呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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3章

67.「孤児院」

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 ルツには孤児院の庭で一旦待機して貰い、院内に入るともう一人若い女性がおった。
 玄関で迎えてくれた人はゲルダさんで、中に居たのがハイディさんて言って孤児院育ちでそのまま此処の職員になった人らしい。
 基本的に子供達の世話は二人で行ってて、国や協会からの支援、住民の募金や手助けで今までは食べ物に困るって事も無かったんやけど、厄災が降り掛かってからは何処も手一杯で支援が追い付いてないとの事やった。
 ちょうど夕食時やったんやけどコップ一杯の具の少ないスープ…、これでもマシな方らしいんやが育ち盛りの子供達には足りんように思う。
 でも、特に誰も何も言わずに大事そうに食事してる姿がまた胸に響いて、しんみりしてもうた。

「ほら、ダイチさん。落ち込まないで?私が腕を振るうから皆でご飯を食べて元気出しましょう。」

「はい、ありがとうございます。俺も何か手伝いますね。」

「お手伝いは嬉しいのだけれど、その子がどうかしら?」

「ん?」

 指摘されて両腕に抱えてる迷子を見て、その子も俺を見て、暫く見つめ合ってからにぱっと笑い掛ける。

「お兄ちゃんちょっと手伝いするから、一緒にお手伝いして貰われへんかな?」

「……………ん…。」

 タイムロスがあったものの意味は伝わったんか、コクりと頷いてくれたんで床に子供を下ろした。
 ローブの裾を掴んで一緒に歩いて付いて来てくれるようやったんで台所の場所聞いて進んだんやけど、ちっちゃい子が裾掴んでちまちま後付いて来るのって異常にかわええ。
 デレデレっとしつつ、調理担当のリスムスさん、ハイディさん、俺と迷子の子鴨は台所へ。

 子供達の相手をゲルダさんは勿論、フォルクとヴィーダーさんにお願いして準備に取り掛かった。
 日本で簡単な料理は作ってたんで、野菜切るぐらいは問題なく手伝える。
 リスムスさんとハイディさんに本格的な調理と味付けを任せ、子供は台座に乗せて野菜洗うのを手伝って貰った。
 今夜だけいきなり大量に食事ってのは体的にも精神的にも宜しく無いんで、適度な量の炒飯とワンタンスープっぽい料理を子供達の分と大人六人分、フォルクのはスープメインで作って食堂に並べ、遊戯室に皆を呼びに顔出したら面白い光景が見れた。

 まず、ヴィーダーさん。
 圧倒的男子人気で、四、五歳ぐらいの男の子を肩車しつつ、同時に左右の腕にぶら下がってるやんちゃボーイ達を物ともせずに時折飛び掛かって来る戦隊系男子達を脚でいなしたり避けたりして弄ぶという遊具と化してて子供達めっちゃはしゃいでる。

 んで、お次はフォルク先生。
 座って本を読んであげてるんやけど膝の間に五、六歳の女の子、肩から覗き込むように同年代らしき男の子、左右の脇に引っ付くように七、八歳の女の子と男の子、周囲に九~十二、三歳の男女と保育園の先生みたいになってて、更に!フォルクの尻尾が伸びてるんで何かなって思ったら、器用に二~五歳ぐらいの幼児三人を転がしたり擽ったりして遊んでる!
 可愛い!可愛い過ぎやでフォルクー!スマホかカメラが何でないねん!?くそー!て、心のシャッターをバシャバシャ切りながら暫く和み光景に癒されてたら気付かれた。

「ダイチ。呼ビニ来テクレタノカ?」

「うん、ご飯出来たで!皆も良かったら食堂来てな~。」

「ソウカ、アリガトウ。本ハマタ後ニシテ皆、食事二シヨウ。」

「はーい!」

「うん!また続き読んでね、お兄ちゃん!」

「分かった!これが終わったら次は騎士とお姫様の話も読んでね!」

「アア、構ワナイ。」

「やったー!」

 あああ、なんかもうべらぼうに可愛い!このやり取り神様録画しといてくれへんかな!?
 悶えてたらなんか裾つんつんされたんで下見たら、迷子の子がじっと見上げて来てた。
 なんやろう?この曇りなき眼。何をお求めですか?とか、考えながらも抱き上げる。

