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✿
「竹野!! 殺す!!」
「朝からぶっそうだなあ」
しかし、口調の荒さとは逆に、包丁を持っているのは竹野の方だった。
竹野は起きれない有馬に代わって、朝食をつくっているのだ。
あの後、一回やったあとに、竹野の使っているベッドがぐしゃぐしゃになったという口実をつかって竹野が、夜、有馬の布団の中に潜り込んで来て、二戦を迎えた。
悪夢なのは、事後処理の下手さだ。おかげで、臀部が痛い有馬は起き上がれない。
「はい。とりあえず、朝ごはん」
「お前の作る料理ってなんか和風だよな」
白米に味噌汁に焼き酒にたくわん。小鉢にほうれん草のおひたし、納豆。食卓に並んだものを見て、有馬が苦しそうに起き上がる。
「お尻、生きてる?」
「死んでる。くそ、お前、絶対に許さない」
「家、出てぐ?」
「……それはかんにんしてください」
「じゃ、ご飯食べてげんきだして。今日、午前中、授業ないんでしょ。寝て」
「バイトがあります」
「出られそうにないから、連絡して」
「俺の給料減るんだけど」
「……スクール水着、着てくれたら、五千円」
「安っ! つか、お前、やっぱり、俺のこと、絶対にそう見てるだろ!」
「いやいや、違う。昨日のはまじのまじだって。いい資料……とはいえなかったけど。やっぱり、男と女の骨格ってちがうからさあ」
「はあ?! じゃあ、俺じゃなくても、つーか、俺じゃないほうがよかったじゃんか! うーわ! うーわ!」
「……だからって、女の子にモデル頼むと、ほら、誰かさんが焼いちゃうから」
「は?」
「え?」
「は?」
「え? ええ?」
焼く? 誰が?
目を丸くした有馬に竹野は大きなため息をついた。
「あー、いいや、いまのナシ」
「えええ、おい、待て。誰がどういう勘違いしたらそういう考えになるんだ?」
「いいからご飯にしましょう。俺はショックを受けているので、すこしイライラしています」
「……は?」
✿
――さあ、これを着たまえ。そして、ポーズを取ってくれ――
最初、女物のそれを有馬の目の前に出したときの彼はぎょっとしていた。
どうしても、実家にいられず、また、自分で家賃を全額支払うのに難がある、ということで、有馬が居候を狙っていることは、竹野もじゅうぶん理解していた。
せっかくだから、さ。資料になってよ。
そのくらい軽い関係でスタートしたのだが。
いつの間にか、のめり込みそうになってしまったのは竹野のほうだった。
――なあ、これ、こんなの、俺だから許されたんであって、きっと他の誰かにこんなこと、頼んでみろよ、そしたら、もうお前なんて刑務所行きだからな――
そんなこと、彼に言われたから、舞い上が手しまうくらいに。
竹野は有馬をひとり部屋に残したまま、玄関のカギを閉めた。
まいったもんだ。
(了)
「竹野!! 殺す!!」
「朝からぶっそうだなあ」
しかし、口調の荒さとは逆に、包丁を持っているのは竹野の方だった。
竹野は起きれない有馬に代わって、朝食をつくっているのだ。
あの後、一回やったあとに、竹野の使っているベッドがぐしゃぐしゃになったという口実をつかって竹野が、夜、有馬の布団の中に潜り込んで来て、二戦を迎えた。
悪夢なのは、事後処理の下手さだ。おかげで、臀部が痛い有馬は起き上がれない。
「はい。とりあえず、朝ごはん」
「お前の作る料理ってなんか和風だよな」
白米に味噌汁に焼き酒にたくわん。小鉢にほうれん草のおひたし、納豆。食卓に並んだものを見て、有馬が苦しそうに起き上がる。
「お尻、生きてる?」
「死んでる。くそ、お前、絶対に許さない」
「家、出てぐ?」
「……それはかんにんしてください」
「じゃ、ご飯食べてげんきだして。今日、午前中、授業ないんでしょ。寝て」
「バイトがあります」
「出られそうにないから、連絡して」
「俺の給料減るんだけど」
「……スクール水着、着てくれたら、五千円」
「安っ! つか、お前、やっぱり、俺のこと、絶対にそう見てるだろ!」
「いやいや、違う。昨日のはまじのまじだって。いい資料……とはいえなかったけど。やっぱり、男と女の骨格ってちがうからさあ」
「はあ?! じゃあ、俺じゃなくても、つーか、俺じゃないほうがよかったじゃんか! うーわ! うーわ!」
「……だからって、女の子にモデル頼むと、ほら、誰かさんが焼いちゃうから」
「は?」
「え?」
「は?」
「え? ええ?」
焼く? 誰が?
目を丸くした有馬に竹野は大きなため息をついた。
「あー、いいや、いまのナシ」
「えええ、おい、待て。誰がどういう勘違いしたらそういう考えになるんだ?」
「いいからご飯にしましょう。俺はショックを受けているので、すこしイライラしています」
「……は?」
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――さあ、これを着たまえ。そして、ポーズを取ってくれ――
最初、女物のそれを有馬の目の前に出したときの彼はぎょっとしていた。
どうしても、実家にいられず、また、自分で家賃を全額支払うのに難がある、ということで、有馬が居候を狙っていることは、竹野もじゅうぶん理解していた。
せっかくだから、さ。資料になってよ。
そのくらい軽い関係でスタートしたのだが。
いつの間にか、のめり込みそうになってしまったのは竹野のほうだった。
――なあ、これ、こんなの、俺だから許されたんであって、きっと他の誰かにこんなこと、頼んでみろよ、そしたら、もうお前なんて刑務所行きだからな――
そんなこと、彼に言われたから、舞い上が手しまうくらいに。
竹野は有馬をひとり部屋に残したまま、玄関のカギを閉めた。
まいったもんだ。
(了)
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