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#030 恩恵、いただきましたッ! ※
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性行為のシーンはありますが、アッサリめです。
※付けなくても良いかも位の感じですが、一応。
――――――――――――――――――――――――――――――
そもそも。
近隣村からの、整備された街道を真っ直ぐ通して、中央広場があるんだよ。
大抵の都市って、まずその村なり町なりの発祥地点は、水源を中心に造られる。
井戸、あるいは泉を共同で使えるように大切に囲って、ためる池を造る。
そして、大抵の場合はその正面に神殿を置く。
神殿には塔が建てられて、時計や鐘が設置される。
命の源である水があり、そこで生活する人々全員が“時間”という概念を共有出来るように。
その泉の周り、そして神殿の前面周辺がマーケット広場になる。
最初は物々交換のために朝市などが開かれるウチに、そこが商業地化していく。
大抵の洋式の都市は、そんな風にまず中心が決まり、そこから放射状に広がって発展していく。
だから、このチノ山原生林地帯の温泉地も、同じように、まず中心部に水源を設置した。
ただ、ここはこの世界でも珍しい温泉地である事が原点だ。
だから。
当然中央広場の真ん中には白石で囲われた溜め池が造られているのだけど、水では無く温泉なんだ。
中心部分が噴水仕様になっていて、一定の量が湧いている。
まあ、実は源泉から引いてきているんだけどね。源泉のある場所は神域だから。
で、そのお湯は囲われた池の、周辺の浅いところに溜まる。そこにはベンチが所々に造られていて、足湯が出来るんだ。
足湯用ベンチの近く、所々に真水の出る水栓も設置されている。
この水栓から、真水を汲んで持っていっても構わない。それらは本来の共同井戸の機能も持つ。
しかも。
中央広場の周辺には簡易店舗用スペースが造られていて、商業ギルドに申請して契約すれば出店出来る。これは期間契約だ。
簡易では無く、ちゃんとした常設店舗スペースもある。長屋式にいくつもの店舗がずらりと横並びになっている、所謂モールってヤツだ。
その中の一軒は既に売却済み。榊さんの温泉まんじゅう屋さんが入る事になって居る。
俺の別荘はその中央広場よりは奥まった、幾分神域に近い方なんだけど、比較的近い場所に王侯貴族向けの一流ホテル仕様の建物。
ホテルの一階部分には貸しオフィスや店舗なども入る仕様になっている。
また、エントランスホールの奥に転移ポータルがある。財力のある王侯貴族は主にこのポータルからの来訪を推奨。
建物の裏側には整備された庭園なんかもある。
中央広場に面してもう一棟。これは下位貴族や中流以上の平民向け。
もっとも賑やかな区域。
一階部分にはレストランやカフェテリア、居酒屋、雑貨屋、商業ギルド、観光ギルドの出張所などがある。
そして、少し中央広場から離れた、街道からの入り口に近いエリアにもう一棟。
低層階で、横に広い宿泊施設だから、範囲自体は広い。
これは、お安く済ませたい人向け素泊まり宿でもあり、長逗留向け自炊湯治場でもある。
長逗留向けの、寝具や湯治・自炊用品の貸し出し所、生活雑貨店や薬局、古着屋が併設されている。
それぞれの宿にもちろん温泉浴場はあるのだが、中央広場の近くにこの村の公共浴場もある。この公共浴場の周りは公園になって居て、子供向けの遊び場もある。
そして、治癒師や村の治安を護る警邏騎士団の詰め所も。
なんかスゴいでしょ?
