58 / 62
58.「快風」
しおりを挟む
鼻先を柔らかい風に擽られ、朝の清々しい光に瞼を上げる。くぁあああと欠伸を漏らしながら銀狼に変化している両前足を伸ばすと地面が削れるものの、誰の所有地でも無い森の中で遠慮はいらない。
気にせずに後ろ足も大きく伸ばして全身を解し、あふっと最後の欠伸を零すと視線を横へと移動させた。
毛布に包まり気持ち良さそうに眠るマーレスの何処か幸せそうな寝顔を眺めると昨夜の自分の痴態も無駄では無かったと気持ちを鎮めることが出来る。
いや、もうほんとー…。
魔力が漲り捲くってんなと若干遠い目になりながら意識を全身に集中し、自由に遊んでいるような、不定形に体表を揺れる魔力を人型に調整するように整えて行く。
少し時間は掛かるが、変化してしまえば維持は案外出来てしまうのだから不思議だ。何かの法則だろうかと考えながらふわふわの毛が無くなった、人の腕が見えて少しほっとする。獣の姿が嫌とかでは無いが、人族として過ごして来た年月の方が遥かに長い。
安心はするだろうと四つん這いの体勢から近くに落ちている毛布を拾い、全身を包む。
もう一つ弊害があるとすれば毎回、全裸だと言う事だ。
「露出の趣味は無いんだが…。」
マーレスと旅を始めてからちょくちょくこの状況に陥ってる気がする。少し項垂れてから服を着ようと収納鞄を手にするとマーレスがその音で目を覚ました。
「…おはよう、ソル。」
ふわりと笑われて心音が跳ねる。昨夜からの落差と言うか、可愛いなとか思ってる内にマーレスが近付いて来て髪を掬われる。
「また、長くなってるな…。」
確かに。背中の中程までだった髪が尻の辺りまで伸びている。恐らく、体内の保有魔力が上がったせいでしかないんだがと考えてるとマーレスが毛布の中に手を入れて太腿に掛かる布地を避けたんでちょっと驚いた。どうやらこれまた広がった白い紋様を確認してたみたいだ。
「紋様も広がって、瞳も少し金の粒子が増えてる。」
じっと見つめられると落ち着かないものの、何となく今逸すと良くない気がして見つめ合ってると、暫くしてから溜息混じりに抱き締められた。
「ソルが綺麗で神々しくなるのが不安なんだけど、抱くのを止められない。昨夜は無茶もしてすまなかった。」
「お、おう…いや、好きだからマーレスに抱かれんのは良いんだが、そう言われると返事に困るな。」
「うん。俺の問題だ。」
マーレスの不安を掻き消すためにやっぱり地形破壊覚悟で盛大に魔法をぶっ放すかとか一瞬思わなくもなかったが、一旦冷静になり、要は俺がもっと愛情表現をして後は平和的な魔力消費でもするかと思い留まってぎゅうぎゅうと抱き締め返す。
「愛してる、マーレス。心配してくれんのは嬉しいが俺が余所見する訳ないだろ。お前にだったら幾らでも抱かれたいし、好きだって言葉でも態度でも伝える。だから、少しでも安心してくれると嬉しい。」
よしよしと背中も撫でると抱き締められる腕の力が強くなり、何処か照れくさそうな表情をしたマーレスに見返される。
「俺も愛してる、ソル。不安にはなるかもしれないが、ソルのことは信じてる。気遣ってくれてありがとう。それから俺も、貴方に沢山気持ちが伝わるように努力する。」
言葉の最後にちゅっと軽く口付けられて物凄く気恥ずかしくなって、充分気持ちは伝わってるんだがと密かに悶えた。
びゅうっと吹き付けてくる風の音を聞きながら軽快に四つの足で走る。
上空は風が強いなと風除けと魔物避けに張った結界の中から背中に乗せたマーレスは大丈夫かと少し振り返ると、何となく意図が伝わったのか軽く背中を撫でられた。
「心配しなくても大丈夫だ。それにしてもソルはやっぱり凄いな。空を飛ぶ日が来るとは思わなかった。」
そう。あの後提案したんだが、魔力を少しでも消費する為にマーレスを背中に乗せて上空移動するのはどうかと。
大規模地形破壊には遠く及ばないが平和的かつ魔力を少しずつ消費してる気配は感じるので良案の一つだろう。
と、言うかこの方法、歩いて旅をするよりかなり移動が早い。実際するかどうかは置いといて、世界一周が余裕で出来そうだ。
何ならこのままプロエリウム聖国を一直線に目指してしまっても良いかもしれない。
派手な外見は口布と外套と付属してるフードである程度は隠れるし、カーリタースの手土産にする酒も聖国ならば良いのがあるだろう。
結局入れていない湯屋もダンジョンも存在する。
案外、悪くないのではと、休憩の時にでもマーレスに相談してみるかと何処か呑気に考えて、そこから始まる厄介事をこの時は全く予想出来ずにいた。
気にせずに後ろ足も大きく伸ばして全身を解し、あふっと最後の欠伸を零すと視線を横へと移動させた。
毛布に包まり気持ち良さそうに眠るマーレスの何処か幸せそうな寝顔を眺めると昨夜の自分の痴態も無駄では無かったと気持ちを鎮めることが出来る。
いや、もうほんとー…。
魔力が漲り捲くってんなと若干遠い目になりながら意識を全身に集中し、自由に遊んでいるような、不定形に体表を揺れる魔力を人型に調整するように整えて行く。
少し時間は掛かるが、変化してしまえば維持は案外出来てしまうのだから不思議だ。何かの法則だろうかと考えながらふわふわの毛が無くなった、人の腕が見えて少しほっとする。獣の姿が嫌とかでは無いが、人族として過ごして来た年月の方が遥かに長い。
安心はするだろうと四つん這いの体勢から近くに落ちている毛布を拾い、全身を包む。
もう一つ弊害があるとすれば毎回、全裸だと言う事だ。
「露出の趣味は無いんだが…。」
マーレスと旅を始めてからちょくちょくこの状況に陥ってる気がする。少し項垂れてから服を着ようと収納鞄を手にするとマーレスがその音で目を覚ました。
「…おはよう、ソル。」
ふわりと笑われて心音が跳ねる。昨夜からの落差と言うか、可愛いなとか思ってる内にマーレスが近付いて来て髪を掬われる。
「また、長くなってるな…。」
確かに。背中の中程までだった髪が尻の辺りまで伸びている。恐らく、体内の保有魔力が上がったせいでしかないんだがと考えてるとマーレスが毛布の中に手を入れて太腿に掛かる布地を避けたんでちょっと驚いた。どうやらこれまた広がった白い紋様を確認してたみたいだ。
「紋様も広がって、瞳も少し金の粒子が増えてる。」
じっと見つめられると落ち着かないものの、何となく今逸すと良くない気がして見つめ合ってると、暫くしてから溜息混じりに抱き締められた。
