初夢はサンタクロース

阿沙🌷

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「まあ、悩んだぶんだけ、強くなれるよ~ってさ、それじゃね? うん、それだわ」
 踊るように身体を左右に揺らしながら、松葉ゆうが語る。これが、売れっ子作家でなければ、許せない発言と態度だ。
「まあ、どこで煮詰まっているのか、話してみんさい。超爆売れ看板作家、松葉さまが、お悩み相談してやろうぞ」
「いや、結構です。先生は描くのは最高でも、きっとそういう編集サイドのことは何もできないと思うので」
 いいぞ、もっといってやれ、千尋さん! 新崎はガッツポーズを小さくとった。
「まあ、そこはそう言わず……あ、そうだ、なんか甘いもの食いてえ。ねえ、タカちゃん! ケーキ追加で、ベリータルトのやつ!」
「はい!」
 松葉の声にバイトの青年が返事を返した。松葉は千尋に向き直る。
「つかさ、千尋ちゃんよぉ。ちーちゃんてケーキとか食うの?」
「食べます」
「え、じゃあ、頼む?」
「いいえ。コーヒーだけで十分、幸せです」
「クリスマスもコーヒーだけだったん?」
「いや、クリスマスは……」
 千尋は間を置いてから答えた。
「今年はなかった、かな」
 新崎の心臓がどくりと弾けた。
「へ、へえ?」
「例年、守谷からクリスマス公演に誘われるんだけど……今年はそれどころじゃなかったですね」
「ああ、マドスピのか。あの劇団、あたまぶっこわれてっからなあ」
 何をいうか。
「まあ、座長がものすごい個性的だからね。でも実力ならちゃんとある。でっかい役者だって輩出しているし」
「にーざきくん、とか?」
 新崎は、聞き耳を立てながら、思わず、うっと叫びたくなった。まさか、ここで自分が話題にでてくるなんて。
「ふふ、まあね」
「でも、にーざきくん、大丈夫かなあ」
「へ?」
「あの子、顔で売ってるフシあるじゃんか。まあ、俺が好きなのは、ダーリン以外ありえないんだけど」
「顔って……まあ、確かに顔はいいけど、彼の演技は本物だよ」
「ちげーよ。顔がいいと、売るほうが、売りやすいじゃんか。一応、金にならないと生き残れない業界だし。次々に新しい芽がでてくるからさ。なるのは簡単かもしれないが、なり続けるのは大変だろう」
「なるのも大変だと思うけどね」
「あ、ごめ、怒った? ちーちゃん、怒りモード?」
「いや、別に?」
「ただ、あーいうのは、大変だぞ。自己主張できなくちゃ、つぶれる。いい子するのが得意なのは、弱点だ」
「先生は、もう少し、いい子してくれないと、大きな弱点になりますけど?」
「うわ、千尋崇彦が怒ったわ」
 けらけらと笑う声が響き渡る。
 いい子?
 どういう意味だろうか。
 確かに、「顔」で売っているという認識は新崎にもある。ターゲットを若い女性に絞って演技以外でも活動の場を広げようとしているのも、持って生まれた容姿を使えるからだ。
 けれど、最近は、かっこいい新崎迅人を演じるのではなく、少し自分自身を出すことも増えた。増やしている。
「おまたせしました」
 千尋と松葉が話に夢中になっている最中に、ブレンドが到着した。新崎は唇に人差し指をあてながら、カップを受け取った。
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