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・屋敷編
Thuー08
しおりを挟む――にしても。
「あいつ、どこ行きやがった?」
佐波に見つかった洗濯場を離れて、ぶらぶらと敷地内を散策しだした青年はつい滝田への愚痴をこぼしてしまう。あの様子だと真清会のことも何か知っているだろう。自分に突然持ち掛けられたこの話が何につながっているのか、調べなくてはこの先、あの男と渡り合うことができるだろうか。だが彼は己れのことを手放したくないような様子だった。むざむざ逃がすわけにはいかないということだろうか。それとも――。
「だめだ!」
急にずきっと胸の内がいたみだして、青年は考えることをやめた。そういえば、昼も仕置きと自ら言っておいて、何も手をだしてこなかった。
藤滝のことを考えだして、頭のなかにあらぬ想像が浮かびそうになったので、青年は慌ててそれを打払った。いけない。いけない兆候だ。
「くそ、どうすっかな」
と、そういえば、滝田が、朋華のもとへ藤滝が来ているから今日は朋華の部屋を青年に開けられないといっていたことを思い出した。
「てか、なんであいつ、そういうこと知ってるんだよ」
どこで屋敷じゅうの情報を得ているのか、謎である。そもそもあの滝田の存在自体がだいぶ謎なのだが。藤滝と敵対していると思われる以外、何もつかめていない滝田だが、朋華のもとに藤滝がいるというのは本当だろうか。
気になり出して、しかたなかったので、藤滝と顔さえあわせなければいいと、廊下の奥へと青年はその部屋を目指した。
一度来たことがある場所といえど、なんだか居心地が悪い廊下だ。この先にあるのが上級用にしつらえられた空間だというだけで、空気さえ違ってくるのは気のせいだろうか。すれ違う者もなく、ひとの気配もしない。昼間だから、外にでているのかもしれないし、部屋にすっこんでいるのかもしれない。とにかく、上級の部屋へ向かう廊下は静かだった。
つまり、足音が響きやすい。自分の歩む音がきになって、無意識に忍び足になる。つま先から廊下の板の温度が伝わる。床は冷たい。
朋華の部屋の前にまできて、青年は足を止めた。忍ぶように足を運んできたから、部屋のなかのひとは青年の気配には気がつかないだろう。だが、外にいる青年もうちから気配を感じることができなかった。
もしかして誰もいないのだろうか。襖に耳を当ててそっと中の気配をうかがう。やはり、ひとの気はしない。そっと、手をかけて弾いてみた。瞳ひとつのぞくことができるくらいに扉をあけて、中を見ていた。ぐるりと部屋中を眺めていると、視線の先にゆったりと横たわった白い足が見えた。
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