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82.「燃やす」
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結局、押し切る形でフルーツサラダと野菜スープをメインにした朝食を取って頂き、着替えも済ませて種類の増えた紅茶で何とか引き止めているとシュタルクさんが塔へとやって来た。
その頃には彼も落ち着いていたので、突出しておかしな事態にはならなかったが、気分転換に話し相手をしていけと遠まわしに告げたので何かを察したようにシュタルクさんが談話室に残っていた。
三人分のお茶を淹れ、何気なく守護神の直ぐ隣に座るとお二人の空気が少しざわついた。
「どうしました?」
「いえ、以前より仲良くなられたのかと思いまして。」
「ああ、そうですね。少し慣れたと言いますか、分かったと言いますか。悪い方ではないのだなと…。」
「なるほど…、何かされた様子ではないですし、心境の変化なのでしょう。」
「そうか…。」
シュタルクさんは俺に話し掛けていたのだが、何故かヘルマプロディートス神が返事をする。
不思議に思いながら、視線を向けると微苦笑された…。
「そう言えば、満月の日まで今日を除けば残り二日ですね。その後、問題はありませんか?」
「そうだな、特段問題は無い…。」
「そうですか?では、塔の生活で不便な事はありませんか?」
「私は大丈夫だが、君の方はどうだ?」
「俺も問題はありません。そういえば、教会の方に何か先触れはありましたか?」
正直、今、皆さんとどの程度離れているのかが分からないので、到着の日数が分からない。
質問すると使者もまだ無く、逆にどの辺りで襲撃されたのか問われたので大まかにだが説明すると予測を立ててくれた。
「仮に『アーベントイアー』から考えましても、この街『ゼーゲファレン』に到着するとなると二週間程度掛かりますね。現在、街に来て五日目になりますので残り九日、十日程度を目安にして頂ければ良いかと思います。」
「有難うございます。とても助かりました。」
「いえ、お役に立てて良かったです。また、何か有りましたらお伝えしますので余り気負わずお過ごし下さい。」
「はい、分かりました。」
本当にシュタルクさんには感謝しかない。
曖昧なままでは不安もあったが、目安となる日数を教えて貰えて安堵するばかりだ。
別れ際にシュタルクさんに再度お礼を言ってから見送り、鍵を掛けてから扉の内側に魔法を使った。
「【光の牢獄】」
普通は魔物や敵の動きを封じる魔法だが、出現させた光の檻で出入り口を塞ぐ。
魔力切れをしない限りは、扉からの侵入者を防いでくれるだろう。
満足すると足音が聞こえたので、魔力に気がついて下りて来たであろうヘルマプロディートス神を見上げて微笑んだ。
「さあ、早く研究資料を処分してしまいましょう。」
「それはそうだが、君…様子がおかしいと思ったらやっぱり…。」
「全く、昨夜の事を引き摺っていないとは言えませんね。」
「だろうな。一番、怒らせてはいけない人を怒らせた気分だよ。」
本当に『守護神には』怒っていないのだが。
どちらかと言うと迷惑な研究資料を残して消えた魔法使いに腹を立てている。
そして、今はその研究資料を心の底から消し去りたい。幸い、俺は火魔法も得意だ。
ヘルマプロディートス神に指示を仰ぎながら意気揚々と研究資料を地下から運び出すと、談話室にあった今は使われていない暖炉に次々に放り込んで行く。
ある程度、量が溜まると一言断ってから魔法で本に着火し、見る間に燃えて行く姿を眺めていると後ろから話し掛けられた。
「私も誤解を良く受けるが、君にも当て嵌まるね。」
「どういう意味ですか?」
「『純粋』と『狂気』は紙一重だと言う事さ。執着しているのはシュヴァルトだけでは無かったんだな?」
「勿論ですよ。俺は結構、欲深い人間だと気がつきました。大事な人を奪うものは何でも許しません…。」
「それは…私にも当て嵌まるのだろうか?」
一瞬、何を問われているのか分からず、意味を理解すると振り返って『彼』を見つめる。
時折、シュヴァルト様とヘルマプロディートス神が重なって見える時があったのだが、どちらが欠けても『彼』は存在していないのかもしれない…。
「貴方はシュヴァルト様の半身で、いつも守って下さっているでしょう?感謝こそすれ、厭わしく思ったりしませんよ。俺の身勝手で、危険に巻き込んでしまったのに…ありがとうございます。」
本当に、ヘルマプロディートス神がいなければ今頃どうなっていただろうか?
