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レモンティーとメロンソーダ

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 喫茶店に入った門倉かどくら史明ふみあきの目の前には、グラスの上に浮かぶレモン。松宮まつみや侑汰ゆうたが頼んだものだ。
「お前、いつもレモンだよな」
 門倉が向かいの席に座っている天使のような男に話しかけた。
 彼は大きなくりくりとした瞳に白磁のようなきめ細かい白い肌。ちょっと癖の入った髪の美麗というか可憐というか、美しい。
 けれどその見た目とは反して、その性格はスーパー自己中マイペース野郎だ。それも淫乱で快楽に弱い人間。門倉は何度も彼に振り回せれて、困惑と違和感と不快感とちょっと刺激的な快感を味わっている。
 つまり、門倉にとってこの男・松宮侑汰は天敵なのである。
「ええ、まあ。あ、門倉さん」
 門倉の頼んだメロンソーダののったお盆を持って店員が現れた。
「ありがとうございます」
 門倉が軽く会釈してそれを受け取った。
「門倉さんだって」
 松宮がひとくち紅茶を飲みながら彼に言った。
「めちゃくちゃ甘いものじゃないですか」
 上にバニラアイスを浮かべたメロンソーダの緑色が揺れる。
「俺と付き合っていたときはいつも珈琲だったのに」
「あーっ! えー、なに、今、なんて言ったぁああ!!」
「そんなにきょどらないでくださいっすよ」
 以前、門倉は松宮に完全に騙されていた。というのも、門倉に近づいてきた松宮が完全に猫をかぶっており、純情可憐な美青年を演じていたのだった。 
 そんな松宮にハートを射止められてしまった門倉は彼と一時的ではあるが付き合っていたのである。
 しかし、とある事件で松宮の化けの皮が削がれ、彼の本性を見た門倉が別れを切り出したのだ。それなのに、まだあきらめない松宮のせいで何故か日常に松宮なる人物の存在が入り込んでしまった門倉は日々、後悔と疲労と妙な違和感の連続である。
「別にいいだろ。たまには」
「たまにはとかいいながら、この間も、それだったんじゃないですか」
「うるせ」
 猫かぶりしていた松宮と付き合っていたとき、さすがにメロンソーダを頼むわけにはいかず、珈琲を頼んでいた。
 しかし、今なら自分の好きなものを選んでも別にいいような、変に気取らなくてもいい、そんな安心感があってついそれを頼んでしまうのだった。
「でも、俺、珈琲より、そのしゅわしゅわ飲んでる門倉さんが好きです」
 頬杖をついてこちらをじっと見てくる松宮が笑った。いちいち心の隅をついてくるようなことをいう男である。だから一生、敵うことがないのか。門倉は少し腹を立てた。その些細な怒りすら気分がいいのだから、困っている。
「うっせ」
 門倉はストローに口を付けた。

(了)
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