男になった元悪役令嬢と召喚勇者

49.「鬼雨の帳」※

　重なっただけの口付けが酷く甘く感じ、意識が途端に霞んでいく。
　まるで蜜を求めるように無意識に唇を欲して、衝動のまま自分からそれを貪っていた。

「…ンっ…ん、…ふぁ…っ」

「…っ、ふ…」

　心地良い感触に溺れ、柔らかい舌を飴玉みたいに何度も舐めていると意思を持ったそれに絡め取られて吸い上げられる。
　何度も何度も緩急をつけ吸いつかれ、時折、先端を甘噛みされてと…酷く心地良い。
　もっとと強請る代わりに薄い柔らかな皮膚に軽く噛み付けば、直ぐに応えて返してくれる。
　ぐちゅぐちゅと混じり合う水音を聞きながら、霞んだ意識の中、ビクッと体が一度痙攣したのが分かった…。

「……これは、納得は全くいきませんが…酷く、愛らしい…っ…」

「………？」

　目の前の『誰か』が、何かを話しているのだが意味が良く分からない。
　それよりも『この人』に、もっと続きをして欲しかった。
　手を伸ばし、触れた首へと指を滑らせ、細やかな肌を辿って喉から顎、そして唇へ触れる。

「…っ…ぅぁ」

　柔らかさに添えた指が不意に噛まれた。
　痛みは薄く、寧ろ小さな刺激が体に広がり、むず痒さのような快楽にじりじりと神経が焼かれる錯覚を覚える。
　それを知ってか知らずか、丁寧に、壊れ物でも扱うかに指を舐められ甘噛みされるが…。

「あ、ちが…っ、もっと…さわっ…て…」

「………………………………………。」

　長い沈黙だけが有り、怒らせてしまったのだろうかと不安が胸に広がる中、一度項垂れたその人は咥えていた指を離すと上体を起こした。
　行かないでと、声を上げそうになって…上げられない。
　一度退いた彼は姿勢を変えながら、俺の夜着のズボンと下着を一緒に勢い良く引き抜き、両の膝裏を持ち上げて左右に広げた。
　下着は何故か濡れていたし、朧げながらもした事のない体勢に困惑していると脚を肩に担がれ、そのまま……。

「えっ、あ…っ、あ…！」

　反応している中心をゆっくりと温かい咥内に飲み込まれる。
　それだけでも気持ちが良いのに筋裏を舐め上げられながら引かれ、抜き切る事なく先端を強く吸われると甘い痺れが腰に落ちた。

「んあっ、あ…っ…、ぃあ…」

　敏感過ぎて泣きたくなる程に体がビクビクと震え、先走りが出てしまう。
　感じ入っていると口が離れたので、荒い呼吸を整えるように大きく息を吸う間に脚の付け根に唇が触れて、強く吸い上げられた。
　位置を変えて幾つも吸いつかれ、比較的肉の柔らかい内腿には強く歯まで立てられて痛みが走る。
　だが、それさえも気持ちが良くて、その不自然さに思考が僅かに軋む。

「っ…、ん…ンぁっ…？」

　俺は一体、何をと…意識が浮上しそうになり、再び与えられた直接的な下肢への快楽に簡単に飲まれてしまう。
　奥深くまで包まれ、誘うかに収縮する内壁。
　女性を抱いているようでも有り、全く違う気もした。
　同じなのは欲を吐き出したいという欲求で、抗いようの無い悦楽に沈み、何も考えられずに拒まない内部へと呆気なく射精する。

「あっく、…ハッ…ぁ…んあ、あっ…！」

「っ…ん…」

　でも、何かが決定的に足りない。
　何をと動かない頭は答えを出せないでいると顔を上げた誰かが、濡れた指…だろうか？尻の割れ目を確かめながら滑らせ、有り得ない場所へ宛がった。
　強引にではないが、確実に指を潜り込ませる動きに本来なら痛みと生理的な嫌悪感で逃げ出したくなるだろう。
　でも、現実は想像を裏切って長い指を徐々に受け入れ、更に締め付けてと…催促でもするようだった。

「っ…う、そ…、なん…で…ちが…っ…」

『淫乱』の文字が脳裏に濃く浮かび上がり、言い訳をしたくて堪らなくなる。

　一体、誰に言い訳をしたいのか…？

　何度も小刻みに首を振り、止めさせようと腕を伸ばすとさらりとした長髪に指が触れ、こちらを見上げる視線と目が合った気がする。

「大丈夫、わかって…います…悪いのは、寧ろ私の方だ…。」

　少し辛そうな低い声が頭に響き、それが輪郭を持つように霞がかった思考が徐々に晴れて行く。
　何故、この方を悲しませているんだ？何も悪くなんて無い、寧ろ俺が勝手に好きになって、勝手にこんな事態に…こんな…事態…？
　じわじわと正常な意識が戻って来る中、変わらず熱い体と、抜き差しされる指の感触と、自分の惨状に気がついて、カッと羞恥で頭が沸騰した。

「シュ、ヴァ…っ、あああ！く、ぁっ…な、に…、ど、して…」

　うっすらと覚えている痴態に身悶え、更に動きを止めて下さらないシュヴァルト様に翻弄されて上手く言葉を伝えられない。
　決して彼の指は俺の尻なんかを弄るべきでは無いし、離して下さればこの訳の分からない衝動も自分で何と…か…っ…。

「あ、ハッ、…い…い…じゃ、ない、…あ、…あ、そ…こ…っ…」

「…ここ、ですか？」

　ちぐはぐになる思考と言葉に目の前が明滅した気がする。
　何を口走ってと思う間に掠めると気持ちが良い箇所を念入りに刺激され、体は素直に反応してしまう。
　溺れたくないのに溺れる感覚に捕らわれ、踏ん張ろうとしても足元の地面が次々に崩れるみたいだった。

「うっ、ふ、ふーっ…んく、っ…ぅあ…あ…っ」

　呼吸が荒く、酷く息苦しい。
　上手く息が吸えていないからだろう。
　苦しさに自然と指を噛み、薄い夜着に爪を立てながらも止めて欲しく無くて、いや、止めないと、でも、気持ち良くて、もっと触れていて欲しい…。
　纏まらない思考の中、次第に指を一本から二本、それに慣れれば三本に増やされ、圧迫感に涙が零れたが、上回る快楽に体が支配され続けておかしくなりそうだった。

「はっ…ぁ…きもち…いい…っ、シュ、ヴァ…ルト…さ…ま…っ」

　こんな姿は見せたくないと思うのに口を衝くのは違う言葉。
　自分の体が自分の物では無いようで、でも、気持ちは全く嘘では無い事が辛く甘く胸を苛んだ。
　時間にして一瞬でもあったような、永遠でもあったような時が過ぎ、指を引き抜かれたのか圧迫感が無くなった事に力が抜け、呼吸が少し楽になった。
　これで終わりかと、高ぶった体はともかく、何処かで安心しているとシュヴァルト様の顔が直ぐ傍に見えた。

「…後で罵って下さっても、いっそ殺してくれても構いません…。これは、私の我が儘で、貴方を傷付けたくは無いのに、貴方を他の者に…しかも、こんな形で囚われているのが心底我慢なりません…。」

　絞り出す声音は悲痛で、何も気に病まなくて良いと言いたいのに声が出せなかった。
　何故なら熱く硬いものが先程まで指が入っていた場所に押し当てられ、中に浸入しようとしていたから…。

「っ、ま、シュヴァ…っあ、ああ、ああああ…っ！」

「…は、ぁ…くっ…コウ、セイ…っ」

　強烈な異物感に悲鳴を上げ、けれども痛みより一思いに貫かれた快感で達してしまっていた。
　やっと自身の異常性に気がつくも、自分ではどうにも出来ず、快楽を享受するだけの体に怯え、シュヴァルト様の背に腕を回して縋り付く。

「…っ、コウセイ…？」

「ぅっ…シュ…ヴァ、ルトさ…まぁ…っ…」

「…大丈夫、直ぐに終わりますから…目を閉じて…何も考えないで…」

　熱っぽくも優しい声音に何度も頷き、再開された動きに只、揺さぶられる。
　今度は気遣うようにゆっくりとした動きなのに箍たがが外された体は鮮烈に感覚を拾い、熱を直ぐに内包して行く。
　内部を埋めるシュヴァルト様自身も質量を増し、擦られる度に理性が簡単に吹き飛んでいた。

「あっ、…ぃ…く……ま…た、くるし…ひぅっ…ぐ！」

　気持ち良すぎて最早苦しいのに、何故か動きを早められて意識が飛びそうになる。
　どうしてと問う間も与えられず、直ぐに低い呻き声と共に腹の中に熱い何かが吐き出された。

「っ…、く、あなたも…」

「ひぁっ、ゃ…あ、あ…っ」

　もう出ないと、もう良いのに、前を握り込まれ性急に擦られ、シュヴァルト様のものを締めつけながら俺も限界を迎え、同時に意識が白んでいった…。