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第4話 『本気モード! ロード・トゥ・〝ぜんぶに勝つ〟』

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 その夜、部屋で寝る前の準備をしているとスマホに電話がかかってきた。ホマレからだ。


『フウキ、あの、今朝のことだけど……』

「ああ、もう怒ってねーって。つか俺もちょっとキツすぎたかなって」

『ちがうんだ、えっと、僕も、……いた気が、するんだ』


 えっ、と聞き返すと、ホマレはたどたどしく、けど必死に言う。


『東間の僕と蒲帆のフウキ、その間に誰か、もうひとり……大切な友達が。なのに、どうしても思い出せなくて……!』


 泣き出しそうなホマレに、俺の鼻までツンとした。

 放課後、あの午後4時44分の結界のなかで、本間先生は話してくれた。バクストマック・ゲームの呪いに存在を喰われた子どもは、現実世界でみんなからから忘れ去られてしまう――だけど、その痕跡がときおり、誰かの心に残っていることがある。

 大切な自分の子どもが、友達が、生徒が、たしかにいたはずなのに、思い出せない――そんな悲しい人たちの証言を頼りに、本間先生たちCCCはずっとジュースの起こす事件を追ってきた。この街にやってきたのも、その調査の結果だったらしい。


「……ホマレ、枕の下になんか入ってないか?」

『え?』


 少し間を開けてから、とまどうようなホマレの声がした。


『入って、なかったけど……』

「そっか……」


 やっぱり、手遅れなんだな。せめてホマレだけでも助かればって思ったけど……。

 俺は覚悟を決めて、こう言った。


「ホマレ、詳しいことはあとで話す。だからとりあえず、今日は寝てくれ」

『……? わ、わかったよ』


 
 通話を終了し、俺は家族のメッセージラインにおやすみスタンプを押す。父さんは残業、母さんは夜勤。昔は日付が変わるまで待ってたこともあるけど、最近はこうして眠っちまう。

 それに、今日はそんな悠長なことしてられなかった。

 俺はベッドに潜り込み、まぶたを閉じる。
 あのいまいましい夢の世界へ――バクストマックへ、ダイブする。


   ◇◆◇


「……フウキ!!」


 昨日と変わらないテーマパークみたいな街並みに、ホマレの悲痛な声が響く。俺が振り向くと、いつもは冷静なホマレがパニック状態で抱きついてきた。


「僕、僕……思い出したよ……ああ、ミアっ!」


 ぐっと腕にこもる力でわかる――どれだけ、ホマレが悔やんでいるのか。


「まさか追放されたら、現実世界じゃ消えてしまうなんて……僕のせいだ! 僕が、こんなゲームに参加するって言ったから……! あのとき二人は、逃げようとしたのに……!」

「落ちつけ、ホマレ」

「だめだよ、僕、もうムリだ! ミアは僕を勝たせようと……願いが叶うのを応援してくれたのに、そのミアがもうこの世のどこにもいないなんて……!」


 
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