上 下
43 / 87
第6話 『入り口の向こう側――水鏡にうつるもの』

しおりを挟む

「ルリアも、アイカを取り戻したくて、俺のこと信じてくれた。そう――ホマレは、一番に信じてくれた! 仲間に、なってくれた……! 一緒にミアのこと、取り戻そうって……絶対、ぜんぶに勝とうって! ……なのにっ!」


 いつのまにか、拳がふるえている。
 もう一方の手で抑えようとしたけど、止まらない。


「俺、まだ全然わからねぇんだ……そのために、どんなウソをつけばいいのか。あいつらは、俺を信じてくれているのに……!」

「――蒲帆フウキ。君は今、ようやく入口に立った」

「え……?」


 フシギに思って先生を見る。
 本間先生は、ただまっすぐに、俺を見ていた。


「前にも話したろう。嘘とは最も簡単で、使い方によっては恐るべき力を発揮する呪いの言葉だ。そして、その効果を最大限に発揮するために、必要なものがある」

「ウソをつくのに、必要なこと……?」

「その嘘を貫きとおすという責任を、まっとうすることだ」


 どういうことだか理解できないでいる俺に、先生は質問する。


「君は、バクストマック・ゲームにおいてなんのために嘘をつく?」

「それは、ミアを……みんなを、取り戻すため」

「それは、なんのために?」

「へっ? えっと、それは……」


 なんか、かっこいいこと言う流れ? だけど、こんがらがった頭じゃロクに思いつかなくて、しぶしぶ俺は、単純な回答に走る。


「俺のため……だし、ホマレにルリア、マコト……ジュースにだまされてこの世界から消されちまったミアと、アイカ……」


 そこまでいったら、とため息交じりに付け加える。


「まぁあと、中島と、ついでに竹内のバカ双子もかな。見捨てたら後味悪いし……あいつらにだっているだろ、あいつらがいなくなったら悲しいヤツが」


 先生はバカにせず、ひとつ、静かにうなずいた。


「たくさんの人だな」

「ん……そうだな、なんかたくさんだな」

「そのたくさんの人のための想いが、今、君の心にのしかかっている。だからこそ、重く感じている――」


 あっ、と、俺は声を漏らした。
 さっきまで感じていた重さに、輪郭ができる――そうか、これが、


「それこそが責任の重さだ、蒲帆フウキ。君は君の願いのために、嘘を吐くと決めた。それがどれほど重く、つらいものでも……君は貫かなければならない。それが、責任というものだ。そして――」

「……?」

「責任を最後まで果たそうと真摯に向き合い続けたそのとき、嘘は呪いであることをこえて――ほんとうのことになる」



しおりを挟む

処理中です...