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11.「性格」

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 マーレスは、実は天然なんだろうか。いや、俺がこっ恥ずかしいだけで別に良いんだが。
 素直に思った事を言って、良く笑ったり感情を出してくれるのは嬉しい。慣れろ、慣れれば大丈夫だと言い聞かせて顔を上げると、めちゃくちゃ見られてた。待たせたかな。

「わりぃ、何でもない。日が暮れる前に行こう。」

「ああ、楽しみだ。」

「ん?なんか楽しみなもんがあるのか?」

「ソルと一緒なのが楽しい。」

「そ…うか、俺もマーレスと一緒なのは楽しい。」

 慣れるだろうか。いや、嬉しいんだがくすぐったくて仕方がない。
 そんな暢気な悩みに頭を支配されながら町の入り口に難なく到着し、名前、勿論偽名の記入と入町料、犯罪歴を『罪』を司る特殊な魔法石で調べ、目視での身体検査を受けて無事に入れた。
 因みに自分の称号に何らかの罪系があると反応があり別室に通されてもう少し詳しく検査され、取り調べを受ける。
 罪にも色々あるんで、解放される場合もあるが地味に毎回されると面倒だと裏系の仕事のおっちゃんが言っていた。

ソルウェル、宿屋が見えて来たけどあそこで良いか?」

「ああ、問題ない。」

 表通りにある落ち着いた外装の一般的な、寧ろ立派なぐらいの宿屋だ。看板で確認して頷くと先導するようにマーレスが入り、直ぐにあったカウンターの前で宿屋の厳つい主人に無表情で話し掛けていた。

「部屋は空いているか?」

「ああ、何人で何部屋、何泊だ?」

「二人で一部屋を。一先ず三泊だ。」

「料金は一泊一人銀貨三枚、食事は別料金で銅貨三枚、これが鍵で二階の一番奥の部屋だ。鍵に番号が彫ってあるから扉の数字と見比べて使ってくれ。食事はどうする?」

ソルウェル、食べるか?」

「あ、じゃあ今日は夕飯だけ二人前で。部屋で食っても大丈夫か?」

「構わん。一階の食堂に取りには来て貰うが。」

「俺が取りに来るから問題ない。」

「そうか、じゃあ記帳と料金を払ったら後は自由にしてくれ。」

「分かった。」

 マーレスの偽名のメンシスと俺の偽名のウェルを置かれたダンジョン産なのか綺麗な紙に書き込んでる間に、マーレスが宿代と食事代を出して渡してくれる。後で返すついでにパーティ用の共同金の話もしないとなと考えながら手続きが終われば部屋に直行だ。

 鍵を持って二階に上がり、言われた通りに一番奥の部屋に進むと六と番号が書かれていた。鍵の番号と照らし合わせ、合っていたのでそのまま鍵を開けて中に入るとベッドが左右に二つと中央にテーブルと椅子が二脚。
 通りの方向に人が通れるぐらいの窓があって、万が一、逃亡の時には使えるだろう。

「良さそうだな。」

「ああ、しっかりと管理もされている。」

「確かに、綺麗に掃除されてるみたいだし、シーツも洗ってくれてる。」

 今まで資金はあったので比較的良い宿には泊まっていたが、魔大陸カサルティリオに近付くにつれて質は落ちて行ってたし、俺が村を出た当初なんかは軍資金が乏しくてやばい感じの宿にも泊まった経験がある。正直、鼻が効きすぎるんで野宿の方が良い時もあった。

「ソル、良ければ髪を洗って体を拭こうか?包帯も取り替えたいし、すっきりしてから休んだ方が良いと思う。」

「ああ…確かに。マーレスが良ければお願いしても良いか?」

「勿論だ。準備するから少し待っててくれ。」

 マーレスが収納鞄マジックバックを腰から外し、最低限身に付けていた防具を外してからシャツの袖を折って捲る。最近、世話になりっぱなしの桶を取り出して、水と火の魔石を使って手早く微温湯を準備してくれた。
 俺も出来るだけ急いで防具とシャツを脱ぎ、下着だけ残して靴とズボンも濡れないように脱ぐ。
 最初に洗って貰った時のように桶の前で胡座をかいて座り頭を下げると前からマーレスが手で掬ったお湯を何度も掛けてくれ、濡れ切った所で頭皮から擦って洗ってくれる。

「香油か何かあれば良いんだが…。」

「あ、いや…お湯で充分だし、匂いがどうも俺には強すぎてな。」

「そうか、ソルは臭覚も良かったな。どれぐらいなんだ?」

「んー…基準が分からないんだが、晴れてれば千メルテぐらいの範囲の獲物の場所は嗅覚で分かる。雨の日は頑張っても五百メルテぐらいだな。」

「そうなのか、それは凄いな。今更なんだが、俺の匂いは…大丈夫か?」

「マーレスの?いや、あんま気にならないってか、マーレスは体臭が殆んどしないよな。もっと、しっかり嗅いだら分かるかもしんねぇけど…。」

「ちょ、ソル!?」

 顔を上げ、右手を床について身を乗り出しながらクンクンと興味本意でマーレスの首筋に顔を寄せると思いっきり後ろに飛び退かれた。

「わりぃ、驚かせた。首とか嗅ぎ易そうだったんでつい…。もうしないから、戻って来てくれ。」

「いや、俺も驚いてすまない。」

「マーレスは悪くないって。ごめんな。」

 一先ず戻って来てくれたので苦笑う。距離感が近く感じてたんで安易に踏み込み過ぎた。せめて、聞いてからすれば良かった。
 仕切り直して髪を洗い出してはくれたんで、怒ってはいないと思うが…。

「でも、驚いた姿とか初めて見た。」

「確かに、余り驚かない方だと思う。ソルは凄いな。」

「そうか?て、…あ、マーレス?マーレスさん?」

「ん?ここが気持ち良かったんだろ?」

 後頭部の頭頂部近くの左右を揉まれると気持ち良いんだが、人として駄目になってしまいそうな部位を狙って解されたのはさっきの仕返しかとも思ったものの雰囲気的にどうやら違うみたいだ。

「そうだけど、そこは堕落の扉だと思ってる。」

「なんだ、その扉は。」

 可笑しそうに笑いながらも絶妙な力加減で揉まれてやっぱり力が抜ける。やばい、前より上手くなってて、本当に堕落の扉が開きそうだ。

「マーレス…ちょ、待って、本当に気持ち良すぎて駄目になるやつ…。」

「駄目になっても良いけど、そうだな、早く洗って、後は体を拭いて包帯も取り替えないと。そうだ…。」

「ん?」

「首の後ろに温めた布を当てると気持ちが良いらしい。」

「いや、マーレス。なんでそんなに楽しそうなんだ?」

「ソルに少しでも元気になって欲しいからだ。
 」

 上機嫌に返事をされ、軽い抵抗を口でしつつも髪は綺麗に洗って拭かれて、包帯を取った後、体も怪我を避けて程よく指圧しながら拭いてくれ、首の裏もほかほかに温められ、新しい包帯を巻かれる頃にはぐったりと体から力が抜けていた。

 マーレスは天然てより、良い意味で人を駄目にする天才かもしれない…。
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