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3章
88.「傷跡」side.フォルク。
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ダイチが上がった呼吸を何とか整えようとしている間に邪魔な仮面を外して地面へ転がせば濡れた黒い双眼が視界に映る。
先程、達したせいか頬が薄らと色付き、驚きながらも縫い止められたように俺だけを見つめてくれる姿はとても愛おしい。
叶うならば自分だけを永遠にその瞳に映して欲しいー…。
膨れ上がる気持ちのまま、まだ落ち着いていない彼の唇をそっと啄むと魂でも抜けて行きそうな表情をされてつい笑ってしまう。
可愛いらしいと、君の為なら未来永劫呪われたままでも良いと、ほんの少しの恐怖と、それを凌駕する恋慕で色鮮やかに視界が染まる。
そのまま見つめ続けていると濡れていた瞳がより一層潤んで揺れて、実に美味そうに見えた。
また、貪りたいと、君の動揺が見たいと思ったせいか気がつくと予期せぬ言葉が口から漏れていた。
「コウシテ前二モ、口付ケタ…。」
「……え!?」
開かれた目は満月のように丸く、溢れんばかりに驚かれて喉が機嫌良く鳴る。
明らかに狼狽えながらも記憶を探っているのか視線が忙しなく動き、思い出せずに何処か落ち込んだような残念にも見えるような眼差しを向けられてダイチの脚に巻き付けていた尻尾の先が緩やかに喜びで遊んだ。
「覚エテイナクテ当然ダ。寝テイル時ニ君ノ唇ヲ奪ッタカラ…。」
本当に身も心も獣だなと、答えを口にしながら土の国で眠っているダイチを襲ったことに自嘲する。あの時は純粋に褒められて、警戒心の無い君にベッドへ無邪気に誘われて…理性が緩んだ。
怯えさせないように穏やかに笑みながらもあの日を思い出すように唇を親指の腹で撫でて、また口付ける…。
素顔が見えるから困惑しているのが手に取るように分かって、喜びが一層込み上げた。そうやって、俺の事だけ考えていれば良い。
戸惑っている隙に何度も口付け、その度に幸福に包まれていたのに…先ほどの気配を思い出して、苛立ちが募る。
君は誰にでも体を許すー…。
本当は言ってはいけないのだろうとは頭で分かっていた。
唇を奪い、喉の奥まで舌で堪能して、尚も抵抗しない姿に可愛さと憎らしさが増して仕方がなかった。
唇に牙を立て再び溢れた血を啜ってから顔を上げると、何処か惚けた瞳の端に口付けて囁く。
「ダイチハ、俺ニデモ体ヲ許シテクレル…。」
酷い皮肉だとは分かる。だが、少しでも俺の言葉に傷ついて欲しかった。醜い嫉妬が君の心に届き、切り裂いてしまえば良いのにとさえ思った。
清廉潔白とは遠い、騎士としてはあるまじき、だが、人らしい自己満足。
顔を近付けたまま、わざと睨み据えるとダイチが固まったように動きを止める。
「心ハ、何処ニアルンダロウナ…?」
そう言った途端、動揺で瞳が揺れる。まるで、恋人や伴侶に不貞を見つかったような反応に見えて、そんな訳が無いかと自嘲し、代わりに強く抱き締める。
「痛ミデモ良イカラ、俺ヲ心ニ刻ンデクレ。」
その言葉を最後にダイチを何とか腕から解放し、半ば放心している内に「先ニ戻ッテイル。」とだけ告げてバルコニーから建物内へと入り、少し進んだ辺りで廊下の壁に背をつけて腕を組んでいたヴィーダーに視線を向ける。
「もう良いのか?」
「何故、邪魔シナカッタ?」
どう考えても独占欲の強いこいつが割り込んで来なかったのが不思議で尋ねると軽く肩を竦められる。
「先に手を出してるからな。」
「…ソウカ。」
言葉を交わした瞬間、互いの殺気と殺気が狭間で激突する。
場所が場所なだけに互いに武力や魔力は控えたが、この男とは一度本気で生死のやり取りをした方が良いと強く思う。
エーベルも勿論気に食わなかったが、ヴィーダーはその倍を軽く凌駕する。
「良い顔するようになったな。大人しく黙認してた時より、そっちの方が似合ってんじゃねぇか?」
「ソウダナ。自分デモ、モット早クニ本音ヲ出セバ良カッタト思ッテイル。」
挑発を肯定すると面白そうに笑われ、本能のまま唸り声を上げそうになる自分の精神を集中させて此方も笑い返す。
相手の調子に乗せられてはいけない。戦いの基本であるし、ヴィーダーは只でさえ強者だ。
理解しているからこそ冷静に対処していると元々、互いに此処で殺り合う気がなかったからか呆気なく殺気が霧散する。
「ま、これでオレも遠慮が無くなる。」
「元々、遠慮シテイルヨウニハ思エナカッタガナ。」
「まだ食ってねぇ。本気出してたら連れ込んで足腰立たなくなるまで犯してるだろうよ。」
「今直グ死ヌカ?」
「物騒だな。」
「オ前ガ言ウナ。」
言葉の応酬を続けながらも、邪魔をしなかったのはヴィーダーなりに公平性を見せたのだろう。
