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37.「古城」
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大凡、森の中心部に位置する古城に到着するまでに数回の戦闘を行ったのだが、昨日と違う点が幾つかあった。
特に気になったのはやはり第二王子であるアレクシス・フォン・メレンドルフの言動。
本当にお前は誰だと言わんばかりに陣形を意識し、一番お荷物であるあの女を常に最も安全な位置に置き、前衛タイプの第二王子自身と騎士団長子息をある程度の盾に使って魔術師団長子息には後方からの援護、教皇子息には回復役を徹底させていた。
しかし、練度の低さも理解しているのか無理や深追いはせずに上手い具合に護衛の騎士も使って防御と攻撃、回避を組み合わせて後を何とか着いて来た。
突然、理知的な戦闘を行い出した事に周囲も訝しんではいたが、特に足手纏いにならなかったので敢えて口に出して指摘する者もいなかった。
因みに昨日大活躍したリリー様の駆除攻撃は現在一旦中止して貰っている。
理由としては風向きによって古城内部に薬剤が溜まってしまうと流石に人体にも多少なりの影響が有り、行動が妨げられること。
使用し続ければ薬剤自体の在庫が少なくなり補充の必要が出てくること。
後は…何か今は満足されているそうなので、また欲求が堪った時に頑張りますわとの言葉を受けて俺はそれ以上何も聞きたくなかった…。
古城に到着するまでに軟泥、小鬼、狼、更に侵食の森にいた大食い花とも戦いながら辛うじて残っている古道を行軍した。
そして今現在、目の前に古城を守るように設置された石垣の門が見える。
流石に古いだけあって完全に原型は留めておらず、存在したであろう門扉も朽ちて存在しないが、かつては頑強に作られていた事が推測出来た。
石垣を抜けると古城の入口に向かう一本道と左右には庭園の痕跡が有り、現在は荒れ果てているものの昔は見事な花壇が存在し、枯れた噴水もたっぷりと水を湛えていたのだろう。
そんな想像を巡らせながら古城の入口に到着するとやはり扉等は朽ちてしまっているが、恐らく装飾の為に周囲の石壁に彫られた物が気になった。
「魚…か、何かでしょうか?」
辛うじて鱗のような物が認識出来るが、それ以外は表面が風化していて良く分からないでいるとヴィアベル王太子殿下が頷く。
「恐らくね。この国では海に関係する物を装飾に使うのは一般的だ。」
「そうなのですね。」
納得しか出来ない返答に満足し、一応魔物が直ぐ近くに潜んでいないか安全確認してから内部を調べる運びになった。
護衛の騎士が数名先陣を切り、キリルさん、王太子殿下、俺、シュヴァルト様、リリー様、メイさん、後に第二王子、騎士団長子息、あの女、魔術師団長子息、教皇子息、と護衛の騎士数名と昨日とは少し隊列を変更して進む。
事前に聞かされていた通り内部に入って直ぐのエントランスホールで瘴気の気配を感じ、建物の奥に進むにつれて濃度が上がって行く。
慎重を期して俺とあの女で早々に一階の各部屋や廊下を分担して『浄化』を始めたのだが…ここでもまた、問題が発生した。
端的に言うとあの女の『浄化』が上手く出来ていない。
多少は瘴気が軽減されているのだが完全に取り切れておらず、『浄化』の色を『白』、『瘴気』の色を『黒』と例えた場合、あの女が作業を行った場所は『灰色』となる。
明確な原因は分からず、事情だけシュヴァルト様やヴィアベル王太子殿下に告げて手近な部屋から『浄化』をやり直していたのだが…。
「ちょっと!ふざけないでよ!そこは私がした場所でしょう!?なんであんたがやり直してるのよ!」
こちらの行動に気づくや否や、早歩きで近付いて来て喚かれた。
説明するのも億劫だったが、一応理由を説明したが全く納得しておらず思いっきり不機嫌な顔をされ…。
「そこまでしてあんた、自分を良く見せたいわけ?自分の方が有能ですって女の子を踏み台にしてまでする事!?」
心底引いた目で見られて、とりあえずその顔面に重い一撃を入れたいのとこいつは人の神経を逆撫でする天才かと思った。
何も意地悪や自分のポイント稼ぎで言っている訳では無いし、仮にこのクソ女の『浄化』のまま放置すれば数日で瘴気が元に戻るか、良くてもこの中途半端な状態が続くのだろう。
それではこの旅の意味が無いと、そんな当たり前に考えられる事態が想像出来ないのかと怒り掛けて…。
「…なん…だ?」
不意に怒りの感情が静まった。
何か聞こえた様な気がして周囲をきょろきょろと見回すも原因は見当たらず、止めに入ろうとして下さったのか間近に来てくれたシュヴァルト様が心配して下さる。
「大丈夫ですか、コウセイ?」
「…ええ、大丈夫です。今、何か聞こえませんでしたか?」
「いいえ、私は特に何も。」
首を傾げているといつの間にか第二王子があの女を宥めていた。
有難いし良い変化なのだが理由が分からなさ過ぎて空恐ろしい気分にしかならない。
この件はシュヴァルト様に後程相談するとして、今は耳に微かに残る音が気になった。
音はとても小さく、随分遠くから聞こえたように思う。
古城はまだ上層があるので今居る一階ではないだろうが、城内を見て回っていればもしかしたら何か分かるかもしれない。
自分の中で方針が定まったせいか落ち着き、そして次の瞬間起こった事態に反応する事が出来た。
「危ない!!!!」
突然、朽ちた窓から現れた何者か。
