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3章
64.「夜の治療院」
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既に夕方やったんで街にある治療院は面会時間を過ぎてたんやが、ギードさんの計らいで院中にすんなり通して貰えた。
治療院は既に患者さんで溢れてて、入り切らん人らは自宅治療か空家とかを利用して可能な限りの手当てを施して安静にさせてるらしい。
ヴィレさんと似た症状の人らが殆どやってんけど、海の魔獣と戦って深手を負った人らも収容されてる事を説明され、それやったらとある程度の説明と口止めをお願いして片っ端から治療に取り掛かった。
治療院は二棟三階建てになってて上層から種族問わずにっても人族とリザードマンの重症者の人を収容してるとの事やったんで上の階から順当に下の階へ治療しながら下って行く。
その間に低体温症の状態異常に掛かった人らの共通点が無いかどうか治療しながら聞いて回って見たら、口を揃えて言うのは『あの雨に濡れた』やった。
更に雨に濡れた全員が全員て訳では無いらしく、子供や女性、老人、成人の男性でも体力が低い人達がゆっくりと一人、また一人と調子が悪くなって広がり、重症化して行ったそうや。
勿論、死者も出てるんやがこれもまた困った事態が起きてるらしい。
『青の国』では亡くなった人達を海に返すのが定められた弔い方なんやけど、海が危険過ぎて死者を沖合に運ばれへん。
浅瀬で弔った場合は魔獣を呼び寄せる事になってしまう上に下手したらそのまま遺体が食べられてしまう。
今は氷の魔法を使える人らが協力して一時的に遺体を倉庫に保管してるらしいんやが、アンデッドになってしまった者もおると…。
二重に苦しめる形になって多くの人が心を痛めてるらしく、話を聞いてるだけでも正直辛かった。
何か対処法はないんかと頭を捻ったが小手先だけでは根本的な解決にならんかと一旦考えるのを止めにして、相談案件やなと脳内メモしといた。
一先ず被害を少しでも減らす為に治療を優先させ、数時間で治療院におる人らの治療を終えると夜も深まってたんやが、自宅療養してる人らや空家の患者さんらが残っとる。
空家の方は治療院と軍が管轄してて入り易いんで先に回らせて貰い、自宅治療してる人らの方はギードさんの部下の一部が先触れに行ってくれた。
空家に向かう道中でリスムスさんとギードさん、治療院から着いて来てくれた院長のリザードマンでツァールトさんに魔力切れを心配されたものの魔力が異常に多いと説明したら戸惑いながらも一応その場は納得してくれた。
三人にはある程度治療に関係する能力については説明しといたものの、他にも非常識を見つけて実利と常識の間でこんがらがってんかなーとか考えてたら、若干そっち系の香りがする院長先生から手をぎゅっと握られて、辛くなったら私が何とかするから我慢せずに言うのだよって優しく諭された。
冗談ぽい気遣いは有り難くて和みつつ、一軒目の空家に到着すると気分的には楽に治療に取り掛かれたと思う。
空家には重症の人らが治療院より少なかったけど、街内の二十軒程の家に患者さんらがいっぱいいっぱい寝かされてたんで移動時間も含めてそれなりに時間を使った。
その間に自宅治療の患者さんがおる家の人に伝達が広がり、待ち切れん人らは患者さんを背におぶったり板に乗せ、兵士の先導を受けて空家まで来てくれたんで有難いやら切ないやらで急いでそっちの治療にも当たった。
治療院の時から既に数え切れん程のお礼を言われながら自宅治療中の患者さん全員の治療も終える頃にはとっくに朝で、精神的にくたくたやったけど何とも心地良い疲労感でリスムスさんの宿屋に戻れた。
「いや~、お疲れ様です。フォルクもヴィーダーさんもリスムスさんもギードさんも付き合ってもろて、ほんまにありがとうございます。」
