229 / 285
・屋敷編
Mon-15
しおりを挟む✿
「お待ちください」
藤滝はピンと伸ばした背中で大きく空気を切って廊下を進んでいた。その後ろを慌てて近習の使用人が、追いかけてくる。
うとい。
ついそんなことを思った。
藤滝は、振り返りもせずに答えた。
「はやくしろ」
彼らに「自分」というものはない。全ては、藤滝の手のなかにある。
全てを捧げている主人から、そう言われれば、彼らは黙ってしたがうほかにない。
小走りで、使用人たちが自分との距離をつめるのを、藤滝は背中ごしに感じた。そうやって、数歩でも後ろを歩くがいい。俺の前を誰にも、俺は歩かせやしない。
予定を切り上げて、どこへ――? いぶかしげな視線を送ってくる近習に、藤滝は、ふん、と小さく鼻を鳴らした。
どいつも、こいつも、面白味にかける。
いつもの、欲望にまみれたつまらない客の顔だって、飽き飽きだ。
稼ぎをあげる。銭の力で伸し上げる。
どれだけ、しのぎを削って、数字に変えるかが、きもだ。家が、今のまま、現状維持のままの体制でいられるはずがない。必ず、どこかが手を打ってきて、邪魔者を排除しようと動いて来る。
だが、来るのなら、来い。迎え撃ってやろう。
藤滝は、ほくそ縁だ。
力があればいい。
すべてを屈服させるだけの、力を。
それを、藤滝は見つけた。欲望に火をつければいい。誰もが綺麗なままじゃいられない。
人間は醜い。みな、醜いものなのだ。
「ご、ご主人さま……」
おどおどと、自分の顔色を見ながら、使用人が顔を困惑に染めている。馬鹿なやつらだ、と思ったが、その感情すら、一瞬で消えた。
「昼間、あのようなことをお耳に入れまして、動揺するのも、いたしかたないことかと存じますが……急いても何も解決はいたしません」
昼間?
ああ、と藤滝は小さくうなづいた。
「家のことだな」
20
お気に入りに追加
670
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる