初夢はサンタクロース

阿沙🌷

文字の大きさ
上 下
13 / 36
❀27

13.

しおりを挟む
「ただいま。……新崎くん?」
 千尋の声だ。玄関から入ってきた千尋は、洗面所にいた新崎を見つけて微笑んだ。
「ああ、ここにいたのか。おはよう」
「千尋、さん。……え? どういうこと……?」
 いまのいままで、どこにいたの? 仕事?
 病院ではあまり寝れなくて、千尋のマンションに来て、爆睡かましてしまった新崎は、自分が寝ている間にとっくに千尋はもう帰っていると思っていた。いや、そもそも起きたとき、どうして、千尋のことを一番に確認しなかったのだろう。そうだ、今日も仕事だとばかりに、自分のことを――。
 いや、今日に始まったことではなかった。
 仕事で精いっぱいになっていて、千尋と顔をあわせる時間は減っていたし、だからこそ、オフがとれたら千尋へ会いに行って、必死にふたりの時間をとろうとしていたけれど――。
 いや、そうじゃない。
 一体、どうした、何を考えている、自分は。
 そうだ、千尋がこの部屋にいないことにすら気が付かなかった自分は――そういう自分が嫌なだけだ。何が、好きだ。何が、大好きだ。
「新崎くん?」
 固まったままの新崎に千尋がふあんげに声をかける。
「あ、いえ、ああ、ごめんなさい……、千尋さん、もしかして、朝まで仕事でしたか?」
「あ、そうだね。ごめん。昨日、ちょっとどうしても、昨日じゅうに終わらせたい仕事があって、集中していたら、終電逃しちゃって。そのまま、職場の休憩室で……って、連絡はいれたけど?」
「え!?」
 新崎は飛び跳ねるように走って、自身のスマホを確認した。確かに。夜中に千尋からメッセージが入っている。
「ああ……そうだよね、本当に、ごめん、新崎くん」
「い、いえ! なんで千尋さんが謝るんですか!? こっちが迷惑かけているのに……!!」
「……ああ、うん」
「それより千尋さん、お疲れですよね、今日は俺が朝ごはん……っていっても、もうお昼ですね」
「いいよ、つくらなくて」
「へ?」
「外で買って来ちゃったから。これ」
 そういうと千尋は手にさげていたレジ袋を新崎に差し出した。
「仕事でもお弁当ばかりだろうし、またお弁当っていうのも、悪いかなとか思ったんだけど……」
「い、いえ、これ、千尋さんが、俺のために買ってきてくれたんですよね、嬉しいです」
「……そう? ……いや、いいよ、無理しなくて。簡単なものなら、いまからぼくが作るから。でも……」
「でも?」
「まだ、今年じゅうに終わらせたいことが残っているから、またぼくは出なくちゃならない」
 千尋は、もごもごとそう伝えて来た。
「え!?」
 新崎はのけぞった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

むっとしちゃうの

阿沙🌷
BL
新進気鋭の新人俳優、新崎迅人は、年上の恋人である千尋崇彦との待ち合わせにウキウキしていた。のだが、街中をゆく周囲の人のささやき声に、むっとしてしまって――。

後の祭りの後で

SF
BL
 ※親父×小学生(エロはなし)  今年47になる道雄は、体調を崩して休職し地元に帰ってきた。  青年団の仕事で屋台を出せば、そこにかつての幼馴染、勝也が現れる。  しかし勝也は道雄とともに過ごした頃の、小学生の姿のままだった。  あの頃と今が交錯する、夏の夜の行方はーーーー ・Twitterの企画で書かせていただきました。 課題・親父×小学生 キーワード・惚れた弱み

憧れが恋に変わったそのあとに――俳優×脚本家SS

阿沙🌷
BL
新進気鋭の今をときめく若手俳優・新崎迅人と、彼の秘密の恋人である日曜脚本家・千尋崇彦。 年上で頼れる存在で目標のようなひとであるのに、めちゃくちゃ千尋が可愛くてぽんこつになってしまう新崎と、年下の明らかにいい男に言い寄られて彼に落とされたのはいいけれど、どこか不安が付きまといつつ、彼が隣にいると安心してしまう千尋のかなーりのんびりした掌編などなど。 やまなし、いみなし、おちもなし。 昔書いたやつだとか、サイトに載せていたもの、ツイッターに流したSS、創作アイディアとか即興小説だとか、ワンライとかごった煮。全部単発ものだし、いっかーという感じのノリで載せています。 このお話のなかで、まじめに大人している大人はいません。みんな、ばぶうぅ。

起き上がらせて

阿沙🌷
BL
俳優をやっている新崎迅人の悩みはかっこいいと可愛いが同時に存在している年上の恋人、千尋崇彦に対してヘタレてしまうことだった。今夜は彼の部屋で入浴している千尋を待っている。だが湯上りの千尋を見て動揺してしまった新崎は――。

孤独な戦い(3)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

チョコレートのお返し、ください。

阿沙🌷
BL
ドラマの撮影で忙しくしている新人俳優・新崎迅人には秘密にしなくてはならない恋人がいる。兼業脚本家の千尋崇彦だ。 彼に会いたくても地方ロケに出てしまいしばらく会えない状況が続く。そんななか、なんと撮影現場に会いたくてしかたがなかった男がやってきて――!?

憧れが恋に変わったそのあとに――俳優×日曜脚本家SS掌編集!!

阿沙🌷
BL
新人俳優の新崎迅人と日曜脚本家の千尋崇彦のいちゃいちゃなSS詰め!のつもり!

処理中です...