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・Day6/Chapter1 忍びて

86.

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「はっ!」
 意識を取り戻した青年は勢いよく上体を起こした。
 ここは――。
 目の前に現れた室内の空間、嗅いだことのある匂い。
 屋敷の一角にある小室だった。
 そこに敷かれた布団の上で彼は眠りの海のなかを泳いでいたらしい。
 ズキン、と頭が痛んだ。
 彼は自分の頭部を手で押さえながら、そっと、布団から抜け出した。
 何もない部屋だ。そこにひとりだけ、自分が寝かされていた。一体どのくらい寝ていたのだろうか。
 窓から差し込む日の光から、午後の気配を感じた。
「おい、お目覚めか」
 そこに人がいたことに青年は気がつかなかった。
「え、あ!」
「何を驚いてやがる。人がせっかく世話してやってんのに」
 柄のわるそうな黒服の男――使用人がぽりぽりと後頭部をかきながら青年の背後であぐらをかいていた。
「藤滝は?」
「は?」
 いの一番に出て来たことばに、驚いたのは青年自身だった。なんだって、あいつのことを。
「さあな。ご主人さまは、今日はお忙しい。どうせお前もこの分じゃ今日は寝たきりだろうってことで、布団を敷いておねんねだ。よかったじゃあねえか、延命、延命」
 何が延命だ。
 青年は彼を睨みつけた。
「さって、どうするっかねえ。一応、上には報告しておくか。脱走犯は元気にピンピンお目覚めいたいしました、とさ」
 よっこらせ、と気だるげに身を起こしたその男の背中を追って、青年は声をかけた。
「なんだよ」
 部屋から出ていこうとした彼は、くるりと青年のほうを向いた。
「あー、そういうことじゃない? 聞きたかったことは? じゃ、あれか。すっげえ、怒っていました、とか、逆に初めてにしては手酷い客の中に放り込んだことに対して何か思うことがおありになるような気配がありました、とか、そういうこと、言ってほしいのか?」
 青年は、ぎくりと肩を揺らした。言い方が言い方だった。
「ま、それはないか。怒っているというより、ご主人さまはやけに楽しそうだったがな」
「は……」
「どいつもこいつもぺこぺこしているから、お前みたいなじゃじゃ馬をならそうっていうのもたまにはいい気晴らしになるんじゃないのかなあ、と思います。て、ことで、じゃ」
「はぁ!? え、おい、ええ!?」
 消えていった使用人の後ろ姿に、青年は茫然と立ち尽くした。
 何なんだ、あいつは。
 他の使用人と雰囲気が全然違った。
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