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30.「浄化」
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【身体強化】を使っていたお陰も有り、数分足らずで瘴気の近くまで接近出来た。
粗方、追い掛けて来ていた魔物は排除しておいたので直ぐに浄化の準備にも取り掛かれる。
メレンドルフ王国で浄化行為を行っていた経験を思い出し、呼吸を整え自分の中に意識を集中させてから力を周囲にゆっくりと解放して行く。
光属性の魔力が波紋のように何度も広がり、その度に周囲の穢れが徐々に清め鎮められ、まるで水平線を眺めているような穏やかな心地になりながら漂っていた黒い霧が全て消えるのを確認すると力の放出を停止させた。
「お疲れ様です、コウセイ。体に異常はありませんか?」
「はい、お気遣い有難うございます。特に問題はありません。」
「浄化って初めて見ましたけど…とても静かで綺麗なのですね…。」
シュヴァルト様と言葉を交わしていると少し惚けた様子のリリー様が周囲を見回しながら感想を口にする。
ヴィアベル王太子殿下も思うところが有ったのか周囲を見渡してから此方に視線を向けて来た。
「そうだね…一瞬、世界から全ての音が消えてしまって不思議な感覚だったけれど…とても心地良くて、いつまでも包まれていたい気持ちになってしまう。それに、力を使う君の姿は実に美しい。」
うっとりと熱に浮かされたような表情で微笑んだ王太子殿下の思わぬ褒め言葉に動揺してしまう。
何というか容姿や雰囲気的にも様になり過ぎているのが原因かもしれないが、言われた方としては妙に居心地が悪い。
「お褒めに預かり光栄です。…その、周囲の確認を致しませんか?魔物が残っていれば倒した方が良いと思いますし、あいつ等もまだ…恐らく無事でしょうから…。」
「ふふ、分かったよ。役立たずの騎士達も回収しなくてはいけないしね…。」
不自然な話題転換だったが乗って頂いて安堵し、同時に事実ながらも仄暗い言葉に背筋が冷えた。
付近を同道しながらある程度は魔物と戦っていた騎士達だったが、キリルさんのヴィアベル王太子殿下を守る気迫や動きと比較すれば実にお粗末だった。
王宮でも違和感を覚えていたが、同行者にも敵が多いと言う事実に溜息を零しながらも騎士達と合流し静かになった森を一度引き返す。
すると、満身創痍ながらも生きていた愉快でない一行と少なくとも一度は大食い花の口の中に入ったのだろう衣類があちこち溶け、傷だらけで異臭を放つあの女が地面に座り込んで呆然としていた。
「どうやら無事のようで安心したよ。だが、そのままではこれ以上進めないね?騎士の何名かは『聖女』様達に着いて馬車まで先に戻っていなさい。」
惨状を見た王太子殿下の表情はあくまで痛ましげで声音も同情的かつ優しいものだったが感情が伴っていない気がした。
俺自身も呆れが大いにあったのでそう感じただけなのかもしれないが、騎士に付き添われて去って行く一行の姿に安堵感で一杯になる。
「これで安心して森の浄化に励める…。」
「全くですわね。居るだけでも迷惑千万なんて相変わらず物凄い方達だわ。」
「同意致します。」
呟きに反応して近くに居たリリー様とメイさんが大きく頷いてくれて地味に嬉しい。
「それよりコウセイ、今日はこれから何匹魔物を狩れるか競争致しません?」
「競争?急にどうされたのですか?」
「折角、動き易い格好をしておりますし思い切り暴れたいのと…賞品があると燃えません?」
確かに本日はリリー様とメイさんはドレスやメイド服では無く乗馬服に軽い防具と動き易そうではある。
賞品が有るというのもやる気が出るが如何せんリリー様の表情がニヤニヤと如何わしかった。
「賞品の内容をお聞きしても?場合によっては遠慮致します。」
「ええ!?男らしくないですわ!シュヴァルト様もそう思いません?負けたら恥辱を受けるのが戦士の嗜みですわよね!?」
「いえ、コウセイに何をさせるつもりですか…?場合によっては教育的指導を受けて貰います。」
「あ、いえ、勝った方が負けた方に可能な範囲でお願いを聞いて頂くだけです!きっとシュヴァルト様も何ならメイさんも楽しめる内容ですわ!」
やたらに食い下がるリリー様の様子に何歩か引いていると可笑しそうな様子のヴィアベル王太子殿下が割って入って来る。
「良いじゃないか。余り酷い内容ならば止めれば良いし、それにそもそもケンマ殿が負けなければ良い話だよね?」
「ヴィアベル王太子殿下…。」
微妙にプライドを擽ってくる物言いに驚きながらも確かに言っている事は正しく、また負ける気も勿論ない。
「シュヴァルト嬢もそれで構わないだろう?」
「…承知致しました、アイアス殿下。」
シュヴァルト様は身を案じて下さっているのか不服そうにしながらも王太子殿下の意見を汲まれてから此方に申し訳なさそうな視線を向けて下さる。
「大丈夫ですよ、シュヴァルト様。全力でリリー様の陰謀は阻止致します。」
「…そうですか。余り気負わず、何でしたらリリーにはお灸を据えますので無理をしないで下さいね。」
軽口を交えれば安心して下さったのか柔らかい表情をされたので安堵した。
まあ、言葉通り負ける気は無いのだがと決して油断している訳では無かった…しかし、蓋を開けて見ればリリー様の圧勝で終わり、弁明するならば彼女の熱い謎のやる気と卑怯とも言えるが見事な戦法勝ちで、その日恐ろしい事に『浸食の森』から魔物の気配が消え失せた。
