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第6話 『入り口の向こう側――水鏡にうつるもの』

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「そうか――バクストマック・ゲームはそこまで進んだか」

「うん。っていっても、勝負はあらかたついてる。オオカミは2人、村人は……3人」


 放課後、5年1組の教室。4時44分の結界のなか。

 俺が本間先生に状況報告したいと言って、結界をしいてもらった。ここなら、俺たち以外に話がもれることがない。なにを話しても、大丈夫だ。


 ――マコトが、消えた。


 正直、予想外だった。昨日の竹内の様子を見るに、今回も俺を狙ってくるだろうとタカをくくってた。だけど、朝学校に来て確認したら……どこにも、マコトの姿は見えなかった。図書委員の顧問にも聞いたけど、そんな子はいないって……。

 俺は拳をじっと見つめた。『絶対、勝とうね』――そう言って、マコトと突きあわせた拳。

 ……俺は、勝つ。ぜんぶに勝つ。

 それを再確認するために、こうして先生に報告することにしたんだ。人に話すのって、状況整理にはぴったりだからな。


「でも、ま、ラクショーだぜ! 残った村人のホマレもルリアも、俺に乗ってくれてる。狼陣営がヘイト溜めてる俺以外を狙う、なんて冷静さを残してたのは、ちょっと意外だったけどな! でも、それより問題なのは、いつ、どうやってラッパ吹きの力を使うか――」

「蒲帆、無理に笑わなくていい」


 静かな声に、気づいたら俺は口を止めていた。

 俺が目を向けると、先生は――まっすぐ、真剣に、俺を見つめていた。


「なにかあるのだろう、心に支えるものが。話してごらんなさい」


 ああ、なんだ、さすがアクマの本間……ぜんぶ、お見通しか。

 自分でもはぐらかしていた本音は頭のなかでぐちゃぐちゃ絡まっていたけど、俺はひとつひとつ、手繰り寄せて言葉にした。


「……なあ、先生知ってた? 2組の後藤先生、クラスのいじめをかばって教頭に叱られたんだって」

「それは、本当か……?!」


 さすがに驚いたみたいで、本間先生は息を呑んだ。


「いや、寝耳に水だ。職員会議では、休職されたのはカードゲーム騒動が原因だと……しかし、その話にまちがいないとすれば、」

「……別に俺、だから自分は悪くないって言いたいわけじゃねーんだ」


 俺はなんとなく、窓の外を見た。


「オトナだってそうやってウソをつく。だから俺だってついたっていいだろ? ……ずっと、ずーっと、そう思ってたんだ。それで、どーでもいいウソばっかあれこれつきまくった。先生が言う、軽いウソばっかり」

「…………」

「でも……今回は、それじゃいけない。つけるウソはたったひとつだけで――あのジュースを、負かさなきゃいけない」


 これまでの、あのピエロの行動が頭をよぎった。

 姿かたちもそうだけど、あいつがおぞましいのは、なによりも、あの得体のしれなさだ。


「先生の言ったとおり、あいつマジでズルいわ。昨日もいきなりルール変更なんて言い出してきたし――気づいてる、俺がなにかしようとしてるって。ゲームも終わりにさしかかってきた今、またどんな妨害しかけてくるかわからねぇ……でもマコトは言ったんだ。絶対勝とう、って」


 俺は、握り締めた拳をじっと見つめる。
 マコトと突きあわせたときの感覚は、まだ残っている。

 そしてあのとき感じた重さは――もっと、ずっと、のしかかるようで。


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