少なくとも敵に囚われて、シュヴァルト様も俺もどんな扱いを受けていたか分かったものでは無い。
万が一にもシュヴァルト様の命が…と考えると今でも体が沸騰しそうだ。
それこそ、燃えるような怒りを感じていると気落ちした声が聞こえた。
「…本当に心も一つになれれば良いのだがね。何故、シュヴァルトと私は別々の存在なのだろう。それが、酷く厭わしいよ。」
「それは…」
「何も言わなくて良い。どうしようもないと分かっている…。」
ぱちりと火の粉の爆ぜる音が大きく聞こえる。
出会わなければ良かったとは思わないが、シュヴァルト様とヘルマプロディートス神、『彼』を二重の意味で苦しめているのは分かった。
その頃には彼も落ち着いていたので、突出しておかしな事態にはならなかったが、気分転換に話し相手をしていけと遠まわしに告げたので何かを察したようにシュタルクさんが談話室に残っていた。
三人分のお茶を淹れ、何気なく守護神の直ぐ隣に座るとお二人の空気が少しざわついた。
「どうしました?」
「いえ、以前より仲良くなられたのかと思いまして。」
「ああ、そうですね。少し慣れたと言いますか、分かったと言いますか。悪い方ではないのだなと…。」
「なるほど…、何かされた様子ではないですし、心境の変化なのでしょう。」
「そうか…。」
シュタルクさんは俺に話し掛けていたのだが、何故かヘルマプロディートス神が返事をする。
不思議に思いながら、視線を向けると微苦笑された…。
「そう言えば、満月の日まで今日を除けば残り二日ですね。その後、問題はありませんか?」
「そうだな、特段問題は無い…。」
「そうですか?では、塔の生活で不便な事はありませんか?」
「私は大丈夫だが、君の方はどうだ?」
「俺も問題はありません。そういえば、教会の方に何か先触れはありましたか?」
正直、今、皆さんとどの程度離れているのかが分からないので、到着の日数が分からない。
質問すると使者もまだ無く、逆にどの辺りで襲撃されたのか問われたので大まかにだが説明すると予測を立ててくれた。
「仮に『アーベントイアー』から考えましても、この街『ゼーゲファレン』に到着するとなると二週間程度掛かりますね。現在、街に来て五日目になりますので残り九日、十日程度を目安にして頂ければ良いかと思います。」
「有難うございます。とても助かりました。」
「いえ、お役に立てて良かったです。また、何か有りましたらお伝えしますので余り気負わずお過ごし下さい。」
「はい、分かりました。」
本当にシュタルクさんには感謝しかない。
曖昧なままでは不安もあったが、目安となる日数を教えて貰えて安堵するばかりだ。
別れ際にシュタルクさんに再度お礼を言ってから見送り、鍵を掛けてから扉の内側に魔法を使った。
「【光の牢獄】」
普通は魔物や敵の動きを封じる魔法だが、出現させた光の檻で出入り口を塞ぐ。
魔力切れをしない限りは、扉からの侵入者を防いでくれるだろう。
満足すると足音が聞こえたので、魔力に気がついて下りて来たであろうヘルマプロディートス神を見上げて微笑んだ。
「さあ、早く研究資料を処分してしまいましょう。」
「それはそうだが、君…様子がおかしいと思ったらやっぱり…。」
「全く、昨夜の事を引き摺っていないとは言えませんね。」
「だろうな。一番、怒らせてはいけない人を怒らせた気分だよ。」
本当に『守護神には』怒っていないのだが。
どちらかと言うと迷惑な研究資料を残して消えた魔法使いに腹を立てている。
そして、今はその研究資料を心の底から消し去りたい。幸い、俺は火魔法も得意だ。
ヘルマプロディートス神に指示を仰ぎながら意気揚々と研究資料を地下から運び出すと、談話室にあった今は使われていない暖炉に次々に放り込んで行く。
ある程度、量が溜まると一言断ってから魔法で本に着火し、見る間に燃えて行く姿を眺めていると後ろから話し掛けられた。
「私も誤解を良く受けるが、君にも当て嵌まるね。」
「どういう意味ですか?」
「『純粋』と『狂気』は紙一重だと言う事さ。執着しているのはシュヴァルトだけでは無かったんだな?」
「勿論ですよ。俺は結構、欲深い人間だと気がつきました。大事な人を奪うものは何でも許しません…。」
「それは…私にも当て嵌まるのだろうか?」
一瞬、何を問われているのか分からず、意味を理解すると振り返って『彼』を見つめる。
時折、シュヴァルト様とヘルマプロディートス神が重なって見える時があったのだが、どちらが欠けても『彼』は存在していないのかもしれない…。
「貴方はシュヴァルト様の半身で、いつも守って下さっているでしょう?感謝こそすれ、厭わしく思ったりしませんよ。俺の身勝手で、危険に巻き込んでしまったのに…ありがとうございます。」
本当に、ヘルマプロディートス神がいなければ今頃どうなっていただろうか?
少なくとも敵に囚われて、シュヴァルト様も俺もどんな扱いを受けていたか分かったものでは無い。
万が一にもシュヴァルト様の命が…と考えると今でも体が沸騰しそうだ。
それこそ、燃えるような怒りを感じていると気落ちした声が聞こえた。
「…本当に心も一つになれれば良いのだがね。何故、シュヴァルトと私は別々の存在なのだろう。それが、酷く厭わしいよ。」
「それは…」
「何も言わなくて良い。どうしようもないと分かっている…。」
ぱちりと火の粉の爆ぜる音が大きく聞こえる。
出会わなければ良かったとは思わないが、シュヴァルト様とヘルマプロディートス神、『彼』を二重の意味で苦しめているのは分かった。
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