「ソルが綺麗で神々しくなるのが不安なんだけど、抱くのを止められない。昨夜は無茶もしてすまなかった。」
「お、おう…いや、好きだからマーレスに抱かれんのは良いんだが、そう言われると返事に困るな。」
「うん。俺の問題だ。」
マーレスの不安を掻き消すためにやっぱり地形破壊覚悟で盛大に魔法をぶっ放すかとか一瞬思わなくもなかったが、一旦冷静になり、要は俺がもっと愛情表現をして後は平和的な魔力消費でもするかと思い留まってぎゅうぎゅうと抱き締め返す。
「愛してる、マーレス。心配してくれんのは嬉しいが俺が余所見する訳ないだろ。お前にだったら幾らでも抱かれたいし、好きだって言葉でも態度でも伝える。だから、少しでも安心してくれると嬉しい。」
よしよしと背中も撫でると抱き締められる腕の力が強くなり、何処か照れくさそうな表情をしたマーレスに見返される。
「俺も愛してる、ソル。不安にはなるかもしれないが、ソルのことは信じてる。気遣ってくれてありがとう。それから俺も、貴方に沢山気持ちが伝わるように努力する。」
言葉の最後にちゅっと軽く口付けられて物凄く気恥ずかしくなって、充分気持ちは伝わってるんだがと密かに悶えた。
びゅうっと吹き付けてくる風の音を聞きながら軽快に四つの足で走る。
上空は風が強いなと風除けと魔物避けに張った結界の中から背中に乗せたマーレスは大丈夫かと少し振り返ると、何となく意図が伝わったのか軽く背中を撫でられた。
「心配しなくても大丈夫だ。それにしてもソルはやっぱり凄いな。空を飛ぶ日が来るとは思わなかった。」
そう。あの後提案したんだが、魔力を少しでも消費する為にマーレスを背中に乗せて上空移動するのはどうかと。
大規模地形破壊には遠く及ばないが平和的かつ魔力を少しずつ消費してる気配は感じるので良案の一つだろう。
と、言うかこの方法、歩いて旅をするよりかなり移動が早い。実際するかどうかは置いといて、世界一周が余裕で出来そうだ。
何ならこのままプロエリウム聖国を一直線に目指してしまっても良いかもしれない。
派手な外見は口布と外套と付属してるフードである程度は隠れるし、カーリタースの手土産にする酒も聖国ならば良いのがあるだろう。
結局入れていない湯屋もダンジョンも存在する。
案外、悪くないのではと、休憩の時にでもマーレスに相談してみるかと何処か呑気に考えて、そこから始まる厄介事をこの時は全く予想出来ずにいた。
10
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
からっぽを満たせ
ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。
そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。
しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。
そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ
ぽむぽむ
BL
交通事故死により中世ヨーロッパベースの世界に転移してしまった主人公。
セオリー通りの神のスキル授与がない? 性別が現世では女性だったのに男性に?
しかも転移先の時代は空前の騎士ブーム。
ジャンと名を貰い転移先の体の持ち前の運動神経を役立て、晴れて騎士になれたけど、旅先で知り合った男、リシャールとの出会いが人生を思わぬ方向へと動かしてゆく。
最終的に成り行きで目指すは騎士達の目標、聖地!!
森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)
Oj
BL
オメガバースBLです。
受けが妊娠しますので、ご注意下さい。
コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。
ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。
アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。
ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。
菊島 華 (きくしま はな) 受
両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。
森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄
森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。
森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟
森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。
健司と裕司は二卵性の双子です。
オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。
男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。
アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。
その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。
この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。
また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。
独自解釈している設定があります。
第二部にて息子達とその恋人達です。
長男 咲也 (さくや)
次男 伊吹 (いぶき)
三男 開斗 (かいと)
咲也の恋人 朝陽 (あさひ)
伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう)
開斗の恋人 アイ・ミイ
本編完結しています。
今後は短編を更新する予定です。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる