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いっしょう!

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「はい、スティラ様。あーんしてください」

 超特急で作った麦粥を風魔法でちょうどいい熱さに調整して、アリーはスティラに向かって匙を差し出した。

<しまった、ついジャンにやるようにしちゃった>

 まがりなりにも一国の王女様に、たかが男爵令嬢が! と心の中で壁に頭を打ち付けても後の祭り。
 スティラはぽかんと口を開いて、それからダバーッと瞳から涙を溢れかえらせた。

「ああ、ああああすみませんスティラ様、ご無礼平にご容赦をーーーー!」

 アリーがおわんと匙を持ったまま膝をつきかけたとき、スティラがふるふると首を振った。

「ちがうの、ちがうの……お母様を、思い出しただけ……。お母様、王宮のみんなから馬鹿にされていたけど、すごく優しかった……」

 湯殿番という低い身分から国王陛下のお手付きとなり、スティラ様を身ごもった人の名前は、たしかケリーと言ったはず。
 アリーは慌てておわんと匙をテーブルに置き、スティラの頬を流れる涙をハンカチで拭ってあげた。

「アリーさん、ごめんなさい。半年前にお母様が亡くなった後、この離宮でお金になりそうなものは、みんな持っていかれちゃったの。たまに商人さんが、食べ物や日用品を届けてくれるんだけど、それもいつの間にか無くなるの。せっかく優しくしてもらったのに、アリーさんにあげられるものは何も持ってないの……」

「ぐっはあっ!」

 今度こそアリーは床に膝をつき、天を仰いだ。
 たった10歳の女の子に何してくれとんじゃ、と四方八方に悪態をついて回りたい。少なくとも国王と王妃は全身を複雑骨折して、痛みにのたうち回るべきだと思う。

<え、でもできるんじゃない? 今のわたしならできちゃうんじゃない? さっき魔法使ってみたら、おっそろしいほど楽々発動出来ちゃったし>

 アリーはきっと前を見据え、スティラの肩を強く掴んだ。

「スティラ様、ご心配なさいますな。アリーはずっとお側におります。わたくし貧乏育ちですから物欲はありませんし、やろうと思えば何でも自分の力で手に入れられますの!」

「何でも……?」

「ええ。見ていてくださいませ!」

 アリーは高々と手を掲げ、最難関魔法である闇魔法の詠唱を始めた。

「漆黒の翼を持つ闇の使徒よ、その力を我の前に現せ! 詠唱以下省略で、この離宮で働いていた馬鹿どもの足取りを追い、不正の証拠を全部掴んでくるのよっ!!」

 手のひらから飛び出した漆黒の闇が渦を巻き、やがて人の姿を取り始める。
 魔力の強さは尊い血筋であればあるほど強いが、その使用には莫大な精神力と体力が求められる。
 つまり、公爵令嬢アリーシアは高位魔法を使えるようでいて、そう連発できなかったのだ。なんたって箱入りすぎて体力がなかったから。

<ふふふ、しかし今の私は一味違うわ! なんたって6歳から畑で鍛えた、この泥臭い無尽蔵の体力がありますもの!>

 ふはーーはっはっは!と高笑いしていると、やがて目の前に漆黒の闇を纏った美男子が現れた。闇の使い魔だ。

「さあ、情報収集をしてくるのよ。スティラ様周辺を余すところなく探ってきなさい!」

 アリーは顎をしゃくって、最高位の使い魔をガチのお使いに出した。

「アリーって、すごい……」

 呆然としているスティラに向かって、アリーは「まだまだこんなものじゃありませんわ」と微笑んで見せた。

「出でよ土人形っ!」

 がばっとしゃがみ込んで床に手をつくと、窓の外で巨大な土の壁が盛り上がった。それはいくつもの小人となり、倉庫から勝手に鎌やら縄やらを取り出して、四方八方に散っていく。

「あの子たちが勝手に畑仕事をしてくれますし、イノシシやら野ブタを取ってきますわ。これで食糧問題は解決! さ、スティラ様、お食事を続けましょう」

 アリーが再び匙を差し出すと、目をまん丸くしたスティラは素直に口を開いた。

「おいひいれふ……」

 そうでしょうそうでしょう、とアリーはうなずいた。
 お腹がびっくりしない程度の量を食べさせ、ジャンにするように頭をゆっくり撫でてやると、スティラはすぐに健やかな寝息を立て始めた。
 食べ物が逆流しないように、スティラの身体をソファの背にもたれさせる。

「本当にすごいわ、この身体……。公爵令嬢だったころは、ひとつ魔法を使えば青息吐息だったのに。聖女ミアがばかすか魔法を使えたのって、単に体力馬鹿だったからなの……?」

 ならば聖女ミア、恐るるに足らず。
 ど田舎の男爵領で山を越え谷を越え、毎日体を鍛えまくっていたアリーは、高位魔法を連発してもちっとも疲れていなかった。
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