本当に温泉街っていう風情だよね。
最初の頃には、まずお試しでひっそりと俺の別荘から…って話だった。
でも、地鎮祭もどきの儀式とか、着工式とかが取材やら何やら、内外でかなりの話題になって。
俺達もちょっと軽くインタビューなどされたから、温泉についての基礎的な知識を説明したりして。
我々が元いた異世界では、温泉って健康にも良いし、立派な観光資源だったんだよって。
ついでに言うなら「みなさんも是非訪れてみて下さいね~」と言っちゃったんだよね。
そしたら、思った以上にそれの反響が凄くて。
ラグンフリズ王国の大使関連にはもちろん、王都のお役所やら、各地の政務局、観光ギルド、グリエンテ商会のあちこちの支店窓口に対応しきれないほどの問い合わせがあったんだって。
「そのオンセンに行ってみたい」「観光地にはしないのか」「そのオンセンというモノに生で触れてみたい」「宿泊施設はあるのか」「今から予約しても大丈夫?」「ツアーの受け入れは出来るのか?」「その村に土地を買う事は可能か」「その場所で商売がしたいけどドコに申請すれば良いのか」
等々。
その時点で、まだ上下水道も俺の別荘規模でしか勧めてなかったんだけど、急遽市街地並みのインフラ土木工事に規模を拡大する事が関係各省で決められて。
三つの宿泊施設の建造も、公共施設の設置もバタバタと決められていった。
当時のシモン様は会う度に疲労困憊していって、終いには幽鬼のようだった。
リオネス様の機嫌が次第に悪くなっていったから「竣工したら、ウチの別荘にご招待しますから、是非ごふうふでゆっくりしに来て下さい」と言って宥めたりして。
ご招待第一号だ。
先輩神子様達よりも先にご招待ですよ。
ところで。
少し巻き戻るけど。
施設が完全に竣工するよりも先に、まず、眷属様用の露天風呂を造りましょうという流れになった。
他の露天風呂よりも大きめだし。眷属様用のなら、あまり余計なオブジェとか置かない方が良いだろう、何しろ翼だの大きな角だのお持ちで、邪魔になっても困るし。
つまりは、大きくて、最もシンプルな作りになるだろうからと。
そして、いち早く完成したその露天風呂を、問題ないかどうか確かめるために一度試しに入ってみてくれと言う事になった。
じゃあ、神子組の皆さんでと、ミランが勧めてくれたんだけど、仙元さんと榊さんは「いや、ここは三倉さんカップルでしょう」と俺とミランに譲ってくれた。
「だって、元々、その為に三倉さんが望んだんでしょう?」
ウッ、ばればれ?
いやぁ~…。
コレがね。
最高だったんだよ。
月明かりに烟る湯気が…こう立ち昇って行く、遙か上空に星を見上げて。
虫の声と梢のさやぎと、森の奥から静かに聴こえるフクロウの声。
それで隣に濡れたマクミランだよ。
一緒に浸かっているんだよ。直ぐそこに。
月明かりの水面が揺れて…。濡れた肌に反射して。
恍惚としない方がおかしいよね?
俺もミランも、何というか…ムードに酔ったんだと思う。
風呂から上がったあとも、ふわふわした気分で。
お互い大変盛り上がりまして。
思わずそのまま自宅の寝室に転移して、かなり濃密な夜を堪能する流れになっちゃって。
三日三晩ヤッてたと言えるくらいの状態だった。
途中ちゃんと食事も摂ったし、王宮との連絡も取ったし、身支度もしたし、後片付けもしたけど。
気がつくと始まってしまっていた。
当然ながら、先輩達や関係者にも、どこからともなくそんな有様だった事は伝わり…。
どうやら。
カップルで入浴するとそういう効果が得られるらしい、という噂があっという間に広がったんだよね。
特に、眷属様用の露天風呂工事は、商業目的とは違うから王宮管轄だった。
故に、王宮に出入りする貴族達の間に、ワッと広まったんだよね。
アーノルド様はリシェンナ王妃殿下がご懐妊中だから、ご夫婦でのご利用は暫くお預けで、酷く悔しそうだった。
エルンスト様は速攻奥様を伴っての予約を入れて。
リオネス様などは、なぜかこっそりとミランに探りを入れてきたとか。
本当に媚薬のような効果が得られるのか?とかなんとか。
「そう言うのでは無いと思います」
とミランはスパッと答えたらしいけど。
ただそう答えた後で、しみじみと「でも、夜の景色を眺めながら二人きりで湯に浸かっていると、だんだんと切実に相手への愛しさが膨らんできて、無性に交わりたい気持ちになるのはなぜなのでしょうか」とかなり真剣に質問返しをしたらしい。
速攻、リオネス様も予約を入れようと義兄のところに突撃してきた。
いやいや、あなた方の事はウチにご招待しているじゃ無いですか!と言ったらハッとしていた。
ガツガツしすぎて記憶飛んでたらしい。
そう言えば、竣工記念パーティーを催すとのお知らせが来た。
王家も関わる公共事業だし、もう既に内外からの関心度も高いから、竣工&開村記念はしないといけないのだとか。
当然、王侯貴族向けのホテルのホールで、パーティーが行われるのだけど、昼間は一般来村客向けに、広場で開村祭なるイベントが行われることに。
そこでやっぱり俺達は例の神子舞いをご披露したのだ。
昼間の祭には湯治客や観光客だけで無く、近隣の村人達もやって来て、大変な賑やかさだった。
王侯貴族向けホテルは国賓も含め満杯。祭と言いながら、一種の外交ともいえた。
当然先輩神子も一緒に、俺達も顔は出したけど。
俺は俺専用の館を持っていて、心底ヨカッタと思った。
そうで無ければ、きっとあの外交の場にずっと付き合わなければならなかっただろうから。
俺の知り合い関係者は、当然ウチにお泊まり頂く事になる。
その日以前から、準備も含め、俺とミランは新築の別荘にここ一ヶ月近くも滞在している。
ごくたまに転移でハズレの村にも戻ったりはしていたが。
だからその間、ずっと温泉に入り放題だったんだ。
で、満月の夜。
露天風呂に入った時に、ミランが酷く驚いた顔でこちらを見るから、何だろうかと思った。
ん?と思って自分の体見たら、ぼんやりと発光しているじゃない!
えっ、何コレ?
めっちゃ焦った。だって、光ってるの俺だけで、ミランは普通。
まあ発光なんてして無くても、彼の、月明かりに濡れたアポロンボディは堪らなく眩しいけどぉ。
だからか。
その夜、やっぱり盛り上がったんだよね。
めくるめく官能の波に溺れた。何度も何度もイカされた。
息も絶え絶えで、もう何も考えられなくなったとき、ふふっとミランが笑ったんだ。
窓から差し込む月光にうっすらと照らされて、その目は少し銀色がかって見えた。
彼は…ギラついた目で不敵に俺を見下ろし。
ニヤリと舌なめずりをした。
「…なかなかに…可愛く鳴いてくれる…」
俺は息を飲んだ。
…ミラン…じゃない?
ヌシ様……?
それは一瞬だった。
次の瞬間にはいつものミランに戻って、愛しそうに俺の唇を貪ってきて、掻き抱かれて、名を呼ばれながら突きあげられて…。
翌朝、ほんの少し…まさか?とは思った。
肌が明らかに潤ツヤになってんの。
まあ、夕べあれだけの運動をしたと言うだけで無く、温泉に入った後って眠りも深くなるから、そういう熟睡効果もあるのかなとも思った。
それと、…まあ、それだけで無く、最近ちょっと気になり始めていた部分的なタルミ?ってのが、キュッとなったような気もしたけど…う~ん、気のせいだよな、と思った。
けど、俺が感じるよりも周囲の人達の方がそれを感じ取ったらしく。
メイド達なんか、騒然として。手が空くと、隙を見て温泉に入りに行ってた。
そうこうして、準備期間を終えてのお祭りを迎えたんだけど。
先輩神子様達も王族の皆さんも、親戚の皆さんも、その他知り合いの方々も申し合わせたように「えっ?お化粧しています?」と訊いてきた。
無論スッピンですよ。おっさんだもの。
何でか隣でミランはドヤ顔だった。
「神子様が仰った事は本当だったのですよ!本当に体にもお肌にも良いって事がおわかりですね。ここ一ヶ月ほどの間、ここに滞在している間、毎日、それも一日に数回オンセンに入って居ましたから!」
婦人達の反応は凄まじかった。
その都度、悲鳴にも似た声が上がったくらいだった。
まーアレですよ、美肌の湯だとか若返りの湯だとか、果ては媚薬の湯だとか回春の湯だとかまで盛りに盛られたキャッチコピーが積み重なっていったのよ。
かくして、チノ山温泉郷は、極めて予約が取りにくい状態になり、更に発展して宿泊施設を増やす算段になった。
チノ山温泉郷。
なんか、そう来るんじゃ無いかっていやな予感はあったんだけど、やっぱり一般には「神子の湯」とか「神子温泉」と呼ばれるようになった。
気がついたら、仙元さんは中流層向けホテルの支配人になっていた。
奥様もこの温泉郷に居を構えていらっしゃる。
スッゴく生き生きしてる。ホテルの仕事、好きだったんだな~。
榊さんの温泉まんじゅう屋さんの隣は、エンドファンのお店となった。温泉の成分を利用した化粧品や軟膏、あと完成させた純米酒「SAKE」を売っている。
ミランは一度、夜中に人目を忍んで露天風呂に入りに行っている、榊さんとエンドファンを見たと言っていた。
…えっ、榊さん?いつの間に!
ある時、咲本君ことエリオット・エンゲルト氏からの手紙が届いた。
やっと時間が取れたから、俺の別荘に来てくれるという内容だった。
以前からご招待の便りは出していたのだけど。
微妙な表情のミランに「伴侶殿もご一緒に来てくれるらしいよ」と告げるとビックリした顔をしていた。
「既婚者だったのですか?」
「そうだよ。だから君が心配する必要は無いって、言っただろ?」
お相手は四つ年上の先輩魔法使いさんらしい。
転生しても“先輩”好きなんだなと思って笑った。
それでもミランは不満げだった。
ちょっと拗ねてるみたい。
なんだよ、と思って額を小突くと、ムッとして抱きしめられた。
「分かってないんですよ。あなたは。最近のあなたはいちいち人目を惹き付けるんです。オンセンのせいか、肌つやは以前より若返ったみたいなのに、妖しさが増して。本当は誰にも会わせたくない位なんです」
あらららら…。
ヤダもう、ウチの旦那が可愛すぎてツラいわ。
いや、でも実際、オンセンのせいなのかな?
アンチエイジングというか。魔力も完全回復したら、前より強まっているし。
肌だけでなく、体の調子も良いんだよ。だって、ちょっと前までは一晩にあんなに何回もヤりまくっていたら、翌日、というか数日は大変な事になって居たのに。
…なんか。
今だと毎晩行けそう?とかね(笑)
う~ん。
ひょっとして…。
いや、多分。
あの満月の晩、あの時、ヌシ様、やっぱりミランに憑依したんだと思うんだよな。
んで、俺、ヌシ様のお供物になったんじゃないのか?
その恩恵を頂いてるのだったりして…。
まあ、あくまでも俺の憶測。
ミランには内緒。
だって、あの時。
ちょっと邪悪なカオになったミランにゾクゾクした。
…なんて言ったら、きっと妬いちゃうだろ?
俺は口許に浮かぶ思い出し笑いを誤魔化すように、はだけた浴衣から覗く少し汗ばんだ胸に頬擦りした。
―――――― 終 ――――――
――――――――――――――――――――――――――――――
これにて完結です。
壮大な甘々のろけ話で、誠に何とも…でした。
でも、最後までお付き合い下さって、ありがとうございました!
まだまだ未熟者ではありますが、またトライしたいです。
暖かく見守って下さった皆様に心から感謝をーッ!
※付けなくても良いかも位の感じですが、一応。
――――――――――――――――――――――――――――――
そもそも。
近隣村からの、整備された街道を真っ直ぐ通して、中央広場があるんだよ。
大抵の都市って、まずその村なり町なりの発祥地点は、水源を中心に造られる。
井戸、あるいは泉を共同で使えるように大切に囲って、ためる池を造る。
そして、大抵の場合はその正面に神殿を置く。
神殿には塔が建てられて、時計や鐘が設置される。
命の源である水があり、そこで生活する人々全員が“時間”という概念を共有出来るように。
その泉の周り、そして神殿の前面周辺がマーケット広場になる。
最初は物々交換のために朝市などが開かれるウチに、そこが商業地化していく。
大抵の洋式の都市は、そんな風にまず中心が決まり、そこから放射状に広がって発展していく。
だから、このチノ山原生林地帯の温泉地も、同じように、まず中心部に水源を設置した。
ただ、ここはこの世界でも珍しい温泉地である事が原点だ。
だから。
当然中央広場の真ん中には白石で囲われた溜め池が造られているのだけど、水では無く温泉なんだ。
中心部分が噴水仕様になっていて、一定の量が湧いている。
まあ、実は源泉から引いてきているんだけどね。源泉のある場所は神域だから。
で、そのお湯は囲われた池の、周辺の浅いところに溜まる。そこにはベンチが所々に造られていて、足湯が出来るんだ。
足湯用ベンチの近く、所々に真水の出る水栓も設置されている。
この水栓から、真水を汲んで持っていっても構わない。それらは本来の共同井戸の機能も持つ。
しかも。
中央広場の周辺には簡易店舗用スペースが造られていて、商業ギルドに申請して契約すれば出店出来る。これは期間契約だ。
簡易では無く、ちゃんとした常設店舗スペースもある。長屋式にいくつもの店舗がずらりと横並びになっている、所謂モールってヤツだ。
その中の一軒は既に売却済み。榊さんの温泉まんじゅう屋さんが入る事になって居る。
俺の別荘はその中央広場よりは奥まった、幾分神域に近い方なんだけど、比較的近い場所に王侯貴族向けの一流ホテル仕様の建物。
ホテルの一階部分には貸しオフィスや店舗なども入る仕様になっている。
また、エントランスホールの奥に転移ポータルがある。財力のある王侯貴族は主にこのポータルからの来訪を推奨。
建物の裏側には整備された庭園なんかもある。
中央広場に面してもう一棟。これは下位貴族や中流以上の平民向け。
もっとも賑やかな区域。
一階部分にはレストランやカフェテリア、居酒屋、雑貨屋、商業ギルド、観光ギルドの出張所などがある。
そして、少し中央広場から離れた、街道からの入り口に近いエリアにもう一棟。
低層階で、横に広い宿泊施設だから、範囲自体は広い。
これは、お安く済ませたい人向け素泊まり宿でもあり、長逗留向け自炊湯治場でもある。
長逗留向けの、寝具や湯治・自炊用品の貸し出し所、生活雑貨店や薬局、古着屋が併設されている。
それぞれの宿にもちろん温泉浴場はあるのだが、中央広場の近くにこの村の公共浴場もある。この公共浴場の周りは公園になって居て、子供向けの遊び場もある。
そして、治癒師や村の治安を護る警邏騎士団の詰め所も。
なんかスゴいでしょ?
本当に温泉街っていう風情だよね。
最初の頃には、まずお試しでひっそりと俺の別荘から…って話だった。
でも、地鎮祭もどきの儀式とか、着工式とかが取材やら何やら、内外でかなりの話題になって。
俺達もちょっと軽くインタビューなどされたから、温泉についての基礎的な知識を説明したりして。
我々が元いた異世界では、温泉って健康にも良いし、立派な観光資源だったんだよって。
ついでに言うなら「みなさんも是非訪れてみて下さいね~」と言っちゃったんだよね。
そしたら、思った以上にそれの反響が凄くて。
ラグンフリズ王国の大使関連にはもちろん、王都のお役所やら、各地の政務局、観光ギルド、グリエンテ商会のあちこちの支店窓口に対応しきれないほどの問い合わせがあったんだって。
「そのオンセンに行ってみたい」「観光地にはしないのか」「そのオンセンというモノに生で触れてみたい」「宿泊施設はあるのか」「今から予約しても大丈夫?」「ツアーの受け入れは出来るのか?」「その村に土地を買う事は可能か」「その場所で商売がしたいけどドコに申請すれば良いのか」
等々。
その時点で、まだ上下水道も俺の別荘規模でしか勧めてなかったんだけど、急遽市街地並みのインフラ土木工事に規模を拡大する事が関係各省で決められて。
三つの宿泊施設の建造も、公共施設の設置もバタバタと決められていった。
当時のシモン様は会う度に疲労困憊していって、終いには幽鬼のようだった。
リオネス様の機嫌が次第に悪くなっていったから「竣工したら、ウチの別荘にご招待しますから、是非ごふうふでゆっくりしに来て下さい」と言って宥めたりして。
ご招待第一号だ。
先輩神子様達よりも先にご招待ですよ。
ところで。
少し巻き戻るけど。
施設が完全に竣工するよりも先に、まず、眷属様用の露天風呂を造りましょうという流れになった。
他の露天風呂よりも大きめだし。眷属様用のなら、あまり余計なオブジェとか置かない方が良いだろう、何しろ翼だの大きな角だのお持ちで、邪魔になっても困るし。
つまりは、大きくて、最もシンプルな作りになるだろうからと。
そして、いち早く完成したその露天風呂を、問題ないかどうか確かめるために一度試しに入ってみてくれと言う事になった。
じゃあ、神子組の皆さんでと、ミランが勧めてくれたんだけど、仙元さんと榊さんは「いや、ここは三倉さんカップルでしょう」と俺とミランに譲ってくれた。
「だって、元々、その為に三倉さんが望んだんでしょう?」
ウッ、ばればれ?
いやぁ~…。
コレがね。
最高だったんだよ。
月明かりに烟る湯気が…こう立ち昇って行く、遙か上空に星を見上げて。
虫の声と梢のさやぎと、森の奥から静かに聴こえるフクロウの声。
それで隣に濡れたマクミランだよ。
一緒に浸かっているんだよ。直ぐそこに。
月明かりの水面が揺れて…。濡れた肌に反射して。
恍惚としない方がおかしいよね?
俺もミランも、何というか…ムードに酔ったんだと思う。
風呂から上がったあとも、ふわふわした気分で。
お互い大変盛り上がりまして。
思わずそのまま自宅の寝室に転移して、かなり濃密な夜を堪能する流れになっちゃって。
三日三晩ヤッてたと言えるくらいの状態だった。
途中ちゃんと食事も摂ったし、王宮との連絡も取ったし、身支度もしたし、後片付けもしたけど。
気がつくと始まってしまっていた。
当然ながら、先輩達や関係者にも、どこからともなくそんな有様だった事は伝わり…。
どうやら。
カップルで入浴するとそういう効果が得られるらしい、という噂があっという間に広がったんだよね。
特に、眷属様用の露天風呂工事は、商業目的とは違うから王宮管轄だった。
故に、王宮に出入りする貴族達の間に、ワッと広まったんだよね。
アーノルド様はリシェンナ王妃殿下がご懐妊中だから、ご夫婦でのご利用は暫くお預けで、酷く悔しそうだった。
エルンスト様は速攻奥様を伴っての予約を入れて。
リオネス様などは、なぜかこっそりとミランに探りを入れてきたとか。
本当に媚薬のような効果が得られるのか?とかなんとか。
「そう言うのでは無いと思います」
とミランはスパッと答えたらしいけど。
ただそう答えた後で、しみじみと「でも、夜の景色を眺めながら二人きりで湯に浸かっていると、だんだんと切実に相手への愛しさが膨らんできて、無性に交わりたい気持ちになるのはなぜなのでしょうか」とかなり真剣に質問返しをしたらしい。
速攻、リオネス様も予約を入れようと義兄のところに突撃してきた。
いやいや、あなた方の事はウチにご招待しているじゃ無いですか!と言ったらハッとしていた。
ガツガツしすぎて記憶飛んでたらしい。
そう言えば、竣工記念パーティーを催すとのお知らせが来た。
王家も関わる公共事業だし、もう既に内外からの関心度も高いから、竣工&開村記念はしないといけないのだとか。
当然、王侯貴族向けのホテルのホールで、パーティーが行われるのだけど、昼間は一般来村客向けに、広場で開村祭なるイベントが行われることに。
そこでやっぱり俺達は例の神子舞いをご披露したのだ。
昼間の祭には湯治客や観光客だけで無く、近隣の村人達もやって来て、大変な賑やかさだった。
王侯貴族向けホテルは国賓も含め満杯。祭と言いながら、一種の外交ともいえた。
当然先輩神子も一緒に、俺達も顔は出したけど。
俺は俺専用の館を持っていて、心底ヨカッタと思った。
そうで無ければ、きっとあの外交の場にずっと付き合わなければならなかっただろうから。
俺の知り合い関係者は、当然ウチにお泊まり頂く事になる。
その日以前から、準備も含め、俺とミランは新築の別荘にここ一ヶ月近くも滞在している。
ごくたまに転移でハズレの村にも戻ったりはしていたが。
だからその間、ずっと温泉に入り放題だったんだ。
で、満月の夜。
露天風呂に入った時に、ミランが酷く驚いた顔でこちらを見るから、何だろうかと思った。
ん?と思って自分の体見たら、ぼんやりと発光しているじゃない!