「いえ、礼を言うのはこちらです。本当に有難うございました。後程、謝礼等もお持ちして改めてお礼に参りますが、どうぞ一度先に休んで下さい。」
「それは助かります。流石に疲れたんで、少しだけのんびりさせて貰います。」
ギードさんの気遣いを受け、更にリスムスさんが軽食とお茶を準備して持って来てくれたんで偉い助かった。
食事休憩してから三時間程の仮眠を挟んだんで時刻は昼頃、雨雲のせいで太陽の位置が確認できんけどリスムスさんが大体の時間が分かる時計を持ってたんで教えて貰い昼食もご馳走になった。
なんか白米を然りげ無く出されて、ほんまうるっとくるってかどんだけ旧友に飢えとんねんしながらも有り難く頂き終わった頃にギードさんとツァールトさんが改めて訪ねて来た。
謝礼金を持って来てくれたんやが大袋に目一杯金貨と銀貨が入ってて若干、たじろいでたら患者さんやご家族からの分も入ってるって説明を受けた。
更に金銭が今の非常事態で何処まで役立つか分からんのでアイテム袋で運べる範囲の衣類や布に食べ物、特に白米を二十キロ程添えてくれててめっちゃ嬉しかった。
「ありがとうございます!正直、お金も多いですし、食料も受け取ってええんかなって気持ちもあるんですがめちゃくちゃ嬉しいです。」
「いえ、これでも少ないぐらいですので一先ずと言った所ですし、治療して頂いた者達の気持ちも含まれておりますので是非、お受け取り下さい。」
「そうだね。素直に受け取って貰えた方が私共も嬉しく思う。それに今後何かの役に立つかもしれない、君達の行いを見ているとそれで救われる者も出てくるのではと思えてしまう。」
普通とは違う立場上、治療して金銭や物品を貰うって事に正直戸惑いはあったんやがギードさんとツァールトさんの言葉を聞いて納得する所が有り、更にこのお金や物資で困ってる人らの手助けを何か出来たらなと新しい選択も増えたと思う。
直ぐにって訳ではないんで有り難くアイテム袋に頂いた物を収納し、礼を何度も口にするツァールトさんにこちらも日本人精神でぺこぺこ頭を下げながら見送り、残った面子で今後の話しをする事になった。
「ダイチさんのお陰でこの街を出るのに憂いは無くなったわ。問題が無ければ明日にでも王都に向けて出発したいのだけれど…生憎と状況的に船や【風魔法】を私は使えないの。申し訳ないのですけど、移動はそちらにお任せしても宜しいかしら?」
「あ、はい。それやったら俺が【風魔法】使えますし、それか…フォルクかヴィーダーさんリスムスさんを運んで貰うのって出来る?」
「ああ、ルツに同乗すれば問題は無い。フォルクは可能な限り単身でいてくれ、その方が敵に対応し易い。」
「分カッタ。問題ガ無イ限リハ、ヴィーダー。問題ガ有レバ俺ガ受ケ持ツ。ダイチハ飛ビ始メタバカリダ、無理ヲスルナ。」
「そう言って貰えて正直助かるわ。流石に二人で飛ぶのってまだ不安があるし…。」
最初に提案しといて何やったけど、下手こいて海に墜落とか笑い話にもならん。
頼りになる仲間達に感謝しつつ、移動方法は決定したんでリスムスさんが大まかな旅程を提案してくれた。
「他に意見が有れば受け付けるのだけれど、一先ず経路沿い且つ無事な『フェルス』『ネッツ』『ヴォーゲ』『コラレ』辺りを経由して行こうと思うの。特に『ヴォーゲ』は王都に次ぐ大きな街があるから…出来れば可能な範囲で治療もお願いしたいわ。」
大きな街って事は人口が多いんやろう。少し言い難そうやったリスムスさんに頷くと強ばってた表情が和らいだ。
「ダイチさんが優しいからますます惚れちゃうわね。」
「待テ。」
「調子に乗るな。」
頬に手を添えながらうっとりと呟いたリスムスさんに対してフォルクとヴィーダーさんのつっこみがほぼ重なった。
中々、ええ感じのトリオやなと面白いんで微笑ましく眺めながら出発前にやらなあかん事を頭の中で整理して…過ぎった神様の顔に軽く溜息が出てまう。
いや、相談事もあるしこんな態度で挑むのはあかんと思う気持ちが数ミリはあるよ?
でもさ、毎回精神をゴリゴリゴリゴリすり鉢の中のごまみたいに削って行く神様の方にも問題があると思うねん。
すりごまは体に良いそうやけども!それはそれ、これはこれや!
脳内ディスりとごまを挟みつつも表面上は落ち着いて大体の予定を決めた後、リスムスさんは準備とヴィレさんの様子を見に退室し、ギードさんも警備の仕事に戻らなあかんので出て行ってから意を決して神様に【神話】で連絡を取る事にして…ふと思い留まった。
「そう言えばヴィーダーさん。神様って信じてます?」
「…突然どうした?まぁ、祈った事は無いが一応存在するだろうとは思ってるが、頭でも打ったのか?」
「中々に失礼ですね。いや、実は話して無い事があるんですけど今後も一緒なら説明しとこうかなって…フォルク、話しといてええかな?」
「アア、少ナクトモ信用ハ出来ル。信ジルカハ、ヴィーダー次第ダガ、話ス分ニハ構ワナイト思ウ。」
「有難う。ちょっと長くなるんですけど時間が取れる内に説明はしときたいんで聞いて貰えます?」
「分かった、そこまで言うなら寧ろ聞かせてくれ。」
相棒のフォルクと御意見番のヴィーダーさんの了承も貰えたんで着席したまま今までの経緯を余分な所は省きながら神様含め偽りなく纏めて話し、結果的に嘘をついてた部分は謝罪して説明すると難しい顔をしながらも頷いてくれた。
「少なくともその話でダイチの非常識さは理解出来た。だが…厄介な話でもあるな。」
「確かに厄介っちゃ厄介なんですけど…断るのも土台無理なんで。」
「それも含めて厄介なんだ。要約するとダイチは新しい命とある程度の安全の代償として神直々に世界の調整を手伝わされている。オレやフォルクも含めこれで助かる者は確かに多くいる、多くはいるが…。」
言葉を途中で切ったヴィーダーさんにじっと見つめられ、先の言葉を待ってると重い溜息の後にめっちゃ頭痛いんですけどって表情されてから何故か視線がフォルクの方へ向かって睨み合いになる。
なんで二人がそんな状況になるねんと焦ってる内に厳つい視線で会話しつつ席を両者が立ったんで余計に慌てて俺も立ち上がる。
「待って下さい!何するつもりですか!?」
「話し合いだな。」
「少シ外ヘ出テ来ルガ、心配スルナ。」
「心配するわ!!!!全然、大丈夫じゃない空気!明らかに体育館裏にお呼び出しの展開やろこれ!?仲間内で争うのは無しです!落ち着いて、何か分からんけど争って解決するもんでもないやろ!?な!」
必死にストップ喧嘩をしたんで近距離でガルル、グルルとまるで猛獣が臨戦態勢でメンチ切り合う強烈な絵面だけ見て終わる事が出来た。
でも、なんで俺、異世界に来て喧嘩の仲裁してるんやろうな?しかも、絶対自分より強い二人の…て、思ったら世渡り上手やった兄ちゃんの眩しい笑顔が浮かんで『お前、巻き込まれ体質やねんから気をつけろよ。なんかあったら兄ちゃんに言うんやで!』って、若干ブラコン気味で優しい兄ちゃんの言葉を思い出して、何故かぞっとした。
自分も二人もある程度落ち着いてから事情説明を求めたものの何も教えてくれず、正直困ったけど喧嘩にはならんかったんで良しとして、更にこれでヴィーダーさんの前でも【神話】が遠慮無く使える事に今は満足した。
話ししてる間、二人には寛いでて貰おうと思って席を立とうとしたら止められ、目の前で話するようにヴィーダーさんに指示された上に、なんかあったら直ぐに相談しろとまで言われて意外に心配性なんやなと思いながら固有スキルを使って毎度お馴染み神様に連絡を入れた。
治療院は既に患者さんで溢れてて、入り切らん人らは自宅治療か空家とかを利用して可能な限りの手当てを施して安静にさせてるらしい。
