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・屋敷編

Thuー09

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 青年は思わず扉を開けていた。室内に入ると、例の匂いが鼻についたが、かまわず、視界に入ったそれに手を伸ばした。
「おい、大丈夫か!?」
 足は朋華ともかのものだった。彼は、白い布団の上に、長い髪を垂らして横たわっていた。つんと男の生理の匂いが濃くなった。この場所で何が行われていたのか、行為をしみこませたシーツの上の人物は、けだるげに起き上がった。
「ああ、えと、なんだっけ、えっと滝田の連れて来た……」
「おい、無理して起き上がるな。どうした? 何があった?」
 必死な青年の様子に彼は軽く口元を緩めた。
「倒れていたからと言って、何か大変な目に遭ったわけじゃない。大丈夫だよ」
 やんわりと言われて、青年は状況から、頬を染めた。かろうじて身にまとっている状態――素肌がすでにさらされてはいるが――の裾から生えた白い足が濡れていた。情事のあとの身防備な男の姿に心臓がぎゅっとしめつけられる。あてられるというのはこういうことだろう。ことの後がいろめかしいというのは、少し毒だ。
「相手は、あいつか」
 朋華から視線をはずして、青年が問うた。何も答えないということはあたりだろうか。そう推測し始めたところで朋華が答えた。
「ああ、そうだよ。主さまがね、来てくださった」
「来てやることが、これか?」
 衣服を着るために立ち上がった朋華に向かって青年は言った。
「あいつ、客の前じゃ自分とこの商品には手を出しませんってツラさせといてこれ・・じゃあな」
「こちらが誘ったってことは考えられないの?」
「……っ」
 青年は息を飲んだ。それでは、これは彼があの男を誘った結果なのか?
「なんてね」
 朋華の口調が柔らかくなった。
「湯あみしてくる。ここにはもう誰もこないと思うから、いたかったらここにいなよ」
「は? え?」
「上級特権でさ、いつでも、風呂は使えるのさ」
 にこっと微笑んで、朋華が出て行った。
 残されたのはあの男の匂いが残る、布団だけだ。
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