「よっと…、焼き餅かいな?なんて。そう言えば名前なんて言うん?」

「……ク…ライ…」

「クライ?」

「……ん…」

「因みに男の子?」

「…ん?……ん…。」

 名前はクライで男の子と。
 まだ、お喋りはあんまりできんぽいけど最低限の意思疏通は出来そうなんで良かった。
 安心しながら跳ね跳ねな髪を手櫛で直せるだけ直してたらより可愛くなった、お巡りさーん。

「おい。遊んでねぇで、飯食いに行くんだろ?」

 お巡りさんじゃなくて、ヴィーダーさんが子供達を下げたまま側まで来てた。

「人の事は言えんと思いますが、行きましょうか。…ヴィーダーさんて子供苦手やないんですね?」

 勝手なイメージってか、クライと出会った時の反応もあって首傾げたら一瞬考え込むような顔してから頷かれて…。

「…嫌いじゃないと思う…。」

 なんか仏頂面で素直に認めるって言うギャップ技に物凄く微笑ましい気分にさせられた。そういうの良いと思います。
 一幕有りながら皆で食堂に戻り、皆決まった席に着くと明らかに子供達の表情が綻んだ。

「皆さん、此方のダイチさん、リスムスさん、フォルクさん、ヴィーダーさんが食材を寄付して下さいました。良く味わって食して下さいね。」

「はい!ありがとうございます!」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

「強いおにーちゃんもありがとう!」

「綺麗なおねーちゃんもありがとうございます!」

 口々にお礼を言ってくれる子供達にまた和みつつ、隣にいた綺麗で若干オネエちゃんのリスムスさんは『良い子達ね。』って、満足そうに微笑んでましたと報告しとこう。
 俺らも食事を一緒にって話になってたんで、空いてる席に並んで食べる事になった。
 クライはやっぱり離れたがらんかったんで、膝の上に乗せて食べさせてみたら雛鳥の様にパクパク嬉しそうに食べてくれる。
 なんか、めっちゃ懐いてくれるんで保護者の方見つけた時に返せるか不安になってくるレベルや。
 若干、息子を婿に出す謎の気分を想像しながら、クライが食べ切らんかった分を頂いたらめっちゃ美味しかった。
 リスムスさんの料理は相変わらずやな~と胃袋を掴まれながら、孤児院の皆も美味しいご飯でお腹が膨れて満足してくれたみたいで良かった。

 食事の後は年長組も手伝ってくれて片付けを済ませ、子供達をフォルクとヴィーダーさん、ハイディさんに任せ、ゲルダさん、リスムスさん、俺とクライで食堂に残ってギードさんとツァールトさんから貰ってた食料とこっそり神様がアイテムボックスに入れてくれてる食料もアイテム袋から取り出すフリして渡しといた。

「本当にありがとうございます。これで暫く持ちますわ。」

「あ、待って下さい。後、一応お金と…少し庭でしたい事があるんですけど良いですか?」

「構いませんが、お金まで…宜しいのですか?」

「ええ、時間停止出来る訳やないんで食料には限界がありますし、お金でまた食料が買えそうなら買って下さい。で、それを口止め料とでもして庭まで付いて来て貰えます?」

「口止め料?構いませんが、一体…何を?」

「出来るか分かりませんが、少し食料対策して行こうかと思いまして。」

 少し戸惑ってるゲルダさんににんまり笑い掛けると可笑しそうに笑い返してくれる。

「ダイチさん方が来て下さって久しぶりに気が抜けました。先も見えませんし、子供達を抱えてこの先どうしようかと考えてばかりで…。」

 話しながら涙声になってもうてたけど表情は明るかった。
 このまま此処に留まって…とかは出来んので、おる間に出来る限りの事はして行こうとゲルダさんが落ち着くのを見計らってからクライとリスムスさんも一緒に孤児院の庭に出た。
 薄暗い中を歩いてたら途中からルツが此方に気付いて一緒に後を着いて来たんで和みつつ、孤児院の裏手にちょうど良い場所を見つけたんで立ち止まる。

