釣った魚、逃した魚

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#73 王国への失望

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隣接している領地の領主達から、併合の打診があった。更に隣隣接して居る三領からも。

エンドファンを紹介したその翌週。
夜、彼の師匠を無事に保護した報告があり、エルンスト様から、ついでのように告げられたのだった。

現在ラグンフリズ王国となった、この元コンセデス領は、片側を隣国と接している辺境領だった。
元の王国側に隣接している他領は四領。そして今回、その四領に相乗りしてきた隣隣接領三領。
それら七領の領主が王国を見限り、ラグンフリズに属することになれば、ほぼ元々の王国の国土の5分の1ほどになる。

コンセデス領自体が他領に比べ面積が広かった。
広大な魔の森を含むこともあるが、二つある隣接国の片方とは、その殆どが渓谷に阻まれ、実質生きている国境線は少ない。
ただ、このように渓谷や岩山なども多く、人が住めるところが当初は少なかった。
そのせいもあり、領面積は元々他領の倍近く有った。

今回併合を望んできた領のうち隣隣接二領も、他に比べ格段に広い領地面積を有している。広いのには理由がある。
片方は峻険な高山を戴き、もう片方は王国で最も大きな湖が横たわっている。
人が経済利用出来る土地が狭く人口も少なければ、徴税率の関係で面積は広めに与えられる事になる。

そして、その二領は、元々大自然の要害を抱くゆえに流通が悪かった。

先の瘴気発生からの、様々な混乱で受けた物流の停滞は、領主達にとって瘴気や魔獣被害以上の大きな災厄だった。
再三にわたり中央に打診していた。
だが、彼らの悲鳴は中央に届かなかった。
結果、彼らはグリエンテ商会に頼った。王都よりはずっとコンセデス領の方が距離的に近かったせいもある。
出発時に路銀もろくに無いまま旅立つしかなかった使者は、到着したときにはボロボロの痩せこけた難民そのものだったという。

グリエンテ商会はすぐに動いた。
連携してコンセデス領からも、人的支援が続々と派遣された。
無論、ただでは無い。有償支援だ。
高山を有する領からは鉱物資源の一部優待採掘権を、湖を有する領には養殖場や避暑地経営の権利を。
それぞれに条件を提示しての長期支援を開始した。
但し、それぞれに加工工場や、それに付随する従業員住居、商業施設も併設することがその条件下にある。
地元での雇用を生み出し経済が回れば、長い目で見て元が返せる上に、領民への恩恵も計り知れないだろう。

こんな事ならば、中央など当てにせず、最初からグリエンテ商会やコンセデス領を頼れば良かったと、どちらの領民も王国に対する苛立ちと現状への安堵から、口々に語られるようになっていた。

もしここで、ラグンフリズ側に付かなければ、それらが白紙になる可能性が高い。
隣接していないにも関わらず、その二領が即座に併合を申し出たのは、状況から見て、もはや一択であり当然の結論とも言える。

隣接領達に至っては言うに及ばずだ。
ここに隣接している領地で、コンセデス領からの物流の恩恵にあずかっていない領などないのだから。

政変が起き、比較的評判の良い王兄殿下が王に押し上げられ、少なからずの期待感があったのは俺も一緒だ。
少なくとも、前陛下よりはきっとよくなるであろうと。
勿論、そんなに劇的に変わるものでも無いのだろうとは思う。市井の民まで浸透するほどの変化は、すぐには現れないだろうし。

だが。
これまでのところ、新政権がして居ることは前政権関係者の断罪、断罪、断罪。
反対勢力だった前政権派閥の高位貴族達を断罪して没収した財は、今どこへ流れているのか。
王都近辺で起きた、暴動の後始末に使われ始めているらしい、と言うのは聞いた。
そう言えば、炊き出しや治安部隊が点在していたっけ。

ただ、それ以外にはこれと言って、中央の“空気”が刷新された手応えも無く、相変わらず地方の疲弊には無関心であり、中央貴族達の地方への蔑みが是正されている様子も無い。
地方領主達はもうウンザリしていた。

七領の併合によって、ラグンフリズ王国の国土は、4倍以上の大きさに膨れ上がることになる。

あの飛竜騎士団を率いて威嚇しに来たは良いが、結果的に簡単に捕縛されたあげく、貴重な飛竜や飛竜の操作に長けた竜騎士も奪われ、その説明責任を負う形で使者の任を担わされたコバス・ベンヤミン。
彼に託されたアーノルド様の書簡には、七領の併合についても記されていたらしい。

あの飛竜騎士団を捕縛した日からみて、既に十数日が過ぎている。
「やっと新国王に書簡が届いたようです。途中の街道が色々と安全ではなかったから、王都に到着するのも危ぶまれたが」
アーノルド様が仰る。

確かに、平時であればスムーズに進めるが、途中途中の馬の休憩所も、市街地の宿泊施設も、混乱の後始末が進まず機能していない所も多い。
領属騎士と山賊化した暴徒はしょっちゅうぶつかり合い、街道の一部が閉鎖されている箇所もあるのだとか。
一応、ベンヤミンには分からぬように、こっそりと護衛は付けていたらしい。

彼に持たせた書簡で七領の併合に触れている、ということは。
コンセデス領がラグンフリズ王国として独立を宣言したほぼ直後…飛竜騎士団部隊が来襲したときは既に…それらの領は王国を離れ、ラグンフリズ王国側に付くことを決めていたと言う事だろう。

とんでもなく速すぎる。
それほどまでに、王国の中央に嫌気が差していたのだろうと義兄は言っていた。
商人として各地を巡り、行く先々で直に人々の声を聞き続けている義兄にとっては、それは当然の流れだったようだ。

「新国王との会談の要請が参りまして」
定期的に呼び出されるようになった王城のサロンで、エルンスト様から告げられた。
ベンヤミンの持ち帰った書簡への返書。転移便で送られてきたらしい。

新国王が坐す、あの王城に招かれたのだという。

アーノルド様は断った。
用があるのはそちらだろう、と。こちら側からは何も無い。用事のある側から来るのが筋である、と。

対して王国側の言い分では、コンセデス領の独立は認めていない。
ゆえに未だコンセデス領は王国の辺境領にすぎず、臣下であるゆえ、礼をもって招聘に応じるようにと。

俺は愕然とした。
神子様は、声を上げて笑った。
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