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45.「物思う」side.アイアス。
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今日まで『願い』とは自分の為に使う言葉だと思っていたー…。
話し合いを終えて馬車へと戻り、キリルが準備してくれた紅茶を飲みながら彼らの事を自然と考えていた。
シュヴァルト殿とは幼い折りに何度か面識があったが、彼女、既に『彼』の変化も実に大きい。
初めて出会った時はまるで精巧な人形のようだったのが随分と人間らしい感情を得ている様に思える。
我々『守護神』持ちは何処かしら大きく欠落した者が多いのだが、『勇者』の力はそれをも凌駕するのかと感心させられた程だ。
「それに僕も影響を受けているしね…。」
長年の因習とでも言うようなヴィリアーズとラティフォリアの対立。
貴族の派閥争い等、それこそ隣国の王国でも起こってはいるが…その元凶となった出来事に干渉出来たのは実に意義が大きいと思う。
根拠は無いが子供の時から感じていた違和感が、本能が、そう叫んでいた。
更に襲撃者からも命を守られ、今も尚、コウセイ殿には助けられている…。
「ロベリア・フォン・ラティフォリアは別に君の敵では無いのにね。それこそ『願い』とやらで僕からの解放でも願えば良かっただろうに…。」
実質、現時点ではキリルしか此方側の人間は存在しない。
『逃げるだけ』ならば幾らでも手はあるし、最大の目的を達成した今ならば逃がしても構わないとさえ思っていた。
なのに、彼は無意識なのか僕の身も心配して動いてくれている。
そして、彼がそう思う限りは決してシュヴァルト殿も此方を見限ったりはしない。
コウセイ殿に失望されるぐらいならば、地獄の業火で焼かれた方が遥かに良いとでも思っているのだろう。
その感情が羨ましくもあると、そう思った時点で心は動かされていた…。
「ストレイト王はある意味想いを遂げた。でも、その子孫の僕はきっと想いを遂げられないだろう。一体、どちらが気弱なのか…。」
紅茶を備え付けのサイドテーブルに置き、代わりに古いペンダントを手に取る。
今は光を宿さない物言わぬ青い精霊石を見つめ、思わず溜息が溢れた。
『コウセイには必要の無い物です。アイアス様、どうぞ御自分でお持ち下さい。』
そう言って突き返されたメーア様の形見。
どうして彼に持っていて欲しいと分かったのだろうか?
燃えるような紫の瞳に気圧されてついつい受け取ってしまったが、やはり今でもコウセイ殿に持っていて欲しい、それこそに意味があるように思えた。
何度目かの溜息を零すと右手の中指に嵌めた銀製の指輪が震え、蒼玉の中から透き通った水が溢れると少女とも少年とも言える姿を形作ったペルレが現れた。
「やぁ、少しは力が戻ったかな?」
「ええ、お陰さまで。新しい精霊石をありがとう。それにしても…レイトと似ているのは見た目だけだと思っていたのに…ふふ。」
「中身も少しは似ていたかい?…すまないね、無理を言って留まって貰って。」
「いいわよ。二人の子孫のお願いなんだし、それにまさか…海の女神の加護を受けているなんて、水に恩恵を受ける者としては余計に見過ごせないわ。」
「それに関しては自分でも不思議なのだが、状況としては非常に助かっている。少なくとも僕を殺せばラティフォリアに神罰が下るだろうし…まあ、国民まで巻き込みそうなので…それは避けたい事態だけどね。」
「誰が…殺させてたまるものですか…。」
「…すまない。頼りにしている。」
軽率な発言だったがペルレの意思を確認出来て良かったと思う。
本来ならばペルレは高位の精霊で、力も非常に強い。
正直、穢れで弱っていなければ死人が何人か出ていたかもしれない…。
事前に情報を集め、勝算が無ければ放置も考えていたのだが『勇者』というカードが来た時点で実行を決意出来た。
重なる彼への恩義と心強い新たな味方に満足しながらペンダントを机への上へ戻し、ペルレに思案げな顔をわざとらしく作って向ける。
「早速だが、謝罪に託けてコウセイ殿に何か贈り物をしようと思う。異界の君には何が喜ばれるだろうか?」
「あら?結局、諦めて無かったのね。そういう所はレイトと違うと思うわ。」
「お褒め頂き有り難う。未来なんて物は結局分からないのだから、出来る範囲は自分のしたいようにすれば良いと思っている。もしかしたら、また良い事があるかもしれないしね。」
「同感だわ。絶望も希望に変わる時があるのだから…。」
その言葉に深い笑みが零れたのは言うまでも無かった。
話し合いを終えて馬車へと戻り、キリルが準備してくれた紅茶を飲みながら彼らの事を自然と考えていた。
シュヴァルト殿とは幼い折りに何度か面識があったが、彼女、既に『彼』の変化も実に大きい。
初めて出会った時はまるで精巧な人形のようだったのが随分と人間らしい感情を得ている様に思える。
我々『守護神』持ちは何処かしら大きく欠落した者が多いのだが、『勇者』の力はそれをも凌駕するのかと感心させられた程だ。
「それに僕も影響を受けているしね…。」
長年の因習とでも言うようなヴィリアーズとラティフォリアの対立。
貴族の派閥争い等、それこそ隣国の王国でも起こってはいるが…その元凶となった出来事に干渉出来たのは実に意義が大きいと思う。
根拠は無いが子供の時から感じていた違和感が、本能が、そう叫んでいた。
更に襲撃者からも命を守られ、今も尚、コウセイ殿には助けられている…。
「ロベリア・フォン・ラティフォリアは別に君の敵では無いのにね。それこそ『願い』とやらで僕からの解放でも願えば良かっただろうに…。」
実質、現時点ではキリルしか此方側の人間は存在しない。
『逃げるだけ』ならば幾らでも手はあるし、最大の目的を達成した今ならば逃がしても構わないとさえ思っていた。
なのに、彼は無意識なのか僕の身も心配して動いてくれている。
そして、彼がそう思う限りは決してシュヴァルト殿も此方を見限ったりはしない。
コウセイ殿に失望されるぐらいならば、地獄の業火で焼かれた方が遥かに良いとでも思っているのだろう。
その感情が羨ましくもあると、そう思った時点で心は動かされていた…。
「ストレイト王はある意味想いを遂げた。でも、その子孫の僕はきっと想いを遂げられないだろう。一体、どちらが気弱なのか…。」
紅茶を備え付けのサイドテーブルに置き、代わりに古いペンダントを手に取る。
今は光を宿さない物言わぬ青い精霊石を見つめ、思わず溜息が溢れた。
『コウセイには必要の無い物です。アイアス様、どうぞ御自分でお持ち下さい。』
そう言って突き返されたメーア様の形見。
どうして彼に持っていて欲しいと分かったのだろうか?
燃えるような紫の瞳に気圧されてついつい受け取ってしまったが、やはり今でもコウセイ殿に持っていて欲しい、それこそに意味があるように思えた。
何度目かの溜息を零すと右手の中指に嵌めた銀製の指輪が震え、蒼玉の中から透き通った水が溢れると少女とも少年とも言える姿を形作ったペルレが現れた。
「やぁ、少しは力が戻ったかな?」
「ええ、お陰さまで。新しい精霊石をありがとう。それにしても…レイトと似ているのは見た目だけだと思っていたのに…ふふ。」
「中身も少しは似ていたかい?…すまないね、無理を言って留まって貰って。」
「いいわよ。二人の子孫のお願いなんだし、それにまさか…海の女神の加護を受けているなんて、水に恩恵を受ける者としては余計に見過ごせないわ。」
「それに関しては自分でも不思議なのだが、状況としては非常に助かっている。少なくとも僕を殺せばラティフォリアに神罰が下るだろうし…まあ、国民まで巻き込みそうなので…それは避けたい事態だけどね。」
「誰が…殺させてたまるものですか…。」
「…すまない。頼りにしている。」
軽率な発言だったがペルレの意思を確認出来て良かったと思う。
本来ならばペルレは高位の精霊で、力も非常に強い。
正直、穢れで弱っていなければ死人が何人か出ていたかもしれない…。
事前に情報を集め、勝算が無ければ放置も考えていたのだが『勇者』というカードが来た時点で実行を決意出来た。
重なる彼への恩義と心強い新たな味方に満足しながらペンダントを机への上へ戻し、ペルレに思案げな顔をわざとらしく作って向ける。
「早速だが、謝罪に託けてコウセイ殿に何か贈り物をしようと思う。異界の君には何が喜ばれるだろうか?」
「あら?結局、諦めて無かったのね。そういう所はレイトと違うと思うわ。」
「お褒め頂き有り難う。未来なんて物は結局分からないのだから、出来る範囲は自分のしたいようにすれば良いと思っている。もしかしたら、また良い事があるかもしれないしね。」
「同感だわ。絶望も希望に変わる時があるのだから…。」
その言葉に深い笑みが零れたのは言うまでも無かった。
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