270 / 285
・屋敷編
Thuー07
しおりを挟む
顔をひきつらせた若花に滝田は苦笑した。黒服に気まずさを覚えるのはたいてい裏で悪いことをしようとしているやからだ。特に脱走常習犯のような。
「ここにも悪い子がいたらしいな」
青年の耳元でささやく。青年は自分がからかわれたのがわかって、むっとした。それが面白かったのか滝田がニヤリと満足げな笑みをうかべた。
「まあ、ここは一時退散してやるから、お仲間同士仲良くやれや」
ささやく声に、不機嫌と眉根をよせた青年だったが、のらりくらりと滝田が奥へ姿を消したので、佐波が寄ってきた。
「何、あの黒服」
「ああ、ほんとうに何だろうな」
こっちが聞きたい。
「仲、いいの?」
「なわけないだろう」
そうだよね、と佐波が小さく胸をなでおろした。
「因縁とかつけられてるのかと思った」
「ああ、そうだな、だいたいそんな感じだなー」
というか、滝田だけではない。どいつもこいつにも因縁をつけられているような気がする。藤滝しかり、どこぞの組のお坊ちゃんしかり。
「お前はどうなんだよ? なんとかやってるのか?」
「まあね」
にこやかに佐波が答えた。
「でも、あの時の、あんたの身体が忘れられないかな」
直球で返って来たことばに、青年は吹き出した。
「……冗談、だよな」
さあね、と風がふいた。
まだそれほど時間は経っていないはずだ、彼らを相手したのは。それでも、懐かしいという感情が沸き上がってしまうくらい過去のことのような気がする。
「ねえ、いつもこんなところにいるの?」
「ん? いや、別に」
ひとがいないからここにいるだけであって、ここが佐波に見つかってしまったので、しばらくの間、別の場所を探すしかないだろうと頭の片隅に青年は思った。
「また、ここに来たら会える?」
「さあ、どうだろうな」
やけにしつこく自分のことを聞いてくる佐波に、もしかしたらさびしいのだろうかと余計な想像をして、青年は頭を振った。そんなこと考えたところで自分にできることはない。というか、他人に手を回している余裕はない。
「お互い、なんとかなるといいな」
青年はそう笑って告げた。逃げ場のない囲われたひとつの屋敷の下、捕らわれている者同士、いつ身体が壊れるともしれないなかで生きている。健闘を祈るくらいしかない。
そうだね、とさみしげに答えた若花に、やはり、こいつ、さみしいのか、と青年も苦笑した。
「ここにも悪い子がいたらしいな」
青年の耳元でささやく。青年は自分がからかわれたのがわかって、むっとした。それが面白かったのか滝田がニヤリと満足げな笑みをうかべた。
「まあ、ここは一時退散してやるから、お仲間同士仲良くやれや」
ささやく声に、不機嫌と眉根をよせた青年だったが、のらりくらりと滝田が奥へ姿を消したので、佐波が寄ってきた。
「何、あの黒服」
「ああ、ほんとうに何だろうな」
こっちが聞きたい。
「仲、いいの?」
「なわけないだろう」
そうだよね、と佐波が小さく胸をなでおろした。
「因縁とかつけられてるのかと思った」
「ああ、そうだな、だいたいそんな感じだなー」
というか、滝田だけではない。どいつもこいつにも因縁をつけられているような気がする。藤滝しかり、どこぞの組のお坊ちゃんしかり。
「お前はどうなんだよ? なんとかやってるのか?」
「まあね」
にこやかに佐波が答えた。
「でも、あの時の、あんたの身体が忘れられないかな」
直球で返って来たことばに、青年は吹き出した。
「……冗談、だよな」
さあね、と風がふいた。
まだそれほど時間は経っていないはずだ、彼らを相手したのは。それでも、懐かしいという感情が沸き上がってしまうくらい過去のことのような気がする。
「ねえ、いつもこんなところにいるの?」
「ん? いや、別に」
ひとがいないからここにいるだけであって、ここが佐波に見つかってしまったので、しばらくの間、別の場所を探すしかないだろうと頭の片隅に青年は思った。
「また、ここに来たら会える?」
「さあ、どうだろうな」
やけにしつこく自分のことを聞いてくる佐波に、もしかしたらさびしいのだろうかと余計な想像をして、青年は頭を振った。そんなこと考えたところで自分にできることはない。というか、他人に手を回している余裕はない。
「お互い、なんとかなるといいな」
青年はそう笑って告げた。逃げ場のない囲われたひとつの屋敷の下、捕らわれている者同士、いつ身体が壊れるともしれないなかで生きている。健闘を祈るくらいしかない。
そうだね、とさみしげに答えた若花に、やはり、こいつ、さみしいのか、と青年も苦笑した。
20
お気に入りに追加
670
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる