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それは着ません!
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「なんだよ、これは」
「バニーだけど?」
目の前に広げられた物体、布製品。それを有馬且典は見下ろして、叫んだ。
「やらないからな!」
大学通学圏内のぼろい木造アパート。そこをねぐらとしている竹野仙一郎のもとに、もぐりこんできてから、いくら経っただろうか。
学内では、爽やかな好青年である竹野の中身が、ただの「まんが馬鹿」で、居候をしている竹野を「良いマネキン」「着せ替え人形」として、女装させたり、奇妙な衣装を着せてポーズを取らせたりするとんでもないやつだったというのにも、慣れて来た。
もはや、恥ずかしいという気持ちは捨てた。今では平気でスカートくらい履けるようになってしまった。どうしてくれるんだ、竹野。そんな有馬青年のもとに現れた新たな刺客というのが、これだ。
「布が薄い! 面積おかしい!」
「そりゃそうだろう。逆バニーなんだから」
「丸見え!」
「それが逆バニーです」
こんな衣装、どこで手にいれてくるのだろうか。有馬は非難の目で竹野を見た。そんな彼の視線の意味など、わかったところで、彼がこの「暴走」を止めるような人間ではないというのは、有馬は既に十分いやになるくらい知っている。
「はい、じゃ、着て。そのあと、腕組むポーズ取ってね」
有馬は住まいを間借りさせてもらうかわりに、こういう素材の役割を、という約束であった。だから、断るわけにはいかない、のだが。
「今回ばかりは無理だ」
「ええ!? それ、毎回言われるやつじゃん」
「毎回変なもの持ってきて着ろっていうほうがおかしいからな!」
「頼む! じゃあ、全裸になってポーズとってくれていい。これ、ほぼ丸裸だから、裸体があれば、なんとか応用できる!」
「もっと、嫌だ!」
昼はただの――ちょっと女子にモテる大学生である竹野であるが、夜や休日はまんが家志望になり、さらに、現在活躍中の少女まんが家・松葉ゆう氏のアシスタントをしている。そういう人間であって、生身のモデルがいる ――らしいのだが。
「お前の絵づくりへの情熱には感服している。だが、これは無しだ! まじで!」
「そこを頼む!」
着ると言っても、これを着用したら大事な部分が丸見えになるのだが。そもそも、これは本当に衣服といっていいシロモノなのだろうか。有馬の頭のなかで葛藤が生じる。さすがに、これを着たら、もう後戻りはできないのではないだろうか。
「パンツ履いていい?」
ちょっとだけ、聞いてみる。
「却下」
竹野は微笑みを絶やさずに答えた。
「なんでだよ!!」
「え? 臨場感? みたいな?」
「いや、待って! なんで!? 素材になればいいんだろ!? いいじゃん、パンツくらい!」
「トランクス履いた上からじゃ着こなせないだろ?」
「なんで、そういうところにこだわるんだよ、お前は!!」
「そういう人間だもの」
「開き直るな変態!」
「なら――」
急に竹野が有馬に接近してきた。すぐ目と鼻の先に竹野の整った顔がある。
「なら、着る前から興奮してる有馬はもっと、変態だよね」
にこやかな笑みでそう言われた。どきりと胸を弾ませてしまったこちら側が馬鹿みたいじゃないか。
「だから興奮なんかしてねー!!」
自分は抗議しているのだ! 有馬は叫んだ。(了)
「バニーだけど?」
目の前に広げられた物体、布製品。それを有馬且典は見下ろして、叫んだ。
「やらないからな!」
大学通学圏内のぼろい木造アパート。そこをねぐらとしている竹野仙一郎のもとに、もぐりこんできてから、いくら経っただろうか。
学内では、爽やかな好青年である竹野の中身が、ただの「まんが馬鹿」で、居候をしている竹野を「良いマネキン」「着せ替え人形」として、女装させたり、奇妙な衣装を着せてポーズを取らせたりするとんでもないやつだったというのにも、慣れて来た。
もはや、恥ずかしいという気持ちは捨てた。今では平気でスカートくらい履けるようになってしまった。どうしてくれるんだ、竹野。そんな有馬青年のもとに現れた新たな刺客というのが、これだ。
「布が薄い! 面積おかしい!」
「そりゃそうだろう。逆バニーなんだから」
「丸見え!」
「それが逆バニーです」
こんな衣装、どこで手にいれてくるのだろうか。有馬は非難の目で竹野を見た。そんな彼の視線の意味など、わかったところで、彼がこの「暴走」を止めるような人間ではないというのは、有馬は既に十分いやになるくらい知っている。
「はい、じゃ、着て。そのあと、腕組むポーズ取ってね」
有馬は住まいを間借りさせてもらうかわりに、こういう素材の役割を、という約束であった。だから、断るわけにはいかない、のだが。
「今回ばかりは無理だ」
「ええ!? それ、毎回言われるやつじゃん」
「毎回変なもの持ってきて着ろっていうほうがおかしいからな!」
「頼む! じゃあ、全裸になってポーズとってくれていい。これ、ほぼ丸裸だから、裸体があれば、なんとか応用できる!」
「もっと、嫌だ!」
昼はただの――ちょっと女子にモテる大学生である竹野であるが、夜や休日はまんが家志望になり、さらに、現在活躍中の少女まんが家・松葉ゆう氏のアシスタントをしている。そういう人間であって、生身のモデルがいる ――らしいのだが。
「お前の絵づくりへの情熱には感服している。だが、これは無しだ! まじで!」
「そこを頼む!」
着ると言っても、これを着用したら大事な部分が丸見えになるのだが。そもそも、これは本当に衣服といっていいシロモノなのだろうか。有馬の頭のなかで葛藤が生じる。さすがに、これを着たら、もう後戻りはできないのではないだろうか。
「パンツ履いていい?」
ちょっとだけ、聞いてみる。
「却下」
竹野は微笑みを絶やさずに答えた。
「なんでだよ!!」
「え? 臨場感? みたいな?」
「いや、待って! なんで!? 素材になればいいんだろ!? いいじゃん、パンツくらい!」
「トランクス履いた上からじゃ着こなせないだろ?」
「なんで、そういうところにこだわるんだよ、お前は!!」
「そういう人間だもの」
「開き直るな変態!」
「なら――」
急に竹野が有馬に接近してきた。すぐ目と鼻の先に竹野の整った顔がある。
「なら、着る前から興奮してる有馬はもっと、変態だよね」
にこやかな笑みでそう言われた。どきりと胸を弾ませてしまったこちら側が馬鹿みたいじゃないか。
「だから興奮なんかしてねー!!」
自分は抗議しているのだ! 有馬は叫んだ。(了)
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