ヴィレさんと似た症状の人らが殆どやってんけど、海の魔獣と戦って深手を負った人らも収容されてる事を説明され、それやったらとある程度の説明と口止めをお願いして片っ端から治療に取り掛かった。
治療院は二棟三階建てになってて上層から種族問わずにっても人族とリザードマンの重症者の人を収容してるとの事やったんで上の階から順当に下の階へ治療しながら下って行く。
その間に低体温症の状態異常に掛かった人らの共通点が無いかどうか治療しながら聞いて回って見たら、口を揃えて言うのは『あの雨に濡れた』やった。
更に雨に濡れた全員が全員て訳では無いらしく、子供や女性、老人、成人の男性でも体力が低い人達がゆっくりと一人、また一人と調子が悪くなって広がり、重症化して行ったそうや。
勿論、死者も出てるんやがこれもまた困った事態が起きてるらしい。
『青の国』では亡くなった人達を海に返すのが定められた弔い方なんやけど、海が危険過ぎて死者を沖合に運ばれへん。
浅瀬で弔った場合は魔獣を呼び寄せる事になってしまう上に下手したらそのまま遺体が食べられてしまう。
今は氷の魔法を使える人らが協力して一時的に遺体を倉庫に保管してるらしいんやが、アンデッドになってしまった者もおると…。
二重に苦しめる形になって多くの人が心を痛めてるらしく、話を聞いてるだけでも正直辛かった。
何か対処法はないんかと頭を捻ったが小手先だけでは根本的な解決にならんかと一旦考えるのを止めにして、相談案件やなと脳内メモしといた。
一先ず被害を少しでも減らす為に治療を優先させ、数時間で治療院におる人らの治療を終えると夜も深まってたんやが、自宅療養してる人らや空家の患者さんらが残っとる。
空家の方は治療院と軍が管轄してて入り易いんで先に回らせて貰い、自宅治療してる人らの方はギードさんの部下の一部が先触れに行ってくれた。
空家に向かう道中でリスムスさんとギードさん、治療院から着いて来てくれた院長のリザードマンでツァールトさんに魔力切れを心配されたものの魔力が異常に多いと説明したら戸惑いながらも一応その場は納得してくれた。
三人にはある程度治療に関係する能力については説明しといたものの、他にも非常識を見つけて実利と常識の間でこんがらがってんかなーとか考えてたら、若干そっち系の香りがする院長先生から手をぎゅっと握られて、辛くなったら私が何とかするから我慢せずに言うのだよって優しく諭された。
冗談ぽい気遣いは有り難くて和みつつ、一軒目の空家に到着すると気分的には楽に治療に取り掛かれたと思う。
空家には重症の人らが治療院より少なかったけど、街内の二十軒程の家に患者さんらがいっぱいいっぱい寝かされてたんで移動時間も含めてそれなりに時間を使った。
その間に自宅治療の患者さんがおる家の人に伝達が広がり、待ち切れん人らは患者さんを背におぶったり板に乗せ、兵士の先導を受けて空家まで来てくれたんで有難いやら切ないやらで急いでそっちの治療にも当たった。
治療院の時から既に数え切れん程のお礼を言われながら自宅治療中の患者さん全員の治療も終える頃にはとっくに朝で、精神的にくたくたやったけど何とも心地良い疲労感でリスムスさんの宿屋に戻れた。
「いや~、お疲れ様です。フォルクもヴィーダーさんもリスムスさんもギードさんも付き合ってもろて、ほんまにありがとうございます。」
「いえ、礼を言うのはこちらです。本当に有難うございました。後程、謝礼等もお持ちして改めてお礼に参りますが、どうぞ一度先に休んで下さい。」
「それは助かります。流石に疲れたんで、少しだけのんびりさせて貰います。」
ギードさんの気遣いを受け、更にリスムスさんが軽食とお茶を準備して持って来てくれたんで偉い助かった。
食事休憩してから三時間程の仮眠を挟んだんで時刻は昼頃、雨雲のせいで太陽の位置が確認できんけどリスムスさんが大体の時間が分かる時計を持ってたんで教えて貰い昼食もご馳走になった。
なんか白米を然りげ無く出されて、ほんまうるっとくるってかどんだけ旧友に飢えとんねんしながらも有り難く頂き終わった頃にギードさんとツァールトさんが改めて訪ねて来た。
謝礼金を持って来てくれたんやが大袋に目一杯金貨と銀貨が入ってて若干、たじろいでたら患者さんやご家族からの分も入ってるって説明を受けた。
更に金銭が今の非常事態で何処まで役立つか分からんのでアイテム袋で運べる範囲の衣類や布に食べ物、特に白米を二十キロ程添えてくれててめっちゃ嬉しかった。
「ありがとうございます!正直、お金も多いですし、食料も受け取ってええんかなって気持ちもあるんですがめちゃくちゃ嬉しいです。」
「いえ、これでも少ないぐらいですので一先ずと言った所ですし、治療して頂いた者達の気持ちも含まれておりますので是非、お受け取り下さい。」
「そうだね。素直に受け取って貰えた方が私共も嬉しく思う。それに今後何かの役に立つかもしれない、君達の行いを見ているとそれで救われる者も出てくるのではと思えてしまう。」
普通とは違う立場上、治療して金銭や物品を貰うって事に正直戸惑いはあったんやがギードさんとツァールトさんの言葉を聞いて納得する所が有り、更にこのお金や物資で困ってる人らの手助けを何か出来たらなと新しい選択も増えたと思う。
直ぐにって訳ではないんで有り難くアイテム袋に頂いた物を収納し、礼を何度も口にするツァールトさんにこちらも日本人精神でぺこぺこ頭を下げながら見送り、残った面子で今後の話しをする事になった。
「ダイチさんのお陰でこの街を出るのに憂いは無くなったわ。問題が無ければ明日にでも王都に向けて出発したいのだけれど…生憎と状況的に船や【風魔法】を私は使えないの。申し訳ないのですけど、移動はそちらにお任せしても宜しいかしら?」
「あ、はい。それやったら俺が【風魔法】使えますし、それか…フォルクかヴィーダーさんリスムスさんを運んで貰うのって出来る?」
「ああ、ルツに同乗すれば問題は無い。フォルクは可能な限り単身でいてくれ、その方が敵に対応し易い。」
「分カッタ。問題ガ無イ限リハ、ヴィーダー。問題ガ有レバ俺ガ受ケ持ツ。ダイチハ飛ビ始メタバカリダ、無理ヲスルナ。」
「そう言って貰えて正直助かるわ。流石に二人で飛ぶのってまだ不安があるし…。」
最初に提案しといて何やったけど、下手こいて海に墜落とか笑い話にもならん。
頼りになる仲間達に感謝しつつ、移動方法は決定したんでリスムスさんが大まかな旅程を提案してくれた。
「他に意見が有れば受け付けるのだけれど、一先ず経路沿い且つ無事な『フェルス』『ネッツ』『ヴォーゲ』『コラレ』辺りを経由して行こうと思うの。特に『ヴォーゲ』は王都に次ぐ大きな街があるから…出来れば可能な範囲で治療もお願いしたいわ。」
大きな街って事は人口が多いんやろう。少し言い難そうやったリスムスさんに頷くと強ばってた表情が和らいだ。
「ダイチさんが優しいからますます惚れちゃうわね。」
「待テ。」
「調子に乗るな。」
頬に手を添えながらうっとりと呟いたリスムスさんに対してフォルクとヴィーダーさんのつっこみがほぼ重なった。
中々、ええ感じのトリオやなと面白いんで微笑ましく眺めながら出発前にやらなあかん事を頭の中で整理して…過ぎった神様の顔に軽く溜息が出てまう。
いや、相談事もあるしこんな態度で挑むのはあかんと思う気持ちが数ミリはあるよ?
