憧れが恋に変わったそのあとに――俳優×日曜脚本家SS掌編集!!

阿沙🌷

文字の大きさ
上 下
10 / 13

.きみにだけ特別

しおりを挟む

「推し活」が流行りらしい。推し活についてのネット記事をスマホで眺めていた新崎はマネージャーの伊東に声をかけられて、顔をあげた。
「どうしたんです? そんな記事なんて読んで」
 いつも、今みたいに、ロケ地へ向かう移動中の車内では、スマホ待ち受けにしているとある男性のへろ~っとした笑顔の写真を見て、へろ~っとだらしない顔をしているのに、と伊東の目が言っていた。
「いえ、ちょ、ちょっと気になりまして、こういうの……」
 もじもじと新崎が答える。役に入ればあれほど、かっこいいのに、普段はただの「うさぎ」だ。小動物のようだ。伊東は微笑んだ。
「舞台が心配ですか?」
「え? あ、いや、知り合いがこういう感じの子らしくて……って、あ、え?」
「へぇ、そうなんですか? てっきり次の舞台がゲーム原作だから、こういうことに興味を持ち出したのかと思いまして」
「い、いや、それもあります……」
 新崎が現在抱えている仕事がそれだ。人気ゲームの舞台化。とある二次元のキャラクターを演じることになっている。
「こういう『推し』とかってなんだか難しいし、ちょっと驚きますね」
「え?」
「ほら、この『推し』のいる生活だとか、ぬいぐるみとお散歩だとか……すごいことを考えますよね、人間って」
「いや、新崎さん……あなたにだって『推し』がいるじゃないですか」
 きょとんと小首をかしげたうさぎの待ち受け画像のあの、しまらない顔の男性はなんだというのだ。
「そのひとだけ特別っていうのも『推し』の一種ではないかと思うのですが……って言ったら違いますか?」
 伊東が、千尋崇彦のことを指したのだろう。新崎は苦笑いした。
「たしかに推しかもしれないですけど……なんかそれだけじゃなくて。役者として彼の脚本を演じたいし、憧れではあるんですけど、それだけでもなくて。きっと俺、千尋さんのぬいぐるみだけじゃ、心が間に合わないと思います」
 伊東が笑った。うさぎちゃんは、うさぎちゃんだった。(了)

#==2023.09.07 0909みん好きわっしょい「君にだけ特別」ー=#
しおりを挟む

✿俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)
攻め:新崎迅人 若手俳優でぽんこつ × 受け:千尋崇彦 日曜脚本家さん

✿シリーズ一覧>>>1.delete=number/2.目指す道の途中で/3.追いつく先においついて4.ご飯でもお風呂でもなくて/5.可愛いに負けてる/6.チョコレートのお返し、ください。/6.膝小僧を擦りむいて

✿掌編>>>白髪ができても / むっとしちゃうの
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初夢はサンタクロース

阿沙🌷
BL
大きなオーディションに失敗した新人俳優・新崎迅人を恋人に持つ日曜脚本家の千尋崇彦は、クリスマス当日に新崎が倒れたと連絡を受ける。原因はただの過労であったが、それから彼に対してぎくしゃくしてしまって――。 「千尋さん、俺、あなたを目指しているんです。あなたの隣がいい。あなたの隣で胸を張っていられるように、ただ、そうなりたいだけだった……なのに」 顔はいいけれど頭がぽんこつ、ひたむきだけど周りが見えない年下攻め×おっとりしているけれど仕事はバリバリな多分天然(?)入りの年上受け 俳優×脚本家シリーズ(と勝手に名付けている)の、クリスマスから大晦日に至るまでの話、多分、そうなる予定!! ※年末までに終わらせられるか書いている本人が心配です。見切り発車で勢いとノリとクリスマスソングに乗せられて書き始めていますが、その、えっと……えへへ。まあその、私、やっぱり、年上受けのハートに年下攻めの青臭い暴走的情熱がガツーンとくる瞬間が最高に萌えるのでそういうこと(なんのこっちゃ)。

むっとしちゃうの

阿沙🌷
BL
新進気鋭の新人俳優、新崎迅人は、年上の恋人である千尋崇彦との待ち合わせにウキウキしていた。のだが、街中をゆく周囲の人のささやき声に、むっとしてしまって――。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

俺、ポメった

三冬月マヨ
BL
なんちゃってポメガバース。 初恋は実らないって言うけれど…? ソナーズに投稿した物と同じです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...