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本編
十四話 魔法概論
しおりを挟むシーラの所有していた錬金術の道具や、失敗作らしいもの、その他の私物を片付けた。シーラが借りていた部屋の後片付けを済ませて、退去するまで少し手間がかかった。
市民権がないと家や土地を所有する事はできず、賃貸も条件が厳しいようだ。シーラは奴隷になった際に市民権を喪失したらしい。なので退去手続きをしていた。
奴隷の所有者が市民権を持っていればいいのだが、市民権の取得は初回は審査で時間がかかるらしい。市民権は一定期間ごとに更新のサブスクリプション契約だった。役所のようなところで手続きを行った。審査には総資産額や、冒険者ギルドや商人ギルドのランクや収入、納税額も加味されるらしい。推薦人の項目があったが、そこは空欄となった。
あとは市民権があると、街や国からの補助を受けられるとか。例としては街の門の通行料が安くなったりする。
市民権を得るまでは時間がかかるので、シーラ用の一人部屋を借りた。シーラはすぐに夜の相手をさせられると思っていたようで、少し安堵したような表情をしていた。銀髪が美しく見目も整った美少女なのでそれもいいのだが、現状はリアナで十分という感じでもある。近寄られると女の子特有の良い匂いがするのでムラっとこなくはないが。
夜のリアナは当社比1.5倍の積極さだった。何か思うところがあったんだろうか。
◆
それから十日が過ぎた。主にシーラとリアナを連れてのレベリングを行った。ランクは俺がプラチナ、リアナがゴールド、シーラがシルバーとなっていた。
シーラの装備は何かいいものがないか収納を漁ったところ、スルーしていた女性物の防護服がそれなりの防具だったので使わせた。ランクはエピックだった。他の部位の装備は俺と同じぐらいの値段の店売りのものだ。シーラをギルドに登録させた後に買った。
武器も貰い物にいくらかあったので選んで貰ったら、わざわざ扱いづらそうなシャムシールを選んでいた。こちらもエピック。シャムシールを渡し少し練習させた後、身体強化をかけてゴブリン相手に戦わせてみると淡々と危なげなく対処していた。
他には、リザードマン、マッドボア、オーク、ケイブアント、ミノタウロス、ドレイクなどを狩った。勿論いきなり飛ばすのではなく、徐々に強い敵を相手にした。
途中、シーラに言われてさまざな素材を採取したりもした。いずれ何かに使うからとの事だった。魔物の素材は買い取ってもらう時に必要な部位を指定して、売らずに後で受け取るようにした。
キマイラも狩ろうかと思ったが、マンティコアの相手はまだしたくなかったので街の西は避けた。あれから何体か討伐されたようだ。街の北側や南側に手頃な人間を求めて移動する可能性もあるとか聞いたので、少し警戒している。
審査の結果、市民権は取得可能だった。何か問題を起こすと、推薦人がいるものや、何年も市民でいるものよりも市民権を没取されやすいらしいが。
宿のおばちゃんに近く賃貸に移るかもしれないと言うと、北の農地に木造の家があると紹介された。転移がないと街までの買い出しに不便だし、ゴブリンの森も近いから安いとか。木造だしゴブリンマジシャンに火の玉飛ばされたら危ないな。マンティコアが出張ってくる可能性も出てきたし、さらに安くなっているだろうとの事だ。流石に危険そうなので遠慮した。
ゴブリンクラスなら農夫もそれなりに自衛をしているし、地主には引退した冒険者もいくらかいるから、極端に危険ではないとの事らしいが。たまに騎士が巡回したりもするらしい。まあマンティコアとかいうのはちょっと危ないかねぇ、とおばちゃんは最後に付け加えたが。騎士でも危ないかもらしい、詳しくは知らないそうだが。
結局シーラが前住んでいた部屋を借りた。まだ埋まっていなくてよかった。錬金術の作業を行っていた部屋が一つと、寝室が一つ。居間とトイレと台所がある。シーラは錬金術の作業で疲れた時に使っていたソファーを使うので、寝室は使ってくれとのことだった。普段からソファーで寝てしまう事も多く、寝室は大して使っていないそうだ。ベッドを追加で買うか聞いたらいらないとの事だった。
シーラはリアナと共同使用にした魔法袋を掴むと、部屋に入っていった。久しぶりに錬金術を行いたいらしい。
今日は休みにした。やる事もないので買ってきた魔法についての本を読む。魔導書とは違い、色んな魔法の説明が紹介されているだけのものだ。
メジャーな炎、水、土、風、氷、雷などの属性の魔法が頭に記載されている。これはイメージしやすいな。
