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成人式の日
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テレビをつけたらニュースで今年の成人式を放送していた。千尋崇彦は小さくため息をついた。
「あ、今日、成人の日なんですね」
隣から新崎迅人の声がする。
演技を生業としている彼と、出版社勤務の兼業物書きである千尋の休日はなかなか噛み合わないことも多い。けれど、暇さえあれば新崎は千尋の自宅に寄るようにしている。今日、ふたりがソファに座りながらテレビを眺めているのも、ふたりにとっては貴重な時間だ。
「これで今年も新崎くんの後輩が増えたね」
千尋がのんびりとそう言った。テレビ画面の子たちも若いが新崎はまだ二十代前半。ぴちぴちだ。
「はい、千尋さんの後輩もこれで増えますね」
にこにこと微笑みを浮かべながら新崎が言った。
「そういえば、千尋さん。千尋さんが十八歳の頃ってどんなでしたか?」
「え?」
「なんか、会ってみたいです。俺より年下の千尋さん」
千尋は苦笑いしながら答えた。
「ぼくの時代は二十歳だったからなぁ」
「え、あ、え、ええと、それじゃあ、二十歳の頃の千尋さんのこと、教えてください!」
新崎の頬が真っ赤に染まった。千尋とは年の差がある。ありすぎる。
「えー、そうは言われても、今とだいぶかわらないよ。っていっても、見た目はこんなに老けちゃったけど」
千尋は目の前の新崎のころころと変わる表情が面白くて、笑いそうになるのを噛み殺して言った。
「何を!? 今の千尋さんだってめちゃくちゃ幼いのに!?」
「……幼い?」
「だって、こんなにもぷるぷるしてて、可愛いのに! 老人ぶらないでください!」
「いや、実際、中年だし。老人に一歩片足踏み入れているし」
「でも実際、千尋さんほど可愛らしいかたに俺、会ったことありません!」
「……あの、新崎くん?」
「千尋さんは可愛いんです! それだけじゃなくて、とってもきれいなんです! それに年上の魅力?というか年上の余裕?というか、そういうまとっているオーラそのものがとてもとても素敵なんですってば!」
目の前で自分のことを熱心に語られてしまって、千尋は苦笑いした。
「ものすごい熱量だね。そんなにいまのぼくが好き?」
「はい、もちろんです!」
「でも、十八歳の頃のぼくに会いたいんだよね」
「はい、でも、俺、いまの千尋さんが一番好きです!」
と、堂々と言って数秒後、新崎が真っ赤になって「きゃっ」と小さく声をあげた。
「あ、あの……す、すすす、すみません。なんか俺、昂奮してしまって」
「ああ、うん。ダイジョブ」
「あの、えっと、嘘、ではないんです、本当に」
「そりゃまあ、うん。そうだろうねえ」
コーヒーを淹れて来ますといって立ちあがった幼い仔犬のような――にしては背も身体も大きいのだが――新崎の背中を眺めながら、照れ照れになっている彼に千尋は笑いをかみ殺して腹筋が痛くなった。
(了)
「あ、今日、成人の日なんですね」
隣から新崎迅人の声がする。
演技を生業としている彼と、出版社勤務の兼業物書きである千尋の休日はなかなか噛み合わないことも多い。けれど、暇さえあれば新崎は千尋の自宅に寄るようにしている。今日、ふたりがソファに座りながらテレビを眺めているのも、ふたりにとっては貴重な時間だ。
「これで今年も新崎くんの後輩が増えたね」
千尋がのんびりとそう言った。テレビ画面の子たちも若いが新崎はまだ二十代前半。ぴちぴちだ。
「はい、千尋さんの後輩もこれで増えますね」
にこにこと微笑みを浮かべながら新崎が言った。
「そういえば、千尋さん。千尋さんが十八歳の頃ってどんなでしたか?」
「え?」
「なんか、会ってみたいです。俺より年下の千尋さん」
千尋は苦笑いしながら答えた。
「ぼくの時代は二十歳だったからなぁ」
「え、あ、え、ええと、それじゃあ、二十歳の頃の千尋さんのこと、教えてください!」
新崎の頬が真っ赤に染まった。千尋とは年の差がある。ありすぎる。
「えー、そうは言われても、今とだいぶかわらないよ。っていっても、見た目はこんなに老けちゃったけど」
千尋は目の前の新崎のころころと変わる表情が面白くて、笑いそうになるのを噛み殺して言った。
「何を!? 今の千尋さんだってめちゃくちゃ幼いのに!?」
「……幼い?」
「だって、こんなにもぷるぷるしてて、可愛いのに! 老人ぶらないでください!」
「いや、実際、中年だし。老人に一歩片足踏み入れているし」
「でも実際、千尋さんほど可愛らしいかたに俺、会ったことありません!」
「……あの、新崎くん?」
「千尋さんは可愛いんです! それだけじゃなくて、とってもきれいなんです! それに年上の魅力?というか年上の余裕?というか、そういうまとっているオーラそのものがとてもとても素敵なんですってば!」
目の前で自分のことを熱心に語られてしまって、千尋は苦笑いした。
「ものすごい熱量だね。そんなにいまのぼくが好き?」
「はい、もちろんです!」
「でも、十八歳の頃のぼくに会いたいんだよね」
「はい、でも、俺、いまの千尋さんが一番好きです!」
と、堂々と言って数秒後、新崎が真っ赤になって「きゃっ」と小さく声をあげた。
「あ、あの……す、すすす、すみません。なんか俺、昂奮してしまって」
「ああ、うん。ダイジョブ」
「あの、えっと、嘘、ではないんです、本当に」
「そりゃまあ、うん。そうだろうねえ」
コーヒーを淹れて来ますといって立ちあがった幼い仔犬のような――にしては背も身体も大きいのだが――新崎の背中を眺めながら、照れ照れになっている彼に千尋は笑いをかみ殺して腹筋が痛くなった。
(了)
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