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いっしょう!

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 伝説の魔法の一つ「口寄せ」のいいところは、動物たちが自分の意思で動いてくれるところだ。これならば、男爵令嬢アリーの痕跡を辿ることはできない。
 上級魔法書に記述がある「口寄せ」は、任意の動物と契約できる離れ業。それをやってのけたとなると、現在のアリーの能力は、国内でも屈指の魔法使いたちに勝るとも劣らない。

<しかし、まだ目立つわけにはいかないわ。いずれ聖女ミアと戦うことになるかもしれないけれど、まだ今はひっそりしてなきゃ>

 聖女ミアと関わり合いになるつもりはなかったが、スティラを守るためならば対決もやむを得ない。国内の男どもがどうなろうと知ったことではないが、もしもスティラを死なせたら、アリーはきっと後悔する。

<公爵令嬢として研ぎ澄ませてきた知識に、雑草のようなこの体力をかけ合わせれば、あの女をぶっ飛ばすことも可能……!>

 普通の貴族令嬢ならば、魔法を使えば体力が失われて衰弱する。だから公爵令嬢アリーシアは、己の無実を魔法で証明することが出来ず、聖女ミアに陥れられて断罪された。
 公爵である父、跡取り息子の兄、そして主だった貴族たちがすべてミアの味方では、はなから勝てる勝負ではなかったが。

<もうマクシミリアンに未練はないけどおおおお! やっぱり聖女ミアの顔面には一発入れておきたいいい!>

 翌日からアリーは口寄せ以外の魔法を封印し、できることはすべて体をつかってやる生活に戻った。もちろん、体力づくりの一環だ。
 後ろをトコトコついてくるスティラに歌をうたってやりながら、一連の家事を終えた後は、いよいよ本格的な筋肉体操を開始する。
 公爵令嬢だったころは金の髪に青い瞳と、まさにお姫様の外見だったが、今のアリーは茶色の髪に茶色の目という地味極まりない容姿をしている。
 淑女としてはありえないほど日焼けもしているし、ずっと鍬を握り続けてきた手足は太い。だがもっともっと力が欲しい。最終的には拳であの女を吹っ飛ばせるほどの力が!

「ねえ、アリー。どうしてわたしを背中に乗せて運動するの?」

「その方がより力が得られるからですわ……! わたくしもっともっと力が必要なんですの、ですからスティラ様、たっくさんご飯を食べてもっと太ってくださいまし!」

 やはり王家の血を引いているだけあってマクシミリアンと同じ銀髪紫目で、天使のように愛らしいスティラを背中に乗せ、アリーは滝のように汗を流しながら腕立て伏せに勤しんだ。

<アリーズブートキャンプの体力増強で、魔法力が増大することが証明出来たら、こっそり貴族の令嬢たちに広めたい。やり方はまだわからないけど、か弱い淑女たちに聖女──いや、はっきりいってあいつは性女だわ、あの性女に一矢報いる力を与えたい!>

 唐突に異世界から落ちてきただけなら同情もするが、男たちに片っ端から魅了魔法をかけてハーレムを生み出した聖女ミア、やっぱり許せん。
 アリーは鼻息荒く、次々と運動を繰り返した。
 王太子マクシミリアンが今どうしているか──お元気だろうがご病気だろうが、正直どうでもいい。
 2回目以降はダイジェスト版とはいえ、9回も彼の心変わりを見たのだ。
 それがミアの魅了魔法によるものだとはわかっていても、公爵令嬢アリーシアを断頭台に送り込んだ張本人はマクシミリアン。
 好きとか信じるとかの次元ではなく、許す許さないという話でもなく、関わり合いになりたくない、その一言に尽きる。
 アリーはもう、マクシミリアンからの愛情を切に願っていたアリーシアではなかった。
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