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・屋敷編
Wed-14
しおりを挟む――
報告を受け取った藤滝は掌を振った。さがれ、という合図だ。それを見て使用人が深々と一礼し、部屋の外へと下がっていった。光源は絞られていて、室内は薄暗い。それでも、紙面に視線を落とせば文字が読めるので、この男は明るさなど気にしなかった。
実家――すなわち、藤滝本家からの連絡だった。藤滝家当主が倒れた。病院に搬送され、一命をとりとめたという知らせはとうに耳に入れている。だが、これを良い機会として立ち上がる不安分子の動きに関しては、息のかかった者を散らばらせておいて正解だったと、藤滝は思った。
想像した通り、跡目争いになりそうだ。
自分の立場としてはたしかに藤滝家の血を継ぐ息子ではあるが、長兄ではない。けれど、あの長兄はかつがれる器の者ではない。主力グループがそれぞれ息のかかった候補者を担ぎ上げる争いが起きるのは目に見えている。そして、そこにおそらく自分を担ぎたいという派閥が出てくることも。
「まあ、致し方ないか」
継ぐ気はまったくない。だからこそ、自分だけの楽園を作り上げようとして、こんな辺鄙な場所に逃げ込んだのだ。上納金はきちんと出している。文句などいわせない。金、力、権力、闘争にまみれた場所にまた戻るわけにはいかない。あの腐れ切った汚らしい世界に、戻りたくもない。
「……面倒なことになったな」
のらりくらりと、今度もうまくかわすことが出来ればいいが。
思案をしている間、近づいて来る足音に気が付かなかった。それは、大股で藤滝が作り上げた屋敷をまるでわが物顔で闊歩していた。その後ろを慌ててその男を止めようとして使用人たちが追いかける。
「お止めください」
必死にすがりつく使用人たちだったが、男に振り払われて、奥の間――藤滝の執務室にまで、その男はたどり着いた。
乱暴なノックの音に藤滝は顔をあげた。まだ屋敷は営業中。一番騒がしい時間に、来客が来るはずがない。
「なんだ?」
藤滝の返事に、扉が乱暴に開かれた。
「よお、坊。達者にしてたか?」
現れた男に、藤滝は息を飲んだ。
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