えっ、何コレ?
めっちゃ焦った。だって、光ってるの俺だけで、ミランは普通。
まあ発光なんてして無くても、彼の、月明かりに濡れたアポロンボディは堪らなく眩しいけどぉ。
だからか。
その夜、やっぱり盛り上がったんだよね。
めくるめく官能の波に溺れた。何度も何度もイカされた。
息も絶え絶えで、もう何も考えられなくなったとき、ふふっとミランが笑ったんだ。
窓から差し込む月光にうっすらと照らされて、その目は少し銀色がかって見えた。
彼は…ギラついた目で不敵に俺を見下ろし。
ニヤリと舌なめずりをした。
「…なかなかに…可愛く鳴いてくれる…」
俺は息を飲んだ。
…ミラン…じゃない?
ヌシ様……?
それは一瞬だった。
次の瞬間にはいつものミランに戻って、愛しそうに俺の唇を貪ってきて、掻き抱かれて、名を呼ばれながら突きあげられて…。
翌朝、ほんの少し…まさか?とは思った。
肌が明らかに潤ツヤになってんの。
まあ、夕べあれだけの運動をしたと言うだけで無く、温泉に入った後って眠りも深くなるから、そういう熟睡効果もあるのかなとも思った。
それと、…まあ、それだけで無く、最近ちょっと気になり始めていた部分的なタルミ?ってのが、キュッとなったような気もしたけど…う~ん、気のせいだよな、と思った。
けど、俺が感じるよりも周囲の人達の方がそれを感じ取ったらしく。
メイド達なんか、騒然として。手が空くと、隙を見て温泉に入りに行ってた。
そうこうして、準備期間を終えてのお祭りを迎えたんだけど。
先輩神子様達も王族の皆さんも、親戚の皆さんも、その他知り合いの方々も申し合わせたように「えっ?お化粧しています?」と訊いてきた。
無論スッピンですよ。おっさんだもの。
何でか隣でミランはドヤ顔だった。
「神子様が仰った事は本当だったのですよ!本当に体にもお肌にも良いって事がおわかりですね。ここ一ヶ月ほどの間、ここに滞在している間、毎日、それも一日に数回オンセンに入って居ましたから!」
婦人達の反応は凄まじかった。
その都度、悲鳴にも似た声が上がったくらいだった。
まーアレですよ、美肌の湯だとか若返りの湯だとか、果ては媚薬の湯だとか回春の湯だとかまで盛りに盛られたキャッチコピーが積み重なっていったのよ。
かくして、チノ山温泉郷は、極めて予約が取りにくい状態になり、更に発展して宿泊施設を増やす算段になった。
チノ山温泉郷。
なんか、そう来るんじゃ無いかっていやな予感はあったんだけど、やっぱり一般には「神子の湯」とか「神子温泉」と呼ばれるようになった。
気がついたら、仙元さんは中流層向けホテルの支配人になっていた。
奥様もこの温泉郷に居を構えていらっしゃる。
スッゴく生き生きしてる。ホテルの仕事、好きだったんだな~。
榊さんの温泉まんじゅう屋さんの隣は、エンドファンのお店となった。温泉の成分を利用した化粧品や軟膏、あと完成させた純米酒「SAKE」を売っている。
ミランは一度、夜中に人目を忍んで露天風呂に入りに行っている、榊さんとエンドファンを見たと言っていた。
…えっ、榊さん?いつの間に!
ある時、咲本君ことエリオット・エンゲルト氏からの手紙が届いた。
やっと時間が取れたから、俺の別荘に来てくれるという内容だった。
以前からご招待の便りは出していたのだけど。
微妙な表情のミランに「伴侶殿もご一緒に来てくれるらしいよ」と告げるとビックリした顔をしていた。
「既婚者だったのですか?」
「そうだよ。だから君が心配する必要は無いって、言っただろ?」
お相手は四つ年上の先輩魔法使いさんらしい。
転生しても“先輩”好きなんだなと思って笑った。
それでもミランは不満げだった。
ちょっと拗ねてるみたい。
なんだよ、と思って額を小突くと、ムッとして抱きしめられた。
「分かってないんですよ。あなたは。最近のあなたはいちいち人目を惹き付けるんです。オンセンのせいか、肌つやは以前より若返ったみたいなのに、妖しさが増して。本当は誰にも会わせたくない位なんです」
あらららら…。
ヤダもう、ウチの旦那が可愛すぎてツラいわ。
いや、でも実際、オンセンのせいなのかな?
アンチエイジングというか。魔力も完全回復したら、前より強まっているし。
肌だけでなく、体の調子も良いんだよ。だって、ちょっと前までは一晩にあんなに何回もヤりまくっていたら、翌日、というか数日は大変な事になって居たのに。
…なんか。
今だと毎晩行けそう?とかね(笑)
う~ん。
ひょっとして…。
いや、多分。
あの満月の晩、あの時、ヌシ様、やっぱりミランに憑依したんだと思うんだよな。
んで、俺、ヌシ様のお供物になったんじゃないのか?
その恩恵を頂いてるのだったりして…。
まあ、あくまでも俺の憶測。
ミランには内緒。
だって、あの時。
ちょっと邪悪なカオになったミランにゾクゾクした。
…なんて言ったら、きっと妬いちゃうだろ?
俺は口許に浮かぶ思い出し笑いを誤魔化すように、はだけた浴衣から覗く少し汗ばんだ胸に頬擦りした。
―――――― 終 ――――――
――――――――――――――――――――――――――――――
これにて完結です。
壮大な甘々のろけ話で、誠に何とも…でした。
でも、最後までお付き合い下さって、ありがとうございました!
まだまだ未熟者ではありますが、またトライしたいです。
暖かく見守って下さった皆様に心から感謝をーッ!
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「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
涙の悪役令息〜君の涙の理由が知りたい〜
ミクリ21
BL
悪役令息のルミナス・アルベラ。
彼は酷い言葉と行動で、皆を困らせていた。
誰もが嫌う悪役令息………しかし、主人公タナトス・リエリルは思う。
君は、どうしていつも泣いているのと………。
ルミナスは、悪行をする時に笑顔なのに涙を流す。
表情は楽しそうなのに、流れ続ける涙。
タナトスは、ルミナスのことが気になって仕方なかった。
そして………タナトスはみてしまった。
自殺をしようとするルミナスの姿を………。
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
溺愛
papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。
※やってないです。
※オメガバースではないです。
【リクエストがあれば執筆します。】
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王子の宝剣からの作家読みで、ここまできました。
同じ世界線で面白く、ふふふっと思う箇所もあり大満足(お腹いっぱい)ですが、まだまだ食べられます。おかわり有りますか?
これからの作品も大変楽しみにしております。
良いお年をお過ごしください。来年も宜しくお願いします。
TOON様。
長い話を次々と読んで下さってありがとうございます!
感想も頂き、今年の年の瀬は良い感じに締められて感謝感激です。
なかなか更新出来なくなってしまいましたが、今後もぼちぼち頑張りますので
どうぞ思い出したときには見に来てやってください~。