筋を通す姿は今の俺よりも余程騎士らしいが、負ける訳にはいかない。
「容赦ハシナイ。」
「当然だ。」
先程、達したせいか頬が薄らと色付き、驚きながらも縫い止められたように俺だけを見つめてくれる姿はとても愛おしい。
叶うならば自分だけを永遠にその瞳に映して欲しいー…。
膨れ上がる気持ちのまま、まだ落ち着いていない彼の唇をそっと啄むと魂でも抜けて行きそうな表情をされてつい笑ってしまう。
可愛いらしいと、君の為なら未来永劫呪われたままでも良いと、ほんの少しの恐怖と、それを凌駕する恋慕で色鮮やかに視界が染まる。
そのまま見つめ続けていると濡れていた瞳がより一層潤んで揺れて、実に美味そうに見えた。
また、貪りたいと、君の動揺が見たいと思ったせいか気がつくと予期せぬ言葉が口から漏れていた。
「コウシテ前二モ、口付ケタ…。」
「……え!?」
開かれた目は満月のように丸く、溢れんばかりに驚かれて喉が機嫌良く鳴る。
明らかに狼狽えながらも記憶を探っているのか視線が忙しなく動き、思い出せずに何処か落ち込んだような残念にも見えるような眼差しを向けられてダイチの脚に巻き付けていた尻尾の先が緩やかに喜びで遊んだ。
「覚エテイナクテ当然ダ。寝テイル時ニ君ノ唇ヲ奪ッタカラ…。」
本当に身も心も獣だなと、答えを口にしながら土の国で眠っているダイチを襲ったことに自嘲する。あの時は純粋に褒められて、警戒心の無い君にベッドへ無邪気に誘われて…理性が緩んだ。
怯えさせないように穏やかに笑みながらもあの日を思い出すように唇を親指の腹で撫でて、また口付ける…。
素顔が見えるから困惑しているのが手に取るように分かって、喜びが一層込み上げた。そうやって、俺の事だけ考えていれば良い。
戸惑っている隙に何度も口付け、その度に幸福に包まれていたのに…先ほどの気配を思い出して、苛立ちが募る。
君は誰にでも体を許すー…。
本当は言ってはいけないのだろうとは頭で分かっていた。
唇を奪い、喉の奥まで舌で堪能して、尚も抵抗しない姿に可愛さと憎らしさが増して仕方がなかった。
唇に牙を立て再び溢れた血を啜ってから顔を上げると、何処か惚けた瞳の端に口付けて囁く。
「ダイチハ、俺ニデモ体ヲ許シテクレル…。」
酷い皮肉だとは分かる。だが、少しでも俺の言葉に傷ついて欲しかった。醜い嫉妬が君の心に届き、切り裂いてしまえば良いのにとさえ思った。
清廉潔白とは遠い、騎士としてはあるまじき、だが、人らしい自己満足。
顔を近付けたまま、わざと睨み据えるとダイチが固まったように動きを止める。
「心ハ、何処ニアルンダロウナ…?」
そう言った途端、動揺で瞳が揺れる。まるで、恋人や伴侶に不貞を見つかったような反応に見えて、そんな訳が無いかと自嘲し、代わりに強く抱き締める。
「痛ミデモ良イカラ、俺ヲ心ニ刻ンデクレ。」
その言葉を最後にダイチを何とか腕から解放し、半ば放心している内に「先ニ戻ッテイル。」とだけ告げてバルコニーから建物内へと入り、少し進んだ辺りで廊下の壁に背をつけて腕を組んでいたヴィーダーに視線を向ける。
「もう良いのか?」
「何故、邪魔シナカッタ?」
どう考えても独占欲の強いこいつが割り込んで来なかったのが不思議で尋ねると軽く肩を竦められる。
「先に手を出してるからな。」
「…ソウカ。」
言葉を交わした瞬間、互いの殺気と殺気が狭間で激突する。
場所が場所なだけに互いに武力や魔力は控えたが、この男とは一度本気で生死のやり取りをした方が良いと強く思う。
エーベルも勿論気に食わなかったが、ヴィーダーはその倍を軽く凌駕する。
「良い顔するようになったな。大人しく黙認してた時より、そっちの方が似合ってんじゃねぇか?」
「ソウダナ。自分デモ、モット早クニ本音ヲ出セバ良カッタト思ッテイル。」
挑発を肯定すると面白そうに笑われ、本能のまま唸り声を上げそうになる自分の精神を集中させて此方も笑い返す。
相手の調子に乗せられてはいけない。戦いの基本であるし、ヴィーダーは只でさえ強者だ。
理解しているからこそ冷静に対処していると元々、互いに此処で殺り合う気がなかったからか呆気なく殺気が霧散する。
「ま、これでオレも遠慮が無くなる。」
「元々、遠慮シテイルヨウニハ思エナカッタガナ。」
「まだ食ってねぇ。本気出してたら連れ込んで足腰立たなくなるまで犯してるだろうよ。」
「今直グ死ヌカ?」
「物騒だな。」
「オ前ガ言ウナ。」
言葉の応酬を続けながらも、邪魔をしなかったのはヴィーダーなりに公平性を見せたのだろう。
筋を通す姿は今の俺よりも余程騎士らしいが、負ける訳にはいかない。
「容赦ハシナイ。」
「当然だ。」
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