ゴブリンが使う炎、マンティコアが使うであろう、何かを冷やす氷、マッドボアが使う土。水はだいたいの人が使えるらしい生活に使うもの。雷や風を扱う魔物は今のところ近辺にはいないが、雷は一番厄介そうだな。
飛行系のモンスターは飛行の補助に風の属性の魔力を使っているとも言われている。魔法という意識的に使うものではなく、人間が歩いたり走ったりする感覚に近いらしいが。なので封印で墜落するという事でもないらしい。
後、マッドボアの使う泥は厳密には水も混ざるらしい。そういうのは複合魔法というらしい。炎と土で溶岩を飛ばすなんていうのとか。炎と風で火炎旋風とかできそうだな。
パラパラと読み進めると筆写という魔法があった。魔導書クラスは難易度が高いが、普通の本ならインクと紙と原本があれば魔法がそれなりに使える者なら転写できるらしい。だから本が中世のような高級品ではないのかな。紙も安いしな。
召喚魔法もあった。動物、魔物、精霊、妖精などを召喚して使役できるらしい。動物や魔物は魔力で生み出された創りもので、精霊や妖精は本物、両方召喚が解かれたら消えるらしい。精霊や妖精は気に食わないと向こうから召喚を解除してくるそうだ。神の眷属や神自体を召喚したものも過去いたようだが伝説の話らしい。
器用さ向上や、感覚力向上の魔法もあった。冒険者以外では生産職が使ったりするらしい。後は芸術家とか音楽家とか。
予知や予言、神託なんかもあった。予知は戦闘にも使えるらしい。シーラの未来視みたいだな。予言は未来の事を予言できるという、的中率はまあまあ。神託は神とコンタクトがとれるらしい。
熟成とか発酵、味覚強化なんてのもあった。食に役立ちそうだな。防腐はもちろんだが。
植物の成長を促したり、品種改良したり、蔦を伸ばして動きを封じたり、植物と対話できる植物魔法。
重力を操る重力魔法。剣とか槍とかの物体を浮かべて自動的に戦わせる魔法。幸運とは逆の不運。遠隔で通話できる魔法なんかもあった。
加速や減速は時間魔法らしい。ゴブリンのそれは少しだけ遅くなる程度だったが、強力なものは凄まじいらしい。加速して一瞬で数十体の敵を倒したり、亀よりも相手を遅くできるようだ。凄まじいものだと、静止した時の中を動いたり、相手の時間を静止したりもできるようになるらしい。
空間魔法は収納や転移がそれだな。ありとあらゆるものを空間ごと切るような魔法、相手を亜空間に飛ばすようなものもあるとか。必殺技だな。物品を遠くに送ったり、遠くから手元に運んだりする魔法もあるらしい。
またパラパラと読んでいくと最後には、才能や工夫しだいで魔法は生み出せるので、本に記載にされていない魔法もたくさんあるでしょう、あなたもオリジナルの魔法を生み出してみては、と書かれていた。
今度討伐依頼の時みたいに新しく魔法を作るかな。
魔導書なしでも魔法が使えるようになる可能性はあるので、対面で料理本を読んでいたリアナにも後で目を通すように伝えておいた。
◆
寝室のベッドはダブルというには小さいが、リアナと二人で寝る分には問題なかった。
朝、買ってきたパンと、リアナが作った料理を食べている。宿のものとは比べるべくもないが、食えないというほどではない。料理はできなくもないが、本を買って挑戦を始めたリアナに経験を積んでもらう。
シーラは以前からパンと干し肉、チーズたまに果物とかそんな感じらしい。後は気が向いたら外食していたようだ。
どうやらシーラは寝不足のようだ。うつらうつらとしている。一応疲労回復をかけておく。食事を終えると、シーラが昨日の成果を披露した。
「こっちが治癒促進、こっちが解毒、こっちが身体強化、こっちが頑強、こっちは精力増強」
へぇ、凄いな。最後は余計だったが。小袋が並んでいる。中を見ると少し大きな丸薬が入っていた。各々分配し小袋に分け、ポーチにしまう。精力増強はこちらに押し付けられたが。
「精力増強はいらないぞ」
「あれだけお盛んだったらそうかも、でも聞いてたら作りたくなった」
そういえば宿でない事に油断して防音を使っていなかったな。悪い事をした。
「わたしは経験がないからするなら優しくしてね」
「わかった」
抱かないとは言わない。シーラも美少女だし。正直少しはそそられてきている。ふとリアナの方を見ると少し挙動不審だった。別にリアナに飽きたという訳ではないのだが。頭を撫でておく。長い金色の髪がサラサラと揺れた。
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