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✿仕立て屋の一番 1
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「グレイト! 流石、レイジだね! 今回の仕立てもばっちりだったよ!」
常連客のマーサーから、抱き着かれるような激しいハグを受けて、レイジ・ヤマモトは、苦笑した。
「ありがとうございます」
この国にやってきて、もう十年が経とうとしている。初めはことばですら継ぎはぎだらけだった、レイジの生活は、弟子入りした工房でようやく仕事を任せてもらえるようになった。そうして、初めて自分についた客がこの金髪碧眼の美青年というわけだ。
しかし、毎回毎回、やけに距離がちかいよなあ。レイジは思う。それはレイジの育った国の国民性からきたものではなくて、十年この国で過ごしてみて知ったこの国の国民性からしても、マーサーのそれは過剰であるように思えるのだ。
「ねえ、レイジ。このあと、何か予定は?」
「え……?」
時刻は既に、七時半を回っている。店をクローズして帰宅するだけだ。
「もし、暇だったら、俺と一杯やらない? 御馳走する」
「そ、そんな……お客さまにそのようなことは……」
「いいじゃん。たまには。レイジだって疲れてるだろ? たまにはぱーっと美味しいもの食べて元気補充しなくちゃ」
「ですが……」
「俺のお気に入りの仕立て屋が普段から無表情な顔してたら、俺だって残念」
「う」
無表情。
それは自分でも自覚していたことだった。「わ、わかりました……
愛想がよくなかったことに対して、謝罪の意味も込めて、レイジはうなづいた。
「ホント! やった~!」
急にマーサーが子供のように無邪気に笑った。
「あ……」
レイジは思わず息を飲んだ。
このひと、くしゃっとつぶれるように笑うとかなり可愛い。
常連客のマーサーから、抱き着かれるような激しいハグを受けて、レイジ・ヤマモトは、苦笑した。
「ありがとうございます」
この国にやってきて、もう十年が経とうとしている。初めはことばですら継ぎはぎだらけだった、レイジの生活は、弟子入りした工房でようやく仕事を任せてもらえるようになった。そうして、初めて自分についた客がこの金髪碧眼の美青年というわけだ。
しかし、毎回毎回、やけに距離がちかいよなあ。レイジは思う。それはレイジの育った国の国民性からきたものではなくて、十年この国で過ごしてみて知ったこの国の国民性からしても、マーサーのそれは過剰であるように思えるのだ。
「ねえ、レイジ。このあと、何か予定は?」
「え……?」
時刻は既に、七時半を回っている。店をクローズして帰宅するだけだ。
「もし、暇だったら、俺と一杯やらない? 御馳走する」
「そ、そんな……お客さまにそのようなことは……」
「いいじゃん。たまには。レイジだって疲れてるだろ? たまにはぱーっと美味しいもの食べて元気補充しなくちゃ」
「ですが……」
「俺のお気に入りの仕立て屋が普段から無表情な顔してたら、俺だって残念」
「う」
無表情。
それは自分でも自覚していたことだった。「わ、わかりました……
愛想がよくなかったことに対して、謝罪の意味も込めて、レイジはうなづいた。
「ホント! やった~!」
急にマーサーが子供のように無邪気に笑った。
「あ……」
レイジは思わず息を飲んだ。
このひと、くしゃっとつぶれるように笑うとかなり可愛い。
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