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3章
86.「フォルクの独白」side.フォルク。
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「ズット、思ッテイタ事ガアル…。」
「ずっと…?」
ダイチを腕に閉じ込めながら、話したくて、話したくなかった言葉が脳裏を駆け巡る。
同時に、出会ってから今までの大切な記憶が思い出されて笑みも零れた。
正と負の正反対な感情が入り乱れ、不思議な心地に随分自分が変わってしまったようにも思える。
昔の自分は、クレーメンスに忠誠を誓う以外は等しく誰をも慈しんでいた。
愛や憎として、誰か一人に強い感情を抱かないからこそ、自分は正気を保っていたように今ならば思える。
元よりそうだった気もするし、気づけばそうなっていたような奇妙な感覚と共に、平穏と平坦を漫然と生きていた。
自分の考えを一旦整理するように黙り込み、言葉を選んで、結局は一番直情的な物が口から零れていた…。
「ダイチカラ…、他者ノ匂イガスル。俺ハ、ソレガ嫌デ、仕方ナクテ、堪ラナクナル…。」
「えっ…」
狭量だと、陰湿だと、嫉妬深いと、どのような感情であれ、悪く思われて嫌われたくなかった。
ダイチは俺に良い印象を抱き過ぎているし、それ以前に自分がこんな風に変化するとも思ってもいなかった。
初めて降り積もった呪いのような暗い感情を、いっそ本人にぶつけられれば楽になれると甘い誘惑を抱いた事も確かにある、だが…。
「ソレ以上ニ、君ノ事ガ…トテモ、何ヨリモ、大切ダ。自分ガドンナニ醜イ姿ヤ心ニナッタトシテモ、ダイチガ幸セニ、苦痛ナク、平穏ニ、出来レバ幸セニ、過ゴセル方ガ俺ハ嬉シイ。」
その気持ちだけは知っていて欲しいと強く見つめ、頬を撫でると戸惑いからか僅かに彼が震えた気がする。
仮面で阻害はされているが互いに見つめ合うような時間が静かに流れ、やはり、他の者とは比べようの無い、重く、深く、しかし何処か濁った気持ちが込み上げて自然と喉が鳴ってしまう。
まだ、獣の性が強いせいだと理性で理解しながらも、今直ぐ喉元に食らいついて、皮膚の下に流れる甘い血を思う存分に吸い上げたい。
本当に美味しそうだ…と、自分で自分の瞳孔が狭まるのを感じ、渇望を振り払うように離れようとして、先に口元にダイチの指先が触れた。
「フォルク…、あの…なんて言ったらええか分からんねんけど…」
「君ハ、何モ気ニスル必要ハ無イ。勝手ニ思ッタダケナンダ。」
寧ろ、気持ちを聞いてくれて有難うと、意識して優しく伝えながらも余り他意の無いだろう指先から逃れようと身を引こうとして、その距離を詰めるようにダイチがまた唇の近くに指を添える。
「待って、行かんといて。フォルクが遠くに行ってまいそうで、嫌や。そんなん…、なるぐらいやったら…!」
思い詰めたようにダイチがぐっと俺の口の隙間から指先を中に押し込み、牙に皮膚を押し当てて来る。
予想外の行動に呆気に取られ、止める間もなくぷつりと切れた皮膚の下から魔力を帯びた甘い血の味が口内に広がり、一瞬で目の前が赤く明滅した気がした。
「ンッ…っ…」
本来ならば、今からでも直ぐに止めなくてはいけないのだが、実際は溢れて来る蜜を零さないようにと夢中で彼の指を舐めしゃぶっていた。
獣の性と抑圧していた感情が爆発したようで、気が付けば指を根元まで深く咥え込み、何度も噛み付いては血を啜る。
愛撫するならばともかく、欲望のまま、種族として、個としても、異端な行為に溺れる自分は浅ましい以外の何者でもないだろうに…そんな俺を責めるでも無く、寧ろ…。
「っ…ぅ…く…」
行為の間に向けた視線の先では口を引き結び、何かを堪えて息を詰める姿が垣間見えて思わず瞬きをしてしまう。
その上、座り心地が悪そうにとでも言うのか、膝の上で尻を動かされて、大腿も心なしかぴくぴくと小刻みに揺れる時がある。
痛くて気持ちが悪いだけだとは思うのだが…いや、もしかして…。
「感ジルノカ…?」
只々、純粋に疑問に思って口にした言葉は正解だったのだろう。
隠されていても狼狽が手に取るように分かる程に慌て、反射的に逃れようとしたダイチの体を両腕で捕らえる。
「逃ゲナイデクレ…。」
傷つけたくなくて、自分から距離を取ろうとしたくせに都合の良い事を言っているのは分かっている。けれど、痛みさえも受け入れてくれると言うのであれば…。
「俺ハ、本当ハ…ダイチヲ、他ノ誰ヨリモ、酷ク深ク、傷ツケタインダ…。」
