7 / 66
本編
五話 依頼完了 与太話
しおりを挟む朝、鐘の音で目が覚める。疲れはとれたようだ。朝食を食べに行くか。
朝食を食べてから冒険者ギルドへ向かう。中に入り受付に向かう。昨日と同じ女性がいる受付には少し列ができていたので並ぶ。順番が来たので声をかける。
「依頼完了の報告に来ました」
「もう達成されたんですね。おめでとうございます。感触はどうでしたか?」
「基本的には魔法で一撃当てれば倒せるので楽だったんですが、油断して危ないところでした」
「少し詳しく聞かせていたいただいてもよろしいですか?」
門を出て湿地帯に向かい、帰ってくるまでの話をした。
「昨日、ご説明したかと思いますが、基本的には餌の多い場所から弾き出された弱い個体が集中している湿地帯の南側に回り込んで討伐するのがセオリーとなります。南側はそれほど足場も悪くないですし。また、朝はまだ動きが鈍いため、その時間を狙うのもセオリーです。午後に西からでは危険です」
「そ、そういえば聞いたような」
「あくまでセオリーなので強制ではないですが。今後気をつけてくださいね。強い個体は餌場である湿地帯を離れる事はあまりないかと思いますが、数が減ったほうが近辺の安全性が高まるのでありがたくはあります」
「はい、気をつけます」
「では素材関連窓口へ行って、素材を提出し、明細を貰ってきてください。今後は先にそちらで明細を受け取ってからこちらに来た方がスムーズとなります」
「わかりました」
素材関連窓口へ行く。隣の建物らしい。行ってみると素材を搬入できるようにか、入り口が開放的な作りの建物があった。中に入り、ギルド証を渡し、素材を提出しにきた旨を伝える。案内された場所で収納から素材を取り出し置いていく。
「リザードマン五体の依頼だったな。確認した。これを受付に持っていけば依頼完了となる。素材の買取金は査定が終わったら口座に振り込まれるから後で確認してくれ。あ、素材は全部売っちまっていいのか?」
「大丈夫です」
明細を受け取って受付に行く。依頼完了の手続きを終える。依頼の報酬はすぐ受け取るか、口座への振り込み、どちらにするか聞かれたので口座振込でお願いしておいた。
ふと気になったので聞いてみる。
「キマイラってどのぐらいのランクなんですか?」
「キマイラはゴールドからとなりますね。火炎のブレスや毒が厄介な事、単純な身体能力とサイズが大きい事、それと死角が少ないという点で手強い相手です。ゴールドが五人程度で対処します。もしかして西に出たという話から?」
「はい、それもあるのですが、少し西から一緒に旅をした方が目の前でキマイラを瞬殺しまして。その時一応お前にも倒せるだろうとは言われましたので気になりました」
「キマイラを瞬殺ですか。お名前は何というんです?」
「それが名乗られなかったのです。赤い髪の若い男性です。後は剣と魔法を使っていたことが特長ですかね。できればまた会ってお礼を言いたいのですが」
「おそらくはプラチナ以上、いやミスリル以上の方かもしれませんね。パッと思いつく限りでは心当たりはないのですが」
「そうですか」
「ユウト様の場合であれば、ブレスは魔法で防ぐか転移で避ける。近づかれたら転移で距離をとる。後は逃げられるだけの魔力を残しながら遠隔で攻撃を続ければ勝てそうではありますね。簡易的な鑑定で見た限りでは能力としてはミスリル以上も狙えそうでしたし」
「そうなんですね」
「焦らず戦闘経験を積まれていけば、次第に潜在能力にランクが追いついて来るかと思います。キマイラは正式な依頼としてはまだ受けられませんが、討伐されるのですか?」
「気が向いたらと考えています」
「お止めする事はできませんが、その時はいつでも逃げられるように気をつけてくださいね」
礼を言って受付を離れる。別の依頼を見繕うか聞かれたが、一旦やめておいた。
せっかくなので酒場ブースらしきところに向かう。噂話でも聞いて見識を深めようかと思った。単純にミード以外のお酒が飲みたくなった訳ではない。…宿にはミードしかないんだよな。
カウンターに座ってどんなものがあるか聞いてみる。エールやワイン、蒸留酒などがあるそうだ。いくつかある蒸留酒の中で安いやつを注文すると、グラスに注がれて出される。魔法で氷を作れるか試してみる。できた。グラスに氷を入れて、少しおいてから口に含む。そこそこだな。
噂話を聞いてると、やはり西の警戒度が少し上がっているようだ。商人が護衛にかける金も増すからかき入れ時らしい。
「おう、兄ちゃん。俺にもそれくれや」
ちびちび酒を舐めていると、ぬっとグラスを握った手が突き出てきた。一瞬意味がわからなかったが、少し考えて氷を入れてみる。
「ありがとよ」