侵入して来た者の凶撃がヴィアベル王太子殿下に迫り、直撃する前に腰に下げていた片手剣を引き抜いて力任せに投擲していた。
特に気になったのはやはり第二王子であるアレクシス・フォン・メレンドルフの言動。
本当にお前は誰だと言わんばかりに陣形を意識し、一番お荷物であるあの女を常に最も安全な位置に置き、前衛タイプの第二王子自身と騎士団長子息をある程度の盾に使って魔術師団長子息には後方からの援護、教皇子息には回復役を徹底させていた。
しかし、練度の低さも理解しているのか無理や深追いはせずに上手い具合に護衛の騎士も使って防御と攻撃、回避を組み合わせて後を何とか着いて来た。
突然、理知的な戦闘を行い出した事に周囲も訝しんではいたが、特に足手纏いにならなかったので敢えて口に出して指摘する者もいなかった。
因みに昨日大活躍したリリー様の駆除攻撃は現在一旦中止して貰っている。
理由としては風向きによって古城内部に薬剤が溜まってしまうと流石に人体にも多少なりの影響が有り、行動が妨げられること。
使用し続ければ薬剤自体の在庫が少なくなり補充の必要が出てくること。
後は…何か今は満足されているそうなので、また欲求が堪った時に頑張りますわとの言葉を受けて俺はそれ以上何も聞きたくなかった…。
古城に到着するまでに軟泥、小鬼、狼、更に侵食の森にいた大食い花とも戦いながら辛うじて残っている古道を行軍した。
そして今現在、目の前に古城を守るように設置された石垣の門が見える。
流石に古いだけあって完全に原型は留めておらず、存在したであろう門扉も朽ちて存在しないが、かつては頑強に作られていた事が推測出来た。
石垣を抜けると古城の入口に向かう一本道と左右には庭園の痕跡が有り、現在は荒れ果てているものの昔は見事な花壇が存在し、枯れた噴水もたっぷりと水を湛えていたのだろう。
そんな想像を巡らせながら古城の入口に到着するとやはり扉等は朽ちてしまっているが、恐らく装飾の為に周囲の石壁に彫られた物が気になった。
「魚…か、何かでしょうか?」
辛うじて鱗のような物が認識出来るが、それ以外は表面が風化していて良く分からないでいるとヴィアベル王太子殿下が頷く。
「恐らくね。この国では海に関係する物を装飾に使うのは一般的だ。」
「そうなのですね。」
納得しか出来ない返答に満足し、一応魔物が直ぐ近くに潜んでいないか安全確認してから内部を調べる運びになった。
護衛の騎士が数名先陣を切り、キリルさん、王太子殿下、俺、シュヴァルト様、リリー様、メイさん、後に第二王子、騎士団長子息、あの女、魔術師団長子息、教皇子息、と護衛の騎士数名と昨日とは少し隊列を変更して進む。
事前に聞かされていた通り内部に入って直ぐのエントランスホールで瘴気の気配を感じ、建物の奥に進むにつれて濃度が上がって行く。
慎重を期して俺とあの女で早々に一階の各部屋や廊下を分担して『浄化』を始めたのだが…ここでもまた、問題が発生した。
端的に言うとあの女の『浄化』が上手く出来ていない。
多少は瘴気が軽減されているのだが完全に取り切れておらず、『浄化』の色を『白』、『瘴気』の色を『黒』と例えた場合、あの女が作業を行った場所は『灰色』となる。
明確な原因は分からず、事情だけシュヴァルト様やヴィアベル王太子殿下に告げて手近な部屋から『浄化』をやり直していたのだが…。
「ちょっと!ふざけないでよ!そこは私がした場所でしょう!?なんであんたがやり直してるのよ!」
こちらの行動に気づくや否や、早歩きで近付いて来て喚かれた。
説明するのも億劫だったが、一応理由を説明したが全く納得しておらず思いっきり不機嫌な顔をされ…。
「そこまでしてあんた、自分を良く見せたいわけ?自分の方が有能ですって女の子を踏み台にしてまでする事!?」
心底引いた目で見られて、とりあえずその顔面に重い一撃を入れたいのとこいつは人の神経を逆撫でする天才かと思った。
何も意地悪や自分のポイント稼ぎで言っている訳では無いし、仮にこのクソ女の『浄化』のまま放置すれば数日で瘴気が元に戻るか、良くてもこの中途半端な状態が続くのだろう。
それではこの旅の意味が無いと、そんな当たり前に考えられる事態が想像出来ないのかと怒り掛けて…。
「…なん…だ?」
不意に怒りの感情が静まった。
何か聞こえた様な気がして周囲をきょろきょろと見回すも原因は見当たらず、止めに入ろうとして下さったのか間近に来てくれたシュヴァルト様が心配して下さる。
「大丈夫ですか、コウセイ?」
「…ええ、大丈夫です。今、何か聞こえませんでしたか?」
「いいえ、私は特に何も。」
首を傾げているといつの間にか第二王子があの女を宥めていた。
有難いし良い変化なのだが理由が分からなさ過ぎて空恐ろしい気分にしかならない。
この件はシュヴァルト様に後程相談するとして、今は耳に微かに残る音が気になった。
音はとても小さく、随分遠くから聞こえたように思う。
古城はまだ上層があるので今居る一階ではないだろうが、城内を見て回っていればもしかしたら何か分かるかもしれない。
自分の中で方針が定まったせいか落ち着き、そして次の瞬間起こった事態に反応する事が出来た。
「危ない!!!!」
突然、朽ちた窓から現れた何者か。
侵入して来た者の凶撃がヴィアベル王太子殿下に迫り、直撃する前に腰に下げていた片手剣を引き抜いて力任せに投擲していた。
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