その感情は愛と呼ぶには歪で、憎と呼ぶには熱を帯び過ぎていて、酷く内側から身を焦がしていたー…。
「ずっと…?」
ダイチを腕に閉じ込めながら、話したくて、話したくなかった言葉が脳裏を駆け巡る。
同時に、出会ってから今までの大切な記憶が思い出されて笑みも零れた。
正と負の正反対な感情が入り乱れ、不思議な心地に随分自分が変わってしまったようにも思える。
昔の自分は、クレーメンスに忠誠を誓う以外は等しく誰をも慈しんでいた。
愛や憎として、誰か一人に強い感情を抱かないからこそ、自分は正気を保っていたように今ならば思える。
元よりそうだった気もするし、気づけばそうなっていたような奇妙な感覚と共に、平穏と平坦を漫然と生きていた。
自分の考えを一旦整理するように黙り込み、言葉を選んで、結局は一番直情的な物が口から零れていた…。
「ダイチカラ…、他者ノ匂イガスル。俺ハ、ソレガ嫌デ、仕方ナクテ、堪ラナクナル…。」
「えっ…」
狭量だと、陰湿だと、嫉妬深いと、どのような感情であれ、悪く思われて嫌われたくなかった。
ダイチは俺に良い印象を抱き過ぎているし、それ以前に自分がこんな風に変化するとも思ってもいなかった。
初めて降り積もった呪いのような暗い感情を、いっそ本人にぶつけられれば楽になれると甘い誘惑を抱いた事も確かにある、だが…。
「ソレ以上ニ、君ノ事ガ…トテモ、何ヨリモ、大切ダ。自分ガドンナニ醜イ姿ヤ心ニナッタトシテモ、ダイチガ幸セニ、苦痛ナク、平穏ニ、出来レバ幸セニ、過ゴセル方ガ俺ハ嬉シイ。」
その気持ちだけは知っていて欲しいと強く見つめ、頬を撫でると戸惑いからか僅かに彼が震えた気がする。
仮面で阻害はされているが互いに見つめ合うような時間が静かに流れ、やはり、他の者とは比べようの無い、重く、深く、しかし何処か濁った気持ちが込み上げて自然と喉が鳴ってしまう。
まだ、獣の性が強いせいだと理性で理解しながらも、今直ぐ喉元に食らいついて、皮膚の下に流れる甘い血を思う存分に吸い上げたい。
本当に美味しそうだ…と、自分で自分の瞳孔が狭まるのを感じ、渇望を振り払うように離れようとして、先に口元にダイチの指先が触れた。
「フォルク…、あの…なんて言ったらええか分からんねんけど…」
「君ハ、何モ気ニスル必要ハ無イ。勝手ニ思ッタダケナンダ。」
寧ろ、気持ちを聞いてくれて有難うと、意識して優しく伝えながらも余り他意の無いだろう指先から逃れようと身を引こうとして、その距離を詰めるようにダイチがまた唇の近くに指を添える。
「待って、行かんといて。フォルクが遠くに行ってまいそうで、嫌や。そんなん…、なるぐらいやったら…!」
思い詰めたようにダイチがぐっと俺の口の隙間から指先を中に押し込み、牙に皮膚を押し当てて来る。
予想外の行動に呆気に取られ、止める間もなくぷつりと切れた皮膚の下から魔力を帯びた甘い血の味が口内に広がり、一瞬で目の前が赤く明滅した気がした。
「ンッ…っ…」
本来ならば、今からでも直ぐに止めなくてはいけないのだが、実際は溢れて来る蜜を零さないようにと夢中で彼の指を舐めしゃぶっていた。
獣の性と抑圧していた感情が爆発したようで、気が付けば指を根元まで深く咥え込み、何度も噛み付いては血を啜る。
愛撫するならばともかく、欲望のまま、種族として、個としても、異端な行為に溺れる自分は浅ましい以外の何者でもないだろうに…そんな俺を責めるでも無く、寧ろ…。
「っ…ぅ…く…」
行為の間に向けた視線の先では口を引き結び、何かを堪えて息を詰める姿が垣間見えて思わず瞬きをしてしまう。
その上、座り心地が悪そうにとでも言うのか、膝の上で尻を動かされて、大腿も心なしかぴくぴくと小刻みに揺れる時がある。
痛くて気持ちが悪いだけだとは思うのだが…いや、もしかして…。
「感ジルノカ…?」
只々、純粋に疑問に思って口にした言葉は正解だったのだろう。
隠されていても狼狽が手に取るように分かる程に慌て、反射的に逃れようとしたダイチの体を両腕で捕らえる。
「逃ゲナイデクレ…。」
傷つけたくなくて、自分から距離を取ろうとしたくせに都合の良い事を言っているのは分かっている。けれど、痛みさえも受け入れてくれると言うのであれば…。
「俺ハ、本当ハ…ダイチヲ、他ノ誰ヨリモ、酷ク深ク、傷ツケタインダ…。」
その感情は愛と呼ぶには歪で、憎と呼ぶには熱を帯び過ぎていて、酷く内側から身を焦がしていたー…。
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