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・Day5/chapter3 捕獲者たち
69.
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「ど、どこ連れて行くつもりだ……!」
青年はがたいの良い使用人の肩に丸太のように担がれて、屋敷の廊下を移動していた。倉から引きずり出されてきて、曰くあのこの屋敷の中に戻されたのだ。いくら警戒しても足りないくらいだ。
それどころか、隙を見て逃げ出さなくては、と青年は思っている。
芹那の漏らした情報から、青年は今日こそ、あの藤滝が、己を腐った肉欲の塊のような彼の客たちに与えるつもりらしいという――。
青年は自分がどこかで甘くなっていたことに、いらだつ。
藤滝は青年を見せしめのために屋敷の宴に出すことはあっても、客に取らせたりはしなかった。今まで。何度もチャンスがあったのにだ。
どうせ、自分はこういう身だ。欲しがるやつらがいるのかどうか、ということだろう。
どこかでたかをくくっていた自分もいた。
だから、藤滝も自分を客に取らせはしないのではないだろうか――と。
だから、甘かった。
「先にご主人さまに挨拶していけ」
使用人が、とある部屋の前で立ち止まった。
ご主人さま。
藤滝だ。
この扉の向こうにあの男がいるのか。
青年はごくりと生唾を飲んだ。
「――失礼いたします」
使用人たちは礼儀正しく、扉を開ける。
中には藤滝がひとり、佇んでいた。
「ご主人さま、お連れいたしました」
「ご苦労」
その唇は短く冷徹にそう言い放つと、彼らを全員、下げさせてしまう。
と、いっても、まだ扉をはさんだ廊下に彼らは控えているのだろう。
「藤滝」
青年は彼を真正面から見た。ここで先に目を逸らしたほうが負けだ。
男は仕立ての良いスーツに身をまとっており、いつものような毅然とした態度を崩さずに、でもどこか飄々として、青年と対峙した。
「藤滝ッ!」
「どうした、カッカするな」
「ふざけんな! お前のヘンタイな趣味にこれ以上付き合ってなんかいられるか!」
「……売られてきた分際でよく物をいうことだ」
「っく! 俺は……!」
「まあ、いい。そのうち、『欲しい」だのなんだのとしか言えなくなる」
「は……?」
「それにしても、いつものこととはいえ、本当に活きがいい。活きが良すぎて、すこし手間がかかりすぎる」
「おい、藤滝?」
「そうやって、自分の立場が分かっていないところも、な」
男が、距離を詰めて来た。慌てて青年は半歩、後ろに下がった。
「な……なんだよ……」
「口のきき方を最初に教えたはずだったのだが、忘れたのか?」
「は?」
ぐいっと青年の上に力がのしかかってきて、彼は床に崩れた。
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