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・屋敷編

Mon-15

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「お待ちください」
 藤滝はピンと伸ばした背中で大きく空気を切って廊下を進んでいた。その後ろを慌てて近習の使用人が、追いかけてくる。
 うとい。
 ついそんなことを思った。
 藤滝は、振り返りもせずに答えた。
「はやくしろ」
 彼らに「自分」というものはない。全ては、藤滝の手のなかにある。
 全てを捧げている主人から、そう言われれば、彼らは黙ってしたがうほかにない。
 小走りで、使用人たちが自分との距離をつめるのを、藤滝は背中ごしに感じた。そうやって、数歩でも後ろを歩くがいい。俺の前を誰にも、俺は歩かせやしない。
 予定を切り上げて、どこへ――? いぶかしげな視線を送ってくる近習に、藤滝は、ふん、と小さく鼻を鳴らした。
 どいつも、こいつも、面白味にかける。
 いつもの、欲望にまみれたつまらない客の顔だって、飽き飽きだ。
 稼ぎをあげる。銭の力で伸し上げる。
 どれだけ、しのぎを削って、数字に変えるかが、きもだ。が、今のまま、現状維持のままの体制でいられるはずがない。必ず、どこかが手を打ってきて、邪魔者・・・を排除しようと動いて来る。
 だが、来るのなら、来い。迎え撃ってやろう。
 藤滝は、ほくそ縁だ。
 力があればいい。
 すべてを屈服させるだけの、力を。
 それを、藤滝は見つけた。欲望に火をつければいい。誰もが綺麗なままじゃいられない。
 人間は醜い。みな、醜いものなのだ。
「ご、ご主人さま……」
 おどおどと、自分の顔色を見ながら、使用人が顔を困惑に染めている。馬鹿なやつらだ、と思ったが、その感情すら、一瞬で消えた。
「昼間、あのようなことをお耳に入れまして、動揺するのも、いたしかたないことかと存じますが……急いても何も解決はいたしません」
 昼間?
 ああ、と藤滝は小さくうなづいた。
のことだな」
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