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いっしょう!
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アリーは慌てて玄関に走った。
全員まとめて王立軍の特殊警備隊にしか見えない連中だが、あれでも王太子様とその側近たちなのだから、侍女としてお出迎えをせねばならない。
かろうじて扉が開く前に玄関ホールに滑り込み、アリーは深々と頭を下げた。
こちらから話しかけることのできない身分でよかった。マクシミリアンのもたらした衝撃の後にダッシュしたおかげで、激烈に息が切れた。
「そこの侍女、発言を許す。スティラの様子はどうだ」
玄関から入ってきたマクシミリアンに問われ、アリーは思わず「へい!」と素っ頓狂な返事をした。そして頭を下げたまま切れ切れに答える。
「そ、それはもう……ひでえ有様でごぜえまして。わだすの実家も貧しゅうごぜえますが、スティラざまのお苦しみは、それ以上の……」
「……そうか。そなたは一週間前にこの離宮へ来たのだったな」
「へえ」
息が切れててよかった。わたしってばめっちゃ田舎出の男爵令嬢っぽい──などと思いながら、頭を下げたまま右手だけを前にやって、マクシミリアンたちをスティラの元へと誘導する。
居間に入ると、スティラはちょこんとソファに座っていた。薄汚いドレスを着て、不安そうな顔で。
「……何ということだ」
この日のためにあえて手入れをしなかった荒れた居間に入り、マクシミリアンはいきなり崩れ落ちた。冗談抜きでズシャアアアアッツという音がした。
<いやーーー! 床が抜けるぅうう!>
アリーは筋骨隆々な男たちの後ろで顔面をひきつらせた。
「すまなかった、スティラ。ああ、そんなに痩せて……。ケリー様がお亡くなりになったことも、俺には連絡が来なかった。いや、すべては言い訳に過ぎないな……」
悔恨のあまりに床に膝と手をついたマクシミリアンは、またもや体から闘気を溢れかえらせた。
「我が父と母ながら、なんと下劣な……っ!」
マクシミリアンの放つ謎の圧迫感に耐え切れず、壁や床が揺れてピシッピシっと亀裂が入る。いやマジで古い離宮なんだからやめてくれ。
「だがもう心配はいらないぞ、スティラ。この離宮は急激に古びたようだ。これでは、いつ倒壊してもおかしくはない。今すぐ、この兄の住む王宮の西翼に来るがいい」
<いや急激に古びたのはあなたのせいですけどおぉおおおっ!?>
色々とツッコミが追いつかないが、マクシミリアンがゆらりと立ち上がってスティラの元へ向かおうとする気配を察知し、アリーは我に返った。
「させるかあっ!」
アリーは男爵領で鍛えに鍛えた足で床を蹴った。マクシミリアンを一瞬で追い越し、スティラの体を抱き上げ華麗にターンしながら距離を取る。抱きしめた痩せた身体は、小刻みに震えていた。
「恐れながら王太子殿下。スティラ様は大変ひどい目に遭われて、人間不信になっていらっしゃいます。いくらお兄様と言えど、いきなりの接触はお控えくださいませ」
アリーは顔を上げて、きっぱりと言い切った。鋼のような筋肉×5は絵面的に死ぬほど怖いんだよおお! と正直に言うことはさすがに出来なかった。
スティラがぎゅうっと首にしがみついてくる。アリーはスティラのほっぺに頬ずりをした。
全員まとめて王立軍の特殊警備隊にしか見えない連中だが、あれでも王太子様とその側近たちなのだから、侍女としてお出迎えをせねばならない。
かろうじて扉が開く前に玄関ホールに滑り込み、アリーは深々と頭を下げた。
こちらから話しかけることのできない身分でよかった。マクシミリアンのもたらした衝撃の後にダッシュしたおかげで、激烈に息が切れた。
「そこの侍女、発言を許す。スティラの様子はどうだ」
玄関から入ってきたマクシミリアンに問われ、アリーは思わず「へい!」と素っ頓狂な返事をした。そして頭を下げたまま切れ切れに答える。
「そ、それはもう……ひでえ有様でごぜえまして。わだすの実家も貧しゅうごぜえますが、スティラざまのお苦しみは、それ以上の……」
「……そうか。そなたは一週間前にこの離宮へ来たのだったな」
「へえ」
息が切れててよかった。わたしってばめっちゃ田舎出の男爵令嬢っぽい──などと思いながら、頭を下げたまま右手だけを前にやって、マクシミリアンたちをスティラの元へと誘導する。
居間に入ると、スティラはちょこんとソファに座っていた。薄汚いドレスを着て、不安そうな顔で。
「……何ということだ」
この日のためにあえて手入れをしなかった荒れた居間に入り、マクシミリアンはいきなり崩れ落ちた。冗談抜きでズシャアアアアッツという音がした。
<いやーーー! 床が抜けるぅうう!>
アリーは筋骨隆々な男たちの後ろで顔面をひきつらせた。
「すまなかった、スティラ。ああ、そんなに痩せて……。ケリー様がお亡くなりになったことも、俺には連絡が来なかった。いや、すべては言い訳に過ぎないな……」
悔恨のあまりに床に膝と手をついたマクシミリアンは、またもや体から闘気を溢れかえらせた。
「我が父と母ながら、なんと下劣な……っ!」
マクシミリアンの放つ謎の圧迫感に耐え切れず、壁や床が揺れてピシッピシっと亀裂が入る。いやマジで古い離宮なんだからやめてくれ。
「だがもう心配はいらないぞ、スティラ。この離宮は急激に古びたようだ。これでは、いつ倒壊してもおかしくはない。今すぐ、この兄の住む王宮の西翼に来るがいい」
<いや急激に古びたのはあなたのせいですけどおぉおおおっ!?>
色々とツッコミが追いつかないが、マクシミリアンがゆらりと立ち上がってスティラの元へ向かおうとする気配を察知し、アリーは我に返った。
「させるかあっ!」
アリーは男爵領で鍛えに鍛えた足で床を蹴った。マクシミリアンを一瞬で追い越し、スティラの体を抱き上げ華麗にターンしながら距離を取る。抱きしめた痩せた身体は、小刻みに震えていた。
「恐れながら王太子殿下。スティラ様は大変ひどい目に遭われて、人間不信になっていらっしゃいます。いくらお兄様と言えど、いきなりの接触はお控えくださいませ」
アリーは顔を上げて、きっぱりと言い切った。鋼のような筋肉×5は絵面的に死ぬほど怖いんだよおお! と正直に言うことはさすがに出来なかった。
スティラがぎゅうっと首にしがみついてくる。アリーはスティラのほっぺに頬ずりをした。
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