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.きみにだけ特別

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「推し活」が流行りらしい。推し活についてのネット記事をスマホで眺めていた新崎はマネージャーの伊東に声をかけられて、顔をあげた。
「どうしたんです? そんな記事なんて読んで」
 いつも、今みたいに、ロケ地へ向かう移動中の車内では、スマホ待ち受けにしているとある男性のへろ~っとした笑顔の写真を見て、へろ~っとだらしない顔をしているのに、と伊東の目が言っていた。
「いえ、ちょ、ちょっと気になりまして、こういうの……」
 もじもじと新崎が答える。役に入ればあれほど、かっこいいのに、普段はただの「うさぎ」だ。小動物のようだ。伊東は微笑んだ。
「舞台が心配ですか?」
「え? あ、いや、知り合いがこういう感じの子らしくて……って、あ、え?」
「へぇ、そうなんですか? てっきり次の舞台がゲーム原作だから、こういうことに興味を持ち出したのかと思いまして」
「い、いや、それもあります……」
 新崎が現在抱えている仕事がそれだ。人気ゲームの舞台化。とある二次元のキャラクターを演じることになっている。
「こういう『推し』とかってなんだか難しいし、ちょっと驚きますね」
「え?」
「ほら、この『推し』のいる生活だとか、ぬいぐるみとお散歩だとか……すごいことを考えますよね、人間って」
「いや、新崎さん……あなたにだって『推し』がいるじゃないですか」
 きょとんと小首をかしげたうさぎの待ち受け画像のあの、しまらない顔の男性はなんだというのだ。
「そのひとだけ特別っていうのも『推し』の一種ではないかと思うのですが……って言ったら違いますか?」
 伊東が、千尋崇彦のことを指したのだろう。新崎は苦笑いした。
「たしかに推しかもしれないですけど……なんかそれだけじゃなくて。役者として彼の脚本を演じたいし、憧れではあるんですけど、それだけでもなくて。きっと俺、千尋さんのぬいぐるみだけじゃ、心が間に合わないと思います」
 伊東が笑った。うさぎちゃんは、うさぎちゃんだった。(了)

#==2023.09.07 0909みん好きわっしょい「君にだけ特別」ー=#
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