上 下
15 / 81
いっしょう!

15

しおりを挟む
 アリーは慌てて玄関に走った。
 全員まとめて王立軍の特殊警備隊にしか見えない連中だが、あれでも王太子様とその側近たちなのだから、侍女としてお出迎えをせねばならない。
 かろうじて扉が開く前に玄関ホールに滑り込み、アリーは深々と頭を下げた。
 こちらから話しかけることのできない身分でよかった。マクシミリアンのもたらした衝撃の後にダッシュしたおかげで、激烈に息が切れた。

「そこの侍女、発言を許す。スティラの様子はどうだ」

 玄関から入ってきたマクシミリアンに問われ、アリーは思わず「へい!」と素っ頓狂な返事をした。そして頭を下げたまま切れ切れに答える。

「そ、それはもう……ひでえ有様でごぜえまして。わだすの実家も貧しゅうごぜえますが、スティラざまのお苦しみは、それ以上の……」

「……そうか。そなたは一週間前にこの離宮へ来たのだったな」

「へえ」

 息が切れててよかった。わたしってばめっちゃ田舎出の男爵令嬢っぽい──などと思いながら、頭を下げたまま右手だけを前にやって、マクシミリアンたちをスティラの元へと誘導する。
 居間に入ると、スティラはちょこんとソファに座っていた。薄汚いドレスを着て、不安そうな顔で。

「……何ということだ」

 この日のためにあえて手入れをしなかった荒れた居間に入り、マクシミリアンはいきなり崩れ落ちた。冗談抜きでズシャアアアアッツという音がした。

<いやーーー! 床が抜けるぅうう!>

 アリーは筋骨隆々な男たちの後ろで顔面をひきつらせた。

「すまなかった、スティラ。ああ、そんなに痩せて……。ケリー様がお亡くなりになったことも、俺には連絡が来なかった。いや、すべては言い訳に過ぎないな……」

 悔恨のあまりに床に膝と手をついたマクシミリアンは、またもや体から闘気を溢れかえらせた。

「我が父と母ながら、なんと下劣な……っ!」

 マクシミリアンの放つ謎の圧迫感に耐え切れず、壁や床が揺れてピシッピシっと亀裂が入る。いやマジで古い離宮なんだからやめてくれ。

「だがもう心配はいらないぞ、スティラ。この離宮は急激に古びたようだ。これでは、いつ倒壊してもおかしくはない。今すぐ、この兄の住む王宮の西翼に来るがいい」

<いや急激に古びたのはあなたのせいですけどおぉおおおっ!?>

 色々とツッコミが追いつかないが、マクシミリアンがゆらりと立ち上がってスティラの元へ向かおうとする気配を察知し、アリーは我に返った。

「させるかあっ!」

 アリーは男爵領で鍛えに鍛えた足で床を蹴った。マクシミリアンを一瞬で追い越し、スティラの体を抱き上げ華麗にターンしながら距離を取る。抱きしめた痩せた身体は、小刻みに震えていた。

「恐れながら王太子殿下。スティラ様は大変ひどい目に遭われて、人間不信になっていらっしゃいます。いくらお兄様と言えど、いきなりの接触はお控えくださいませ」

 アリーは顔を上げて、きっぱりと言い切った。鋼のような筋肉×5は絵面的に死ぬほど怖いんだよおお! と正直に言うことはさすがに出来なかった。
 スティラがぎゅうっと首にしがみついてくる。アリーはスティラのほっぺに頬ずりをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈 
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...