「この辺で良いですかね。」

「ダイチさん、何をなさるの?」

「試したい事が合ったんですが、少し皆下がっといて下さいね。」

 注意を促しながら意識を集中してイメージを広げ、まずは【土魔法】で地面を耕す。
 土の国での穴掘りに比べたら小規模の地面を操作するのは簡単で、直ぐに畑として使えそうな塩梅あんばいに仕上がった。

「こんなもんかな?流石に農業の専門知識はないんですけど…カチカチのまま使うよりはマシやとは思います。」

 最初に見た時より遥かに土が解れてるし、更に【水魔法】を使って乾燥したお肌に潤いを…じゃなくて、地面を湿らせると最低限の体裁は整ったように思う。
 アイテム袋から頂いたじゃがいもの様な『ポトト』って食材を取り出し、一つ手に持つと物は試しと【緑魔法】を使い、【鑑定】を掛けて確認したら『種芋』にジョブチェンジ出来てた。
 まさかのポトトでチートです。ありがとうございます。
 ご機嫌で二十個程、食用から種芋に変えたポトトをリスムスさんとゲルダさん、クライも隣で手伝ってくれて土に植える。
【緑魔法】を使って更に発芽させると意図が分かったらしくゲルダさんが驚きつつも喜んでくれた。

「自分で育てれば良いと言う事ですね!お恥ずかしいばかりですが、支援に頼り切りで考えが及びませんでした…。」

「いえ、経験が無かったら中々手も出し難いですし、俺も力が無かったら提案してないと思うんで。」

「お気遣いありがとうございます。でも…私に欠けていた物を教えて頂いた気分です。」

 地面から出てる緑色の若葉を暫く真剣に見つめたゲルダさんが頷いて笑いかけてくれる。
 その笑顔に不安の色は無くて、なんていうか見惚れるような輝きがあった。

「…あれ?」

「どうしました?」

「ああ、いや…なんか懐かしい気持ちになってもうて…なんでもないです。それより、どんどん埋めましょうか。」

 不意に過ぎった心地良い既視感に戸惑いながらも、それがなんやったんか思い出せずに首を軽く振る。
 今はできる限り野菜を植えとこうと自重せずに家庭菜園と言うには少々規模の大きい畑を作って、ルツにご飯もあげてたらすっかり夜が更けてもうてた。
 ゲルダさんの気遣いと子供達の猛烈なプッシュで今夜は孤児院に泊めて貰う事になり、空いてる部屋の簡易なベッドでクライと一緒の毛布に丸まったんやけど…。
 頃合いを見計らい、なんやかんや話せんかったフォルクに小声で声を掛けた。

「遅くにごめん、フォルク。少し聞きたい事があるんやけど…。」

 隣のベッドのフォルクが直ぐに目を開けて反応してくれ、起き上がると手招きしてくる。
 此処で話し込むと誰か起こしてまうかもしれんしなと意図を察してベッドから静かに抜け出し、ぐっすり眠ってるクライに一応、畳んどいたローブを毛布の上から更に被せると二人で部屋から抜け出す。
 作ったばかりの畑が広がる孤児院の裏手まで来るとフォルクが声を潜めて話し出した。

「話シトハ、クライノ事カ?」

「うん、まあ、まずはそれって感じやね。なんかあったん?」

 対面に陣取り、同じように声を潜めて首を傾げると険しい表情が伺える。

「何ガドウト、説明ハ難シイノダガ…ソウダナ、彼ニ出会ッタ時、妙ナ感ジガシタ。」

「妙?」

「言イ方ハ悪イガ、例エルナラバ空間ガ歪ンデイルヨウナ、ソンナ薄気味ノ悪サダ…。」

「え?それって、歪みと関係してるとか…?」

「分カラナイガ、注意シテ置イタ方ガ…イヤ、俺ガ注意シテイルカラ、ダイチハ普通ニシテイテクレ。敵意ハ感ジナイシ、急ニ態度ヲ変エルノモ不自然ダカラナ。」

「なるほど。色々と気遣ってくれてありがとう。後先考えず手を出してもうてたから…。」

「ソレハ、ダイチノ良イ所ダ。気ニスルナ。」

 反省しようとしたんやが、フォルクは穏やかな笑顔で首を振り、そして不意に片腕を取られ軽く引き寄せられる。

「俺モソレニ助ケラレタ。」

 気づいたら柔らかく抱き締められてたんやど、急にどったの!?

「子供ハ良イナ。ダイチニズット…触レテイラレル。」

「フォルク…。」

 少し寂しそうに呟かれて胸が痛むんですが。
 俺もゆっくりフォルクと話したかってんけど、思えば仲間が増えてから二人だけの時間とかも減って何となく距離が出来てしまってるなと。
 いや、仲間はほんまに有難いんやけど、それとは別に相棒はフォルクで間違いないし、同じ気持ちやったらやっぱり嬉しいし…切ない。
 大きいワンコ時代を思い出しながら手を伸ばして頭を撫でると心地良さそうに目を細めてくれた。

「…ナンダカ、懐カシイナ。以前ハダイチガ沢山触レテクレテイタ。今ハ…ソレガ少ナクテ寂シク思ッテイル。」

「いや、そりゃ、フォルク大分人に姿が戻ったし…自覚無いんかもやけど、めっちゃ格好ええで?そんな人においそれとナデナデモフモフするんは謎の勇気が必要やって。」

「………………。」

 でも、寂しがらせてるんやったら頑張ってスキンシップ戻した方がええんかなって真剣に悩んでたら、無言でぎゅーっと強く抱き締められる。

「ダカラ、君ハ不用意ダト…ッ…」

「おわっ!?」

 しかも、首元に顔を埋められて首筋に軽く噛みつかれた。
 なんか、デジャ・ビュなんですがー!て、慌ててる間にも犬歯で皮膚を何度も甘噛みされたら擽ったいのとゾワゾワした感覚で腰が引ける。

「フォル…っ!?」

 優しいフォルクの事やからそれで終わると無意識に思って、違った現実に驚いた。
 鋭い痛みが首に走ったと思ったらちゅっと何かを吸い上げる音。
 恐らく牙で裂いた傷口から血を…吸ってます?吸ってるよね?これ、確実に吸われてるよな…? 
 若干、混乱しながらもフォルクが口を離すと傷口が塞がり出したんか痛みは引いて行き、更に労る様に舐め……。

「舐めんで大丈夫やて!」

「ン…ッ、ダガ、血ガ服二ツイテシマウ…。」

 やっぱり吸われてたー!

「ソレニ、ダイチノ血ダ、一滴デモ惜シイ…。」

 あー!
 フォルクさんは俺をどうしたいんですかね!?
 なんか、突然のグロかホラー展開かと思いきや只々恥ずかしいだけ!
 丁寧に舐められてる間、顔にぶわーと熱が上がってまうし、寝る時に仮面外してたから明後日の方向見ながら素数を数えるしか出来んかった。

「てか、食べへんのちゃうかったん?」

「ソウダナ…アノ時ハ、呪イノ力モ強ク、本当ニ骨モ残サズ食ベテシマイソウダッタ…デモ、今ハ加減ガ出来ル。ソレガトテモ嬉シイ…ダイチハ嫌ダッタカ?」

「嫌?嫌とかではないよ…出来る事はしたいし、びっくりした…だけ。」

「………ナンダカ、ヴィーダーガ心配スル気持チモ分カルナ…俺ハ少シ違ッテシマッタガ…。」

「うっ…、なんかフォルクにも呆れられてる?」

「呆レテイルンジャナイ、心配トモ言エナイ、モット…」

「もっと?」

 視線をフォルクの方に戻すと緑色の綺麗な瞳とぶつかり、その真剣さと、純粋さと、そして…。
 先を考えようとして、出来んかった。
 何故なら不意にドオオオオオオオン!!!!て、物凄い音と地鳴りが街中に響き渡ってすっ転びそうになったから…!
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