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#62 領主家三兄弟
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翌日、義兄宅に行くと、姉と義兄が神妙な面持ちで、すぐに領主様のところへ行くようにと告げられた。
幾分焦り気味にも感じる義兄の様子からとても重要そうだ。
即座に向かうことにした。
急なこととは言え、いつも通りの格好で訪れた俺達に、グリエンテ商会が総力を挙げて領主館に行くに恥ずかしくない身支度を調えてくれた。
義兄が引率する。立派な馬車を支度してくれていた。
「以前、領主様に会ったときにはここまで大仰じゃ無かった気がするけど…」
「い、いや、実は今日は領主様のご兄弟お三方がお揃いでな。…まあ、その上での重要な話なんだ」
なんとなく、歯切れが悪い。
義兄の秘書兼護衛が二人ほど、なにやら書類の入った鞄を携えて、騎馬で俺達の乗った馬車に併走している。
俺はこそっとタカに小声で「これってどう言う事なのか分かりますか?」と、暗に神子様の“盗聴”で真相が分からないかどうか訊いてみた。
神子様は少し微笑みながら首を振る。
「このタイミングで探るのはちょっと反則っぽいよ。ご兄弟が揃ってのお話なら、そこで初めて知った方が厳格な感じがするし」
神子様は何だか予想しているのだろうか。
「領主様のご家名はラグンフリズ家です。ご長男はアーノルド様。
ミランは一度会った事あるよな、グリエンテ商会の私設護衛騎士団鍛錬所で。
…で、ご次男はリオネス様。コンセデス領領属騎士団総帥です。
そして、先日の領主様ことご三男はエルネスト様。
神子様どうか、家名とお三方のお名前だけでも覚えておいて下さい」
「了解しました。ご長男はアーノルド様。ご次男はリオネス様。ご三男がエルネスト様、ご家名はラグンフリズ様ですね」
どことなく恐縮してるっぽい様子で、義兄が神子様に伝えた。
領主館に付くと、執事に案内されて応接の間に通される。
そこは豪華な会議室のようにも思えた。
上座に大きめの椅子があり、その前に向かい合わせに二つずつの椅子が並んで重厚なテーブルを囲んで居た。
それらの椅子も立派な物で、ここで領政における重要な管理職が集うのだと感じさせる。国政で言うところの大臣が一堂に会する所だろう。
驚いたのは、なぜか領主家三兄弟が、その下座の席に座っていて、我々が入室した途端に一斉に立ち上がり、小走りで神子様の前に整列すると片膝を突いて胸に手を当て頭を垂れる騎士の最敬礼を捧げた。
「お目にかかれて光栄に存じます。我ら兄弟、向かって右より、アーノルド、リオネス、エルネスト、ふたごころ無く神子様に恭順の意を捧げます。どうかお見知りおき下さいませ」
ご長男のアーノルド様の野太い張りのある声が響く。
神子様は仰天して「な、何をなさいます!どうか、お直り下さい。私は一介の冒険者にすぎず、そのようにして頂くような人間ではありません」と慌てて起立を促した。
お三方は「感謝致します」と告げて立ち上がった。
執事は神子様を上座の席に誘導した。
神子様は必死に固辞したが、義兄に「ここはひとつ彼らの気持ちに応えてあげて下さい」と言われ、仕方なくそこに着席した。
あげくに俺まで「伴侶殿もどうかお側に」と言われて、議長席のすぐ傍らの席に通された。
本来ならば俺は末席、壁際に立っているくらいの立場であるずなのに。
俺の向かいに領主のエルンスト様が座り、その隣にご次男のリオネス様、ご長男のアーノルド様、そして義兄が座った。
神子様は少し居心地が悪そうだった。
それぞれの前に茶が供され、領主様が口を開く。
「驚かれた事と存じます。ここからは少々砕けた口調になる事をお許し下さい」
神子様にそう伝えてから俺の方を向いていつものように豪快な笑顔で切り出した。
「マクミラン!わがコンセデス領は独立する事にしたぞ!」
俺と神子様は同時に「えっ?」と声を上げた。
「あれはただのハッタリだったのでは?」
「まあ、あの時点ではそうだった」
俺の問いに領主様が答えた。徐にリオネス様が、一通の書状を出してきて神子様に「ご覧下さい」と渡した。
それを見たときに神子様の顔が急に険しくなった。
むさ苦しいアーノルド様とエルネスト様に挟まれた、宗教画の殿上人のように麗しいリオネス様もまた、厳しい表情で見つめている。
何度か書面を見直したあと、苦々しく目を伏せながら神子様がその書面を俺に渡した。
その書面には、コンセデス領主に対して、新国王バスティアン(元・王兄殿下)政権の中央審議会最高責任者カイル・エムゾード署名による罪人引き渡し命令が記されていた。
要約すると【国家の重要な救世主である召喚者と、前国王の側室ナタリー妃を誑かし拉致した大罪人、マクミラン・デスタスガスを、速やかに捕縛し、王都へ護送して来るように。またその際には神子様とナタリー妃も保護し、安全に送り届けるように】という内容だった。
「…大罪人…俺が」
思わず呟いてしまうと、その声に反応してか次男のリオネス様が咳き込み始めた。
隣のご長男アーノルド様がその背中をさすってあげている間にすかさず執事が水と薬を持ってきた。
その薬と水を飲んで暫く息を整えた後「見苦しいところを」と謝られた。
「兄は今朝この書状が届いて、書面を見たときから憤りのあまり発作が起きてしまいましてな」
領主様が心配げにリオネス様を見てその肩を慰撫しながら言った。
リオネス様はその美貌に疲れを見せながら、やや息を荒げながら「当然だろう!こんなふざけた書状を見て怒りを覚えないヤツが居るか!」とテーブルの上に手を着いた。
また息が荒くなった弟の背中をさすりながら「分かった分かった。お前はもうそれ以上興奮するな」とアーノルド様が窘める。
「…え、まさか…、これが原因とかですか?…独立の…」
言ったあとに、さすがにそれは自意識過剰がすぎるだろうかと恥ずかしくなったが、領主様は「まあ、きっかけにすぎんよ」と即答した。
「王兄殿下が王座について以前より良くなる可能性も有ったから、一旦引っ込めたが、まあ、期待外れだったって事だな。ウチとしては恩を仇で返すような奴らに忠誠を尽くす気は毛頭無い」
「絶対に、あなた方をあの王家には渡しません」
エルンスト様に続きアーノルド様が決意の籠もった声で言った。
幾分焦り気味にも感じる義兄の様子からとても重要そうだ。
即座に向かうことにした。
急なこととは言え、いつも通りの格好で訪れた俺達に、グリエンテ商会が総力を挙げて領主館に行くに恥ずかしくない身支度を調えてくれた。
義兄が引率する。立派な馬車を支度してくれていた。
「以前、領主様に会ったときにはここまで大仰じゃ無かった気がするけど…」
「い、いや、実は今日は領主様のご兄弟お三方がお揃いでな。…まあ、その上での重要な話なんだ」
なんとなく、歯切れが悪い。
義兄の秘書兼護衛が二人ほど、なにやら書類の入った鞄を携えて、騎馬で俺達の乗った馬車に併走している。
俺はこそっとタカに小声で「これってどう言う事なのか分かりますか?」と、暗に神子様の“盗聴”で真相が分からないかどうか訊いてみた。
神子様は少し微笑みながら首を振る。
「このタイミングで探るのはちょっと反則っぽいよ。ご兄弟が揃ってのお話なら、そこで初めて知った方が厳格な感じがするし」
神子様は何だか予想しているのだろうか。
「領主様のご家名はラグンフリズ家です。ご長男はアーノルド様。
ミランは一度会った事あるよな、グリエンテ商会の私設護衛騎士団鍛錬所で。
…で、ご次男はリオネス様。コンセデス領領属騎士団総帥です。
そして、先日の領主様ことご三男はエルネスト様。
神子様どうか、家名とお三方のお名前だけでも覚えておいて下さい」
「了解しました。ご長男はアーノルド様。ご次男はリオネス様。ご三男がエルネスト様、ご家名はラグンフリズ様ですね」
どことなく恐縮してるっぽい様子で、義兄が神子様に伝えた。
領主館に付くと、執事に案内されて応接の間に通される。
そこは豪華な会議室のようにも思えた。
上座に大きめの椅子があり、その前に向かい合わせに二つずつの椅子が並んで重厚なテーブルを囲んで居た。
それらの椅子も立派な物で、ここで領政における重要な管理職が集うのだと感じさせる。国政で言うところの大臣が一堂に会する所だろう。
驚いたのは、なぜか領主家三兄弟が、その下座の席に座っていて、我々が入室した途端に一斉に立ち上がり、小走りで神子様の前に整列すると片膝を突いて胸に手を当て頭を垂れる騎士の最敬礼を捧げた。
「お目にかかれて光栄に存じます。我ら兄弟、向かって右より、アーノルド、リオネス、エルネスト、ふたごころ無く神子様に恭順の意を捧げます。どうかお見知りおき下さいませ」
ご長男のアーノルド様の野太い張りのある声が響く。
神子様は仰天して「な、何をなさいます!どうか、お直り下さい。私は一介の冒険者にすぎず、そのようにして頂くような人間ではありません」と慌てて起立を促した。
お三方は「感謝致します」と告げて立ち上がった。
執事は神子様を上座の席に誘導した。
神子様は必死に固辞したが、義兄に「ここはひとつ彼らの気持ちに応えてあげて下さい」と言われ、仕方なくそこに着席した。
あげくに俺まで「伴侶殿もどうかお側に」と言われて、議長席のすぐ傍らの席に通された。
本来ならば俺は末席、壁際に立っているくらいの立場であるずなのに。
俺の向かいに領主のエルンスト様が座り、その隣にご次男のリオネス様、ご長男のアーノルド様、そして義兄が座った。
神子様は少し居心地が悪そうだった。
それぞれの前に茶が供され、領主様が口を開く。
「驚かれた事と存じます。ここからは少々砕けた口調になる事をお許し下さい」
神子様にそう伝えてから俺の方を向いていつものように豪快な笑顔で切り出した。
「マクミラン!わがコンセデス領は独立する事にしたぞ!」
俺と神子様は同時に「えっ?」と声を上げた。
「あれはただのハッタリだったのでは?」
「まあ、あの時点ではそうだった」
俺の問いに領主様が答えた。徐にリオネス様が、一通の書状を出してきて神子様に「ご覧下さい」と渡した。
それを見たときに神子様の顔が急に険しくなった。
むさ苦しいアーノルド様とエルネスト様に挟まれた、宗教画の殿上人のように麗しいリオネス様もまた、厳しい表情で見つめている。
何度か書面を見直したあと、苦々しく目を伏せながら神子様がその書面を俺に渡した。
その書面には、コンセデス領主に対して、新国王バスティアン(元・王兄殿下)政権の中央審議会最高責任者カイル・エムゾード署名による罪人引き渡し命令が記されていた。
要約すると【国家の重要な救世主である召喚者と、前国王の側室ナタリー妃を誑かし拉致した大罪人、マクミラン・デスタスガスを、速やかに捕縛し、王都へ護送して来るように。またその際には神子様とナタリー妃も保護し、安全に送り届けるように】という内容だった。
「…大罪人…俺が」
思わず呟いてしまうと、その声に反応してか次男のリオネス様が咳き込み始めた。
隣のご長男アーノルド様がその背中をさすってあげている間にすかさず執事が水と薬を持ってきた。
その薬と水を飲んで暫く息を整えた後「見苦しいところを」と謝られた。
「兄は今朝この書状が届いて、書面を見たときから憤りのあまり発作が起きてしまいましてな」
領主様が心配げにリオネス様を見てその肩を慰撫しながら言った。
リオネス様はその美貌に疲れを見せながら、やや息を荒げながら「当然だろう!こんなふざけた書状を見て怒りを覚えないヤツが居るか!」とテーブルの上に手を着いた。
また息が荒くなった弟の背中をさすりながら「分かった分かった。お前はもうそれ以上興奮するな」とアーノルド様が窘める。
「…え、まさか…、これが原因とかですか?…独立の…」
言ったあとに、さすがにそれは自意識過剰がすぎるだろうかと恥ずかしくなったが、領主様は「まあ、きっかけにすぎんよ」と即答した。
「王兄殿下が王座について以前より良くなる可能性も有ったから、一旦引っ込めたが、まあ、期待外れだったって事だな。ウチとしては恩を仇で返すような奴らに忠誠を尽くす気は毛頭無い」
「絶対に、あなた方をあの王家には渡しません」
エルンスト様に続きアーノルド様が決意の籠もった声で言った。
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