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第7話 『とびこえてその先できみの声を聞く』

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 ハッと、俺は顔を上げた。

 ――放課後、昇降口で竹内兄に絡まれた俺は、あのあとダッシュで家に帰ってシャワーを浴びた。そんなことでどうにかなるとは思わなかったけど、それでも、ぜんぶ洗い落としたかったんだ。俺の全身をざわつかせたイヤな気持ちを。

 シャワーが終わって脱衣所で身体を拭きおわるくらいには、少しだけ落ち着いた。考えるべきことはいろいろあるけど、ひとまずは忘れてしまおうとしたとき――その声が聞こえた。

 洗面台の鏡。そこに映っているのは俺――の、はずなのに、まるで別人みたいにニヤリと笑う。


「クラスのはみ出し者なら裏切ることはない……そう思って、ミアとホマレに近づいたんだろう? それでふたりが望んでいる言葉を、もっともらしく聞こえるようにかけ続けた。ふたりが、おまえからはなれられないように」

「ちがう! ミアとホマレは友達だ! 俺の、大事な仲間だ! 大切にするのは、当然だろ!?」

「いいや、大事だからじゃない。怖かったからだ。ほぅら、よく見ろ」

 鏡のなかの俺は、肩を指す。
 ――ニセモノのホマレに掴まれたところが、アザになっていた。


「これはおまえの恐れがどれだけ強いかの現れだ。そぉら、こんなに赤くなっている。痛みも、まだ残っているだろう?」

「ウソだ……そんなの、信じるもんか……!」

「そう思うのなら、確かめればいい。窓の外を見てごらん――バクストマックの時間は、もうすぐそこだ」


 言われて脱衣所の窓の外を見た。
 俺の心をそのまま持ってきたように、真っ暗だった。


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