でもさ、毎回精神をゴリゴリゴリゴリすり鉢の中のごまみたいに削って行く神様の方にも問題があると思うねん。
すりごまは体に良いそうやけども!それはそれ、これはこれや!
脳内ディスりとごまを挟みつつも表面上は落ち着いて大体の予定を決めた後、リスムスさんは準備とヴィレさんの様子を見に退室し、ギードさんも警備の仕事に戻らなあかんので出て行ってから意を決して神様に【神話】で連絡を取る事にして…ふと思い留まった。
「そう言えばヴィーダーさん。神様って信じてます?」
「…突然どうした?まぁ、祈った事は無いが一応存在するだろうとは思ってるが、頭でも打ったのか?」
「中々に失礼ですね。いや、実は話して無い事があるんですけど今後も一緒なら説明しとこうかなって…フォルク、話しといてええかな?」
「アア、少ナクトモ信用ハ出来ル。信ジルカハ、ヴィーダー次第ダガ、話ス分ニハ構ワナイト思ウ。」
「有難う。ちょっと長くなるんですけど時間が取れる内に説明はしときたいんで聞いて貰えます?」
「分かった、そこまで言うなら寧ろ聞かせてくれ。」
相棒のフォルクと御意見番のヴィーダーさんの了承も貰えたんで着席したまま今までの経緯を余分な所は省きながら神様含め偽りなく纏めて話し、結果的に嘘をついてた部分は謝罪して説明すると難しい顔をしながらも頷いてくれた。
「少なくともその話でダイチの非常識さは理解出来た。だが…厄介な話でもあるな。」
「確かに厄介っちゃ厄介なんですけど…断るのも土台無理なんで。」
「それも含めて厄介なんだ。要約するとダイチは新しい命とある程度の安全の代償として神直々に世界の調整を手伝わされている。オレやフォルクも含めこれで助かる者は確かに多くいる、多くはいるが…。」
言葉を途中で切ったヴィーダーさんにじっと見つめられ、先の言葉を待ってると重い溜息の後にめっちゃ頭痛いんですけどって表情されてから何故か視線がフォルクの方へ向かって睨み合いになる。
なんで二人がそんな状況になるねんと焦ってる内に厳つい視線で会話しつつ席を両者が立ったんで余計に慌てて俺も立ち上がる。
「待って下さい!何するつもりですか!?」
「話し合いだな。」
「少シ外ヘ出テ来ルガ、心配スルナ。」
「心配するわ!!!!全然、大丈夫じゃない空気!明らかに体育館裏にお呼び出しの展開やろこれ!?仲間内で争うのは無しです!落ち着いて、何か分からんけど争って解決するもんでもないやろ!?な!」
必死にストップ喧嘩をしたんで近距離でガルル、グルルとまるで猛獣が臨戦態勢でメンチ切り合う強烈な絵面だけ見て終わる事が出来た。
でも、なんで俺、異世界に来て喧嘩の仲裁してるんやろうな?しかも、絶対自分より強い二人の…て、思ったら世渡り上手やった兄ちゃんの眩しい笑顔が浮かんで『お前、巻き込まれ体質やねんから気をつけろよ。なんかあったら兄ちゃんに言うんやで!』って、若干ブラコン気味で優しい兄ちゃんの言葉を思い出して、何故かぞっとした。
自分も二人もある程度落ち着いてから事情説明を求めたものの何も教えてくれず、正直困ったけど喧嘩にはならんかったんで良しとして、更にこれでヴィーダーさんの前でも【神話】が遠慮無く使える事に今は満足した。
話ししてる間、二人には寛いでて貰おうと思って席を立とうとしたら止められ、目の前で話するようにヴィーダーさんに指示された上に、なんかあったら直ぐに相談しろとまで言われて意外に心配性なんやなと思いながら固有スキルを使って毎度お馴染み神様に連絡を入れた。
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