粗方、追い掛けて来ていた魔物は排除しておいたので直ぐに浄化の準備にも取り掛かれる。
メレンドルフ王国で浄化行為を行っていた経験を思い出し、呼吸を整え自分の中に意識を集中させてから力を周囲にゆっくりと解放して行く。
光属性の魔力が波紋のように何度も広がり、その度に周囲の穢れが徐々に清め鎮められ、まるで水平線を眺めているような穏やかな心地になりながら漂っていた黒い霧が全て消えるのを確認すると力の放出を停止させた。
「お疲れ様です、コウセイ。体に異常はありませんか?」
「はい、お気遣い有難うございます。特に問題はありません。」
「浄化って初めて見ましたけど…とても静かで綺麗なのですね…。」
シュヴァルト様と言葉を交わしていると少し惚けた様子のリリー様が周囲を見回しながら感想を口にする。
ヴィアベル王太子殿下も思うところが有ったのか周囲を見渡してから此方に視線を向けて来た。
「そうだね…一瞬、世界から全ての音が消えてしまって不思議な感覚だったけれど…とても心地良くて、いつまでも包まれていたい気持ちになってしまう。それに、力を使う君の姿は実に美しい。」
うっとりと熱に浮かされたような表情で微笑んだ王太子殿下の思わぬ褒め言葉に動揺してしまう。
何というか容姿や雰囲気的にも様になり過ぎているのが原因かもしれないが、言われた方としては妙に居心地が悪い。
「お褒めに預かり光栄です。…その、周囲の確認を致しませんか?魔物が残っていれば倒した方が良いと思いますし、あいつ等もまだ…恐らく無事でしょうから…。」
「ふふ、分かったよ。役立たずの騎士達も回収しなくてはいけないしね…。」
不自然な話題転換だったが乗って頂いて安堵し、同時に事実ながらも仄暗い言葉に背筋が冷えた。
付近を同道しながらある程度は魔物と戦っていた騎士達だったが、キリルさんのヴィアベル王太子殿下を守る気迫や動きと比較すれば実にお粗末だった。
王宮でも違和感を覚えていたが、同行者にも敵が多いと言う事実に溜息を零しながらも騎士達と合流し静かになった森を一度引き返す。
すると、満身創痍ながらも生きていた愉快でない一行と少なくとも一度は大食い花の口の中に入ったのだろう衣類があちこち溶け、傷だらけで異臭を放つあの女が地面に座り込んで呆然としていた。
「どうやら無事のようで安心したよ。だが、そのままではこれ以上進めないね?騎士の何名かは『聖女』様達に着いて馬車まで先に戻っていなさい。」
惨状を見た王太子殿下の表情はあくまで痛ましげで声音も同情的かつ優しいものだったが感情が伴っていない気がした。
俺自身も呆れが大いにあったのでそう感じただけなのかもしれないが、騎士に付き添われて去って行く一行の姿に安堵感で一杯になる。
「これで安心して森の浄化に励める…。」
「全くですわね。居るだけでも迷惑千万なんて相変わらず物凄い方達だわ。」
「同意致します。」
呟きに反応して近くに居たリリー様とメイさんが大きく頷いてくれて地味に嬉しい。
「それよりコウセイ、今日はこれから何匹魔物を狩れるか競争致しません?」
「競争?急にどうされたのですか?」
「折角、動き易い格好をしておりますし思い切り暴れたいのと…賞品があると燃えません?」
確かに本日はリリー様とメイさんはドレスやメイド服では無く乗馬服に軽い防具と動き易そうではある。
賞品が有るというのもやる気が出るが如何せんリリー様の表情がニヤニヤと如何わしかった。
「賞品の内容をお聞きしても?場合によっては遠慮致します。」
「ええ!?男らしくないですわ!シュヴァルト様もそう思いません?負けたら恥辱を受けるのが戦士の嗜みですわよね!?」
「いえ、コウセイに何をさせるつもりですか…?場合によっては教育的指導を受けて貰います。」
「あ、いえ、勝った方が負けた方に可能な範囲でお願いを聞いて頂くだけです!きっとシュヴァルト様も何ならメイさんも楽しめる内容ですわ!」
やたらに食い下がるリリー様の様子に何歩か引いていると可笑しそうな様子のヴィアベル王太子殿下が割って入って来る。
「良いじゃないか。余り酷い内容ならば止めれば良いし、それにそもそもケンマ殿が負けなければ良い話だよね?」
「ヴィアベル王太子殿下…。」
微妙にプライドを擽ってくる物言いに驚きながらも確かに言っている事は正しく、また負ける気も勿論ない。
「シュヴァルト嬢もそれで構わないだろう?」
「…承知致しました、アイアス殿下。」
シュヴァルト様は身を案じて下さっているのか不服そうにしながらも王太子殿下の意見を汲まれてから此方に申し訳なさそうな視線を向けて下さる。
「大丈夫ですよ、シュヴァルト様。全力でリリー様の陰謀は阻止致します。」
「…そうですか。余り気負わず、何でしたらリリーにはお灸を据えますので無理をしないで下さいね。」
軽口を交えれば安心して下さったのか柔らかい表情をされたので安堵した。
まあ、言葉通り負ける気は無いのだがと決して油断している訳では無かった…しかし、蓋を開けて見ればリリー様の圧勝で終わり、弁明するならば彼女の熱い謎のやる気と卑怯とも言えるが見事な戦法勝ちで、その日恐ろしい事に『浸食の森』から魔物の気配が消え失せた。
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