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「ただいま。……新崎くん?」
千尋の声だ。玄関から入ってきた千尋は、洗面所にいた新崎を見つけて微笑んだ。
「ああ、ここにいたのか。おはよう」
「千尋、さん。……え? どういうこと……?」
いまのいままで、どこにいたの? 仕事?
病院ではあまり寝れなくて、千尋のマンションに来て、爆睡かましてしまった新崎は、自分が寝ている間にとっくに千尋はもう帰っていると思っていた。いや、そもそも起きたとき、どうして、千尋のことを一番に確認しなかったのだろう。そうだ、今日も仕事だとばかりに、自分のことを――。
いや、今日に始まったことではなかった。
仕事で精いっぱいになっていて、千尋と顔をあわせる時間は減っていたし、だからこそ、オフがとれたら千尋へ会いに行って、必死にふたりの時間をとろうとしていたけれど――。
いや、そうじゃない。
一体、どうした、何を考えている、自分は。
そうだ、千尋がこの部屋にいないことにすら気が付かなかった自分は――そういう自分が嫌なだけだ。何が、好きだ。何が、大好きだ。
「新崎くん?」
固まったままの新崎に千尋がふあんげに声をかける。
「あ、いえ、ああ、ごめんなさい……、千尋さん、もしかして、朝まで仕事でしたか?」
「あ、そうだね。ごめん。昨日、ちょっとどうしても、昨日じゅうに終わらせたい仕事があって、集中していたら、終電逃しちゃって。そのまま、職場の休憩室で……って、連絡はいれたけど?」
「え!?」
新崎は飛び跳ねるように走って、自身のスマホを確認した。確かに。夜中に千尋からメッセージが入っている。
「ああ……そうだよね、本当に、ごめん、新崎くん」
「い、いえ! なんで千尋さんが謝るんですか!? こっちが迷惑かけているのに……!!」
「……ああ、うん」
「それより千尋さん、お疲れですよね、今日は俺が朝ごはん……っていっても、もうお昼ですね」
「いいよ、つくらなくて」
「へ?」
「外で買って来ちゃったから。これ」
そういうと千尋は手にさげていたレジ袋を新崎に差し出した。
「仕事でもお弁当ばかりだろうし、またお弁当っていうのも、悪いかなとか思ったんだけど……」
「い、いえ、これ、千尋さんが、俺のために買ってきてくれたんですよね、嬉しいです」
「……そう? ……いや、いいよ、無理しなくて。簡単なものなら、いまからぼくが作るから。でも……」
「でも?」
「まだ、今年じゅうに終わらせたいことが残っているから、またぼくは出なくちゃならない」
千尋は、もごもごとそう伝えて来た。
「え!?」
新崎はのけぞった。
千尋の声だ。玄関から入ってきた千尋は、洗面所にいた新崎を見つけて微笑んだ。
「ああ、ここにいたのか。おはよう」
「千尋、さん。……え? どういうこと……?」
いまのいままで、どこにいたの? 仕事?
病院ではあまり寝れなくて、千尋のマンションに来て、爆睡かましてしまった新崎は、自分が寝ている間にとっくに千尋はもう帰っていると思っていた。いや、そもそも起きたとき、どうして、千尋のことを一番に確認しなかったのだろう。そうだ、今日も仕事だとばかりに、自分のことを――。
いや、今日に始まったことではなかった。
仕事で精いっぱいになっていて、千尋と顔をあわせる時間は減っていたし、だからこそ、オフがとれたら千尋へ会いに行って、必死にふたりの時間をとろうとしていたけれど――。
いや、そうじゃない。
一体、どうした、何を考えている、自分は。
そうだ、千尋がこの部屋にいないことにすら気が付かなかった自分は――そういう自分が嫌なだけだ。何が、好きだ。何が、大好きだ。
「新崎くん?」
固まったままの新崎に千尋がふあんげに声をかける。
「あ、いえ、ああ、ごめんなさい……、千尋さん、もしかして、朝まで仕事でしたか?」
「あ、そうだね。ごめん。昨日、ちょっとどうしても、昨日じゅうに終わらせたい仕事があって、集中していたら、終電逃しちゃって。そのまま、職場の休憩室で……って、連絡はいれたけど?」
「え!?」
新崎は飛び跳ねるように走って、自身のスマホを確認した。確かに。夜中に千尋からメッセージが入っている。
「ああ……そうだよね、本当に、ごめん、新崎くん」
「い、いえ! なんで千尋さんが謝るんですか!? こっちが迷惑かけているのに……!!」
「……ああ、うん」
「それより千尋さん、お疲れですよね、今日は俺が朝ごはん……っていっても、もうお昼ですね」
「いいよ、つくらなくて」
「へ?」
「外で買って来ちゃったから。これ」
そういうと千尋は手にさげていたレジ袋を新崎に差し出した。
「仕事でもお弁当ばかりだろうし、またお弁当っていうのも、悪いかなとか思ったんだけど……」
「い、いえ、これ、千尋さんが、俺のために買ってきてくれたんですよね、嬉しいです」
「……そう? ……いや、いいよ、無理しなくて。簡単なものなら、いまからぼくが作るから。でも……」
「でも?」
「まだ、今年じゅうに終わらせたいことが残っているから、またぼくは出なくちゃならない」
千尋は、もごもごとそう伝えて来た。
「え!?」
新崎はのけぞった。
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