SLAVE 屋敷の奥で〜百回いくまで逃げられない〜🔞

・屋敷編

7.

　廊下に現れた主人の姿に、行きかう使用人も花たちも、ぎょっと目をまるくした。
　そこは、花たちが寝起きをするための宿舎へと続く廊下であって、そんな低級な場所へと藤滝が現れるのはめったにないことだ。
「芹那」
　食堂で食事を終えたばかりの若い少年を主人は目ざとく見つけて声をかけた。
　懇意にしている花たちと雑談しながら、宿舎へと向かっていた少年は、ぎょっとして、その声の主を見た。それから、慌てて、平伏する。芹那にワンテンポ遅れて、他の花たちも、頭を伏した。
「あれはどうしている？」
　藤滝の声が、上から降ってくる。　
　あれ、とは？　
　周りの花たちが、不安げに息をつめた。
　だが芹那にはピンときたようで、主人への敬愛の姿勢を崩さぬまま答えた。
「まだ、部屋で寝ております」
「……そうか」
「よ、呼んできましょうか？」
　藤滝が、何もいわずに芹那を見つめる。
　芹那は、さっと平伏の姿勢から身を起こした。
「すぐに、お呼びいたします。お部屋はいかがなさいますか？」
　芹那は、藤滝が答える前に、古語でつぶやいた。
「どうか、宿舎だけは……。主さま、騒ぎになります」
　藤滝の耳にそれが入ったのか否か。彼は、うなづいた。

✿

「……なんだよ、まったく」
　部屋で休息していた弥助のもとに、芹那が着込んでいた着物の裾をひるがえして、はしってきた。
　仕事・・がある日は、彼らは朝から『屋敷』から配給されている着物姿になっている。帯一本さえほどいてしまえば、簡単に脱がせられうその衣装、また、この『屋敷』のしつらとマッチするから、という理由で各人それぞれに配れている。
　そしてそれは売りあげによって、格が目にめいてわるようになている。
　高級とされ、『屋敷』の稼ぎ頭になってくると、着物も絢爛豪華なものになり、中に下着を着込み、服を着重ねることも許される。
　その特別待遇は、暮らし方に関しても違う。高級は大部屋で雑魚寝ではなく、ちゃんと個室がしつらえられ、自由は制限されながらも、花としては格別な生活をおくっている。
　だが、低級には、下着すらまとうことを禁じられ、一枚の布の下は裸体だ。
　そこそこ、主に認められた芹那は中に下着を着込むことを許された身であるが、青年は下級も下級で、花たちのなかからも彼は遠巻きにされていた。
　もちろん、地味な着物の下に、彼は何も着る事はできあない。雑にまいた帯。ふてぶてしく、部屋で横になっていた青年は、美麗な少年のひるがえる袖にせかされて、廊下まで連れてこられた。