呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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3章

87.「屈折」※

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 フォルクの言葉に一瞬、呼吸が止まった。
 なんでかって、遠まわしに告白されてるんかってぐらいの熱量を感じたからで…。
 しかも、話を要約すると他の人に嫉妬して怒ってるみたいやん。只、喜んだのも束の間、俺の軽率な行動がフォルクを深く傷つけてたんは全くもっていただけん。
 謝りたくて言葉を選んでる内に、更に指を深く咥えながら噛まれて身が竦んだ。
 苦しそうに眉間に寄った皺や、真剣な眼差しは普段のフォルクからも想像は出来る。けど、それが戦ってるとかやなくて俺の指や血を懸命に舐めしゃぶってる状態でとか、うん、もう、普段は見れへん色気が醸し出されてて正気をぽーんと失いそうですが何か!?!?!?

 しかも、痛いのと同時に妙なゾワゾワとした感覚を呼び覚まされてたちが悪い。
 相手が勿論フォルクやからってのは大いにあって、ほんまやったら直ぐに止めた方がええんやろうけど、さっき距離を取られそうになったのを見てて拒絶する気にならんかったのと止めて欲しくない宜しくない欲求もあってもたもたしてた。やから、気づいた時にはもう、下半身に宜しくない気配を感じまくって慌てた時には物理的にも遅かった。

「ンッ…、ダイチ…。」

「…フォルク…!」

 獲物をロックオンしたみたいに瞳孔がまた一気に細まって、吐息混じりの声で名前を呼ばれたんで息が余計に詰まる。悪い意味や無くて、宜しくない想像の方でなんは勿論で、心臓も馬鹿みたいにドクドク脈打ってて壊れそうやし、いっそ壊れた方が楽になるんやないかなって現実逃避して、してる場合やなかった。
 間違いなく肉食動物に追い詰められたような状態で、気がついたら逃がさんように尻尾が足元から大腿に絡みついてるし、いつの間にか迫ってた距離に声を上げる間も無く首に唇が触れて…遠慮無く噛みつかれる。

「あ、ぐっ…!!!」

 歯を食い縛りながら鋭い傷みに堪えてると、じゅるっと啜り音が聞こえた。しかも、啜られるだけで終わる訳も無く、気がついたらぴちゃぴちゃと傷口を舐められえっっっ!!!!

「…うわあ、あ…っ!」

 傷口どころか、ベロッて一気に舐め上げられて首から頬に!考えてる間に、頬から耳にぃぃぃ…!!!!
 意味の分からん奇声を発しながら、無理です!耳の中はほんま止めてって感じで海老反ってんのにひぃいい!て、そのまま活きの良さを発揮してたらなんかちょっと吐息混じりに笑われて…かっこええ…、じゃなくて!

「フォ…ルク、なあ、あっ…てば…っ!」

「ンッ…ダイチ…」

 俺の声に反応して動きは止めてくれたんやけど、耳元でフォルクに名前を呼ばれてあかん、なんかもう心も体も反応してあかんやつやこれ、めっちゃ好き♡ってなるだけなんよぉおおお!!!!
 俺の心の雄叫びなんて無視されたまま、そもそも気づかれる訳も無く、ちゅって軽く頬に口付けられて、唐突に下半身に優しく手が触れ…たけども!咄嗟に掴んだわ!

「駄目カ…?」

 ぶはっ!て、何とか顔を横に背けて吹き出してもうたが、鼻血を出さんかっただけマシやと思って欲しい。
 只でさえ、俺の中で紳士なイメージの強いフォルクが野性味のある瞳且つ、何処か大型犬ぽいしゅんとした雰囲気を漂わせてお強請りしてるんかって感じで、性的なお強請りを現実にしてるんです!!!!
 こっちが恥ずかしいし、いっそ俺を捕まえて下さいお巡りさん状態で戦慄く唇とか体を落ち着かせてる間に、はい、手を動かされて大げさに背筋が跳ネマシター。
「うあっ!」て、声上げながら流石に身を捩ったのに相変わらずビクともせんし、その間にも服の上から揉みしだかれる。
 そもそも、反応してた体が心境を裏切るのは簡単で、寧ろなんで好きな人に触って貰って抗ってんのか不思議に思うんやけど、ここバルコニー!と状況のせいにして口を開いた。

「あっ、やめ…ッ、ここ…外…っ」

「…ッ…ソウダナ…。」

 なんでかフォルクが息を呑んで、肯定してくれてんのに触るの止めてくれへん!
 外って以外にも、このままされてたら完全に粗相するっ!これでも年齢的には大人なんやから、ほんま止めて!

「フォル、っ…!」

 思わず大きい声を上げそうになって止めたし、ギクッって体が一瞬凍りついた。
 気のせいかも知らんけど気配がした気がして、建物の方見てから壊れた機械みたいにフォルクの方見たら優しく微笑まれる。
 なんでか無言やったけど、慌てる様子も無いし、俺の早とちりかって安心して息を吐いた、全然状況は変わってないのにな…。

「ダイチ…。」

「ん?…っ!!!」

 気を抜いたのと同時にフォルクの顔が目の前にあった。
 いやもう、綺麗な翠玉の目やなって思えたのは一瞬で、唇に柔らかい感触の後に牙が深く食い込む。
 表現としてでは無くて、貪るって言葉のまんま血と唾液ごと口内も何もかも舐め吸われて目の前が真っ白に弾ける。
 衝撃過ぎたんやと、直ぐに意識は戻ったものの状態が変わってる訳も無く、寧ろ頭抱え込まれて逃げ場なんて無い。
 窒息しそうになるのを何とか鼻呼吸で防ごうとして、全然間に合ってないんか視界が徐々に暗くなってる気がして…流石にフォルクの胸を強く叩いてた。

「っ…はっ、ッ、んっ…ぅ…ぐっ!」

 一瞬、離れた隙に目一杯空気は吸ったものの、それがなんやってぐらいに直ぐに塞がれる。
 どうしたんとか、苦しいとか、気持ち良いとか、切ないとか、ぐちゃぐちゃな気分やのに容赦が無かった。

「んンッ!ぅ、んぁ…っ、ん、ンン…!」

 何が容赦ないって、その状況のまま下半身を触られて、どう考えても追い上げるように触れられる。
 大きな手で包まれて、擦り上げられて、時折爪で引っ掻かれ、硬い鱗の部分でも刺激されてを滅茶苦茶激しいキスとされたら、経験値の低い俺なんてあっと言う間やった。

「………っっっ!!!!」

 最早、悲鳴を殺したような色気もへったくれも無い、事件ですかって声と共に目の前に盛大な星が舞った。
 思わず目一杯開いた目の前には苦しそうに眉を寄せながら、どう考えても自分より艶っぽいフォルクの苦しげな表情が見えて心臓に悪かった事だけは一生忘れん。
 どっと全力疾走した後みたいに全身が弛緩し、名残でも惜しむように口元を舐められて軽く啄まれてから見つめられる。
 何処か戸惑ったような、けれども決意の滲む瞳は不安定で、酷く綺麗やった…。
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