顔を上げると、いかにも腕の立つ冒険者、という感じのおじさんが酒を飲んでいた。頭には獣耳が生えている。腰からは猫のような尻尾も生えていた。
「おお、やっぱ冷やした方がうめぇな。兄ちゃん、ランクは?」
「シルバーです。一昨日冒険者になったばかりなので経験は浅いですが」
「これから経験を積めばいい。最初からシルバーなら力はあるんだろうしな。ソロか?」
「一人ですね」
「そうか、パーティは組まないのか?」
「社畜時代、いや冒険者になる前は上の人間に顎で使われながら集団行動をしていたので、反動でしばらくはのんびりしたいんですよね」
「わかるぜ。まあ護衛なんかしてると多少雇い主にあれこれ言われるがな。商会なんかで働くのよりはマシだろうな」
「後、もしパーティを組むなら、可愛い女の子がいいです」
「いないことはないが、確かにそれだとハードルはたけぇな。美形なら危険がある冒険者より、それなりの収入のある男の嫁にでもなって街で暮らした方がいい。まあ美形の女が冒険者やるメリットもなくはないがなぁ」
「メリット?」
「単純だ。魔物を倒していくと寿命が伸びやすいんだよ。身体能力や魔力も上がるな。よく言われるレベルが上がる、ってやつだ。だから若い時間が長くなる。一応生まれながらにしてレベルが高いやつもいるし、武術を極めたり、魔術を極めたりと訓練をしても上がる。どっかで聞いた伝説級の女冒険者なんて、長命種族でもないただのヒューマンなのに一世紀以上生きてるくせして若々しいまんまだったってよ」
「アンチエイジングですか。そりゃ女性にはたまらないですね」
「どっかの国の王がつけてる迷宮産の指輪なんて、不老の効果がついてるらしいしな。その指輪を献上した冒険者は高位貴族になったらしいぜ。聞いた話だと若返りのポーションなんてのもあるらしい」
「へぇ、夢がありますね」
「だな。まあ夢がある分危険があって、よく死ぬのが冒険者なわけだが」
「そうなんですか」
「話を戻すと、パーティを組むなら可愛い女とイチャコラやっていきたいんだよな?」
「はい」
「じゃあ奴隷を買えば良いんじゃないか?」
「奴隷ですか?」
「ああ、見た目が良くて戦力になるのはかなり高いだろうが、見た目だけの奴隷なら手の届かない範囲じゃない。連れ回しながら魔物を倒してればそれなりに強くなるだろうしな。レベルが上がるのは魔物を仕留めたやつだけじゃない。近くにいたものも上がる。程度に差はあるようだがな。貴族なんかには定期的に騎士団連れてパワーレベリングしてる奴もいるって話だ」
「へぇ、それならなんとかなりそうですね」
「まあ普通の冒険者が似たような事やろうとしたら、娼婦でも相手にして頭を冷やせボンクラと言うところだがな。登録ん時からシルバーの魔術師なら運が良ければなんとかなるんじゃないか?当然悪けりゃ奴隷も本人も死ぬが」
奴隷、奴隷かぁ。そういうのもあるのか。奴隷というワードを頭の中で反芻していたら酔いが回ってきたような感じがする。
ちょっと考えてみるか。
10
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!
リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。
聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。
「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」
裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。
「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」
あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった!
、、、ただし責任は取っていただきますわよ?
◆◇◆◇◆◇
誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。
100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。
更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。
また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。
更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる