3 / 36
❀25
3.
しおりを挟む
たお、れた?
「その場にいた酒田さんから連絡がぼくに来た。突然、カメラが回っている前で、きみが倒れた。すぐに意識が戻らなくて、あわてて救急車を呼んだそうだ。そして、ここに運ばれた」
そんな!
新崎は、慌てて起き上がろうとした。そして、自分の腕から伸びるチューブに気が付いて、はっと身体を硬直させた。
「いま、な、何時ですか?」
千尋が腕時計に目を落とした。だが、彼は何も言わなかった。
「どうしよう、俺、スタッフのかたたちに、迷惑を……」
動揺する新崎の前で、伊東の携帯が震え上がった。
「……すみません、先ほど、新崎さんが目を醒ましたと聞いて、話の途中で切ってしまったので……」
「でて、ください」
新崎がこたえると、伊東は再びお辞儀をしてから小走りで部屋を出て行った。
「過労だそうだ」
千尋が固い口調で告げた。
「念のため、一日入院、とのことだ」
「え!?」
「詳しい話は、いま、医者がくるから彼から聞いてくれ」
「ちょ、ちょっと待って! そしたら、撮影は!? まだ撮っている最中でしょう!? スケジュールだって……」
「だから、彼女がああして必死に動いている」
「あ……」
目の前が真っ暗になるような、おかしい、全身から力が抜けていくかのような、気分だ。
「ち、千尋さん……」
「ぼくは、ここにいられるだけ、ここにいる。だけど、ぼくにだって、やらなければならないことがある」
「は、はい……ありがとうございます」
ぎゅっと心臓がいたんだ。急に、今、そばにいるこの千尋が、自分の知っている彼とは違う存在のように思えてくる。
いや、違う。
この千尋は、千尋を知る前の千尋だ。千尋と付き合うようになる前の千尋だ。
体中が震える。
自分のしでかしてしまった大失態を、一番見られたくないひとに見られた。死んでしまいたいとすら思う。
「新崎くん、落ちついて」
ぱらぱらと廊下から足音が聞こえてくる。その間、千尋が言った。
「きみはとても疲れている。だから、休むんだ」
扉が開いて、白衣の男が入って来た。彼は、いまの新崎の身体のことを、説明しだしたが、そのことばは右から左へと流れていった。
「その場にいた酒田さんから連絡がぼくに来た。突然、カメラが回っている前で、きみが倒れた。すぐに意識が戻らなくて、あわてて救急車を呼んだそうだ。そして、ここに運ばれた」
そんな!
新崎は、慌てて起き上がろうとした。そして、自分の腕から伸びるチューブに気が付いて、はっと身体を硬直させた。
「いま、な、何時ですか?」
千尋が腕時計に目を落とした。だが、彼は何も言わなかった。
「どうしよう、俺、スタッフのかたたちに、迷惑を……」
動揺する新崎の前で、伊東の携帯が震え上がった。
「……すみません、先ほど、新崎さんが目を醒ましたと聞いて、話の途中で切ってしまったので……」
「でて、ください」
新崎がこたえると、伊東は再びお辞儀をしてから小走りで部屋を出て行った。
「過労だそうだ」
千尋が固い口調で告げた。
「念のため、一日入院、とのことだ」
「え!?」
「詳しい話は、いま、医者がくるから彼から聞いてくれ」
「ちょ、ちょっと待って! そしたら、撮影は!? まだ撮っている最中でしょう!? スケジュールだって……」
「だから、彼女がああして必死に動いている」
「あ……」
目の前が真っ暗になるような、おかしい、全身から力が抜けていくかのような、気分だ。
「ち、千尋さん……」
「ぼくは、ここにいられるだけ、ここにいる。だけど、ぼくにだって、やらなければならないことがある」
「は、はい……ありがとうございます」
ぎゅっと心臓がいたんだ。急に、今、そばにいるこの千尋が、自分の知っている彼とは違う存在のように思えてくる。
いや、違う。
この千尋は、千尋を知る前の千尋だ。千尋と付き合うようになる前の千尋だ。
体中が震える。
自分のしでかしてしまった大失態を、一番見られたくないひとに見られた。死んでしまいたいとすら思う。
「新崎くん、落ちついて」
ぱらぱらと廊下から足音が聞こえてくる。その間、千尋が言った。
「きみはとても疲れている。だから、休むんだ」
扉が開いて、白衣の男が入って来た。彼は、いまの新崎の身体のことを、説明しだしたが、そのことばは右から左へと流れていった。
5
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
憧れが恋に変わったそのあとに――俳優×脚本家SS
阿沙🌷
BL
新進気鋭の今をときめく若手俳優・新崎迅人と、彼の秘密の恋人である日曜脚本家・千尋崇彦。
年上で頼れる存在で目標のようなひとであるのに、めちゃくちゃ千尋が可愛くてぽんこつになってしまう新崎と、年下の明らかにいい男に言い寄られて彼に落とされたのはいいけれど、どこか不安が付きまといつつ、彼が隣にいると安心してしまう千尋のかなーりのんびりした掌編などなど。
やまなし、いみなし、おちもなし。
昔書いたやつだとか、サイトに載せていたもの、ツイッターに流したSS、創作アイディアとか即興小説だとか、ワンライとかごった煮。全部単発ものだし、いっかーという感じのノリで載せています。
このお話のなかで、まじめに大人している大人はいません。みんな、ばぶうぅ。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
膝小僧を擦りむいて
阿沙🌷
BL
新人俳優の新崎迅人は体を張っていた。体育系バラエティ番組の撮影中、盛大に転んで膝をする向いた。学生時代以来の地味な怪我に思わず苦笑してしまう新崎。俺ってだっさい。そんなことを思いながら帰宅すると、エプロン姿の恋人・千尋崇彦の姿が!!「ご飯にする? それともお風呂?」またか!! 以前にもこんなことあったが、今度こそは――!!
年上彼氏にメロメロなヘタレっぽいけど頑張り屋さんな年下攻め×仕事に関してはしっかりしているのに私生活は抜けていて天然っぽい性格のせいで攻めを地味に振り回しつつも攻めにとって頼れる(けれど攻めにとって可愛い存在)な年上受け。
✿追記→ 続編を来月、書き上げます!!
後の祭りの後で
SF
BL
※親父×小学生(エロはなし)
今年47になる道雄は、体調を崩して休職し地元に帰ってきた。
青年団の仕事で屋台を出せば、そこにかつての幼馴染、勝也が現れる。
しかし勝也は道雄とともに過ごした頃の、小学生の姿のままだった。
あの頃と今が交錯する、夏の夜の行方はーーーー
・Twitterの企画で書かせていただきました。
課題・親父×小学生
キーワード・惚れた弱み
可愛い男の子が実はタチだった件について。
桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。
可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる