上 下
83 / 285
・Day5/chapter3 捕獲者たち

69.

しおりを挟む




「ど、どこ連れて行くつもりだ……!」

 青年はがたいの良い使用人の肩に丸太のように担がれて、屋敷の廊下を移動していた。倉から引きずり出されてきて、曰くあのこの屋敷の中に戻されたのだ。いくら警戒しても足りないくらいだ。
 それどころか、隙を見て逃げ出さなくては、と青年は思っている。
 芹那の漏らした情報から、青年は今日こそ、あの藤滝が、己を腐った肉欲の塊のような彼の客たちに与える、、、つもりらしいという――。
 青年は自分がどこかで甘くなっていたことに、いらだつ。
 藤滝は青年を見せしめのために屋敷の宴に出すことはあっても、客に取らせたりはしなかった。今まで。何度もチャンスがあったのにだ。
 どうせ、自分はこういう身だ。欲しがるやつらがいるのかどうか、ということだろう。
 どこかでたかをくくっていた自分もいた。
 だから、藤滝も自分を客に取らせはしないのではないだろうか――と。
 だから、甘かった。
「先にご主人さまに挨拶していけ」
 使用人が、とある部屋の前で立ち止まった。
 ご主人さま。
 藤滝だ。
 この扉の向こうにあの男がいるのか。
 青年はごくりと生唾を飲んだ。
「――失礼いたします」
 使用人たちは礼儀正しく、扉を開ける。
 中には藤滝がひとり、佇んでいた。
「ご主人さま、お連れいたしました」
「ご苦労」
 その唇は短く冷徹にそう言い放つと、彼らを全員、下げさせてしまう。
 と、いっても、まだ扉をはさんだ廊下に彼らは控えているのだろう。
「藤滝」
 青年は彼を真正面から見た。ここで先に目を逸らしたほうが負けだ。
 男は仕立ての良いスーツに身をまとっており、いつものような毅然とした態度を崩さずに、でもどこか飄々として、青年と対峙した。
「藤滝ッ!」
「どうした、カッカするな」
「ふざけんな! お前のヘンタイな趣味にこれ以上付き合ってなんかいられるか!」
「……売られてきた分際でよく物をいうことだ」
「っく! 俺は……!」
「まあ、いい。そのうち、『欲しい」だのなんだのとしか言えなくなる」
「は……?」
「それにしても、いつものこととはいえ、本当に活きがいい。活きが良すぎて、すこし手間がかかりすぎる」
「おい、藤滝?」
「そうやって、自分の立場が分かっていないところも、な」
 男が、距離を詰めて来た。慌てて青年は半歩、後ろに下がった。
「な……なんだよ……」
「口のきき方を最初に教えたはずだったのだが、忘れたのか?」
「は?」
 ぐいっと青年の上に力がのしかかってきて、彼は床に崩れた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...