて重たい本棚が動いた。本棚の下から現れたのは下へと続く階段だ。暗闇に飲まれ数段先は見えない。だが確実にあの部屋へと続いている。室路は、ゆっくりと右足を踏み出した。ひたりと足裏に伝わるコンクリートの冷たい感触にぞくりと背中がざわめく。それでも、与えられた使命を全うするために、男は意を決して奥へと突き進んだ。
永遠に続くかと思えた下降階段。手すりなど便利なものはなくどこまでも段差が下へ下へと広がっていく乱暴なまでに簡素な造り。それを一段一段進んでいく室路は自分がどんどん堕落の一途をたどって行っているような重たい感覚を味わう。それでも、彼の肩に背負わされている莫大な桁の金額が室路へとのしかかり堕落へとそそのかす。いや、家の代々の借金ではない。男の手によって与えられる行為に肉体が悦を覚え、ゆっくりと染まり始めているという事実が冷たい地下室への道のりの中でも、はっきりとカタチを表し始めている。まだ何もされていないというのに室路の下半身は硬くなり始めていた。先ほどまでさんざん次郎を抱いたというのに。
明かりが見えてきた。
ささやかながらも目指す場所が見えてきたことで室路は緊張し、彼の体は心拍数をあげた。その鼓動は決して緊張だけではなかった。今宵の遊戯に対する微かな期待のようなものを高鳴りをあげている自身の心臓に感じ取り室路はもう自分の身体が自分のものではないようなおぞましさを感じながらも、突き当りまで進んだ。鉄製の扉を開けると、むわっと地下特有のそれだけではない歪で腐れ切った不穏な空気に包まれる。廊下の先へと進むと、広い空間に出た。
「待ってたよ。束絵くん」
「ご主人さま……」
「それにしても、乱れた格好だね」
薄暗い室内の中には、見るだけでぞっとするような器具が並べられた空間だった。奥には他にも部屋があることを室路は知っている。
そこにいたのは、次郎の父である二ノ宮虎太郎氏であった。四十を過ぎた中年の男は、室路のはしたない恰好を一目して、にやりと不気味に笑みをつくった。昼間とは別人だ。それは、初めてこの館の裏の場所を知ったときからの室路の感想である。
「待ちくたびれたよ。きみはたいそう次郎に可愛がられたそうじゃないか」
頭の頂点から足の先までじっくりと室路をなめまわすように眺める男は、楽しそうに肩を小さく揺らした。
「それじゃまず、遅れたことから詫びてもらおうかな。四つん這いになりなさい」
室内に響くは主の命令。室路はゆっくりと床に手をついた。
「いい子だ。何をすればいいのか、お前は分かるだろう」
「はい。ご主人様」
室路は四足でゆっくりと男の足元にすり寄った。甘えるように身体を摺り寄せた。男が足を動かして靴の上に室路の顎を乗せる。無理やり上を向かされた室路に男は言った。
「舐めなさい」
深夜はご主人のお相手をしなければならない。廊下に誰もいないことを確認して素早く次郎の私室を後にする。夜十一時を過ぎれば屋敷のなかに使用人はいなくなる。けれど、自分が裸体に上着をまとっただけの姿であることを考慮して慎重に、そして素早く廊下を走り、突き当たりの部屋に逃げ込んだ。
正直に云って、これから行われることを考えると室路は改めて服装を正すことも面倒に思われた。主人の息子の穴に腰を振った重たい身体のまま、ため息をつく。
室内の本棚を確認する。そっと所定の蔵書を抜き取ると、本棚の奥板に急にプラスチックじみたものが現れる。九桁の数字盤だ。暗号四文字を順番通りに押すと、鈍い音を立てて重たい本棚が動いた。本棚の下から現れたのは下へと続く階段だ。暗闇に飲まれ数段先は見えない。だが確実にあの部屋へと続いている。室路は、ゆっくりと右足を踏み出した。ひたりと足裏に伝わるコンクリートの冷たい感触にぞくりと背中がざわめく。それでも、与えられた使命を全うするために、男は意を決して奥へと突き進んだ。
永遠に続くかと思えた下降階段。手すりなど便利なものはなくどこまでも段差が下へ下へと広がっていく乱暴なまでに簡素な造り。それを一段一段進んでいく室路は自分がどんどん堕落の一途をたどって行っているような重たい感覚を味わう。それでも、彼の肩に背負わされている莫大な桁の金額が室路へとのしかかり堕落へとそそのかす。いや、家の代々の借金ではない。男の手によって与えられる行為に肉体が悦を覚え、ゆっくりと染まり始めているという事実が冷たい地下室への道のりの中でも、はっきりとカタチを表し始めている。まだ何もされていないというのに室路の下半身は硬くなり始めていた。先ほどまでさんざん次郎を抱いたというのに。
明かりが見えてきた。
ささやかながらも目指す場所が見えてきたことで室路は緊張し、彼の体は心拍数をあげた。その鼓動は決して緊張だけではなかった。今宵の遊戯に対する微かな期待のようなものを高鳴りをあげている自身の心臓に感じ取り室路はもう自分の身体が自分のものではないようなおぞましさを感じながらも、突き当りまで進んだ。鉄製の扉を開けると、むわっと地下特有のそれだけではない歪で腐れ切った不穏な空気に包まれる。廊下の先へと進むと、広い空間に出た。
「待ってたよ。束絵くん」
「ご主人さま……」
「それにしても、乱れた格好だね」
薄暗い室内の中には、見るだけでぞっとするような器具が並べられた空間だった。奥には他にも部屋があることを室路は知っている。
そこにいたのは、次郎の父である二ノ宮虎太郎氏であった。四十を過ぎた中年の男は、室路のはしたない恰好を一目して、にやりと不気味に笑みをつくった。昼間とは別人だ。それは、初めてこの館の裏の場所を知ったときからの室路の感想である。
「待ちくたびれたよ。きみはたいそう次郎に可愛がられたそうじゃないか」
頭の頂点から足の先までじっくりと室路をなめまわすように眺める男は、楽しそうに肩を小さく揺らした。
「それじゃまず、遅れたことから詫びてもらおうかな。四つん這いになりなさい」
室内に響くは主の命令。室路はゆっくりと床に手をついた。
「いい子だ。何をすればいいのか、お前は分かるだろう」
「はい。ご主人様」
室路は四足でゆっくりと男の足元にすり寄った。甘えるように身体を摺り寄せた。男が足を動かして靴の上に室路の顎を乗せる。無理やり上を向かされた室路に男は言った。
「舐めなさい」
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説








ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる