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3章
61.「青の国」
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翌朝、ピチチチッて可愛らしい鳥の鳴き声で目が覚めて清々しい始まりを迎えられた。
起きてたフォルク、実は眠気を感じるって言われたんで先に一旦寝て貰って、一、二時間で目覚めたんやが、少し眠れた後は見張り番をずっとしてくれてた。
三年以上眠れん生活やったから少しでも眠れたのが間違いなく嬉しかったんやろう、機嫌良さげに終始にこにこしてる彼にほんわかしながら朝の挨拶して、基本早起きで武器の手入れしてるヴィーダーさんにもきりっと挨拶してから【浄化】を皆に掛けて身支度を整えた。
んで、朝食で昨夜の夕食時に固形物は無理やったものの水分なら辛うじて取れると発覚したフォルクに作って残して置いた簡易なスープを器に入れて飲んで貰い、俺とヴィーダーさんは携帯用の固い黒パンと干し肉、くすねて来たらしいドライフルーツをデザートにおまけされたんで、有り難くもごもごしつつ水で喉を潤すと口の中が甘くて美味しい。
フォルクのゆっくりと一口一口味わう様な食事シーンも微笑ましくおかずにしながらご馳走様を終えると出発前に少し事情を聞こうと正座してから身を乗り出す。
「で、ヴィーダーさんはどの程度フォルクの事聞いてるんですか?」
昨日【解呪】を目撃されたもののそれだけでは二人の会話が成り立たん事には気づいてた。
聞きそびれてたんで此処で一旦、把握しとこうとヴィーダーさんに問い掛けたら少し考える素振りを見せてから答えてくれる。
「『緑の国』で霊獣を倒し呪いを受けた緑赤騎士。それも、本来はカイ・クレーメンス・グリューンバルト皇帝の近衛、側近中の側近で最も信頼されている懐刀。異例の若さで昇進したから噂では愛人だろうとも聞いてるな…。」
「て、こらーーー!オチはいらんねん、オチは!そんな小技は効かせんで良いし、根も葉もない風評被害ですそれ!」
途中まで真面目やったし、寧ろ俺が詳しく知らん情報も入ってて驚いてたのに最後で見事に台無しにされた!
フォルクも痛そうに頭抱えてて、ヴィーダーさんは可笑しそうにしてるから完全にからかってるだけやと思うけども、やめたげてよー!
「てか、フォルクの役職、隊長だけやなかったんやね?」
「ソウダナ…一応、上ニハ上ガイルシ対外的ナ理由モアルンダガ、大隊長ノ一席ト元々クレーメンストハ幼馴染ミタイナ間柄デ、近衛騎士ガ本来ノ役職ニナル。兼任ト言ッタ感ジデ、エーベルモ近イ事ヲシテイタシ…今ハ完全二任セキリニナッテイルナ。」
「そうやったんか…めっちゃ凄いし、任せてるのは今は仕方ないんで無事に戻ってから目一杯恩を返せば良いと思うで!」
「アリガトウ、ダイチ。」
話してる内に謙遜とは別にちょっとしんみりしてる雰囲気になってたんで励ますとフォルクが目を細めて微笑んでくれる。
気を取り直してくれた様子を確認してからヴィーダーさんに他に知ってて教えて貰える事ないか確認したら首を振られた。
ウィプキングさんからは正確やけど最低限の情報と仕事内容に関係する事しか聞いてないらしく、一応情報規制してくれたみたいや。
個人的にはフォルクが丸め込まれてる件も聞き出したかったんやけど、様子見てる限り無駄骨になりそうなんで敢えて追求はせん。
「まあ、戻って来た時にでも取っ捕まえて洗いざらい吐かせよか…。」
「…ダイチ。」
「お、やるな。」
ウィプキングさんとは友人になった訳やし、膝付き合わせてみっちり語り合うのも一興やなと珍しく黒い笑顔と雰囲気出したらフォルクには軽く心配されてヴィーダーさんには感心された。
「じゃ、そろそろ出発しましょうか!」
神様にフォルクの件で連絡をとも思たんやけどヴィーダーさんには話し通してないし、そもそも神様の話しをしてええんか信じてくれるんかも謎なんで、新しい国行ったらどの道連絡せなあかんタイミングが出て来るやろうから少しだけ先伸ばしにさせて貰う。
声を掛けて昨日と同じように皆で飛躍し、本日も晴天の空を『青の国』に向かって出発した。
「めっっっちゃ、雨やないかーい!」
朝出発してから既に時刻は三時のおやつ過ぎて夕方に近づいた頃合いぐらいに『土の国』と『青の国』の国境付近にある官署が見えて来たんやが広がってた景色に衝撃が走る。
見渡す限り海みたいになってるのも不思議ポイントの一つやけど、こっち側は晴天で向こう側は雨天とボス戦の砂漠現象と似たような事が起こってて立ち往生した。
豪雨までは行かんものの、それなりにしっかりと雨が降ってるんでこのまま素直に突っ込むと余り宜しくないのは分かる。
暫く首を捻りまくって思案してから、ダメ元で【無敵の盾】を展開した範囲内で腕だけ雨の中に伸ばしてみたらなんと!濡れんかった。
「【無敵の盾】恐ろしい子…!」
万能感に戦慄しつつも有り難さしかないんで心得たように待機してくれてた二人に方針をサクッと説明して、纏めて皆を結界内に覆ってからあちこち破壊されてる官署の上に移動する。
一応、【索敵】で調べたら生命の反応は無く、地面も水没してる上に雨で痕跡も消えてるものの明らかに襲われた痕跡があるし感じる雰囲気的にも【浄化】は間違いなくしといた方がええやろと浮いた状態を維持しながら気合い入れてスキルを発動させる。
すると『土の国』と同様に澱んだ空気が晴れ、光の粒子が曇った空に向かって次々に上がって行ったんで効果は間違いなくあったと思うんやが、何と無く聞こえた声は啜り泣くようで不思議な寂しさに胸が締めつけられた。
「何なんやろ?『土の国』とは違う所が有るのは分かるんやけど、物凄く弱ってるみたいな…寂寥とか哀愁とか、俺とは縁遠い感じの気配がする。」
「ダイチニハ縁遠ク合ッテ欲シイノハ間違イナイガ、ソウダナ…ドウニモ良クナイ気配ガ蔓延シテイルト思ウ。」
「竜王が弱ってるってのも関係してるんじゃないか?この国も特殊と言えば特殊だ。」
「何が特殊なんですか?」
「竜王が言葉通り直接国を守護してると言えば良いのか、膨大な魔力を使って街に結界だの竜脈を経由して土地や海を肥沃にしたり色々やってたらしいが…それにも問題があるだろうよ。」
「アア、竜王ガ安定シ制御出来テイレバ素晴ラシイ効果ヲ発揮スルダロウガ…ソウデナケレバ…ト言ッタ所カ。」
なるほど、つまり歪みの他にも今現在弱ってる竜王様の影響を受けて民を含む国自体が全体的により疲弊してるって感じかな。
細かい事は正直分からんけど、状況としては思ってたより宜しくないのだけは分かる。
「一先ず先を急ぐぐらいしか今は出来んけど【無敵の盾】のお陰で雨も問題無くなったし、首都を目指そうか。飛行してたら到着も早いやろうし…あ、只、今日はもう日が暮れそうやから無事な近場の街見つけなあかんな。」
夜通し移動するって手も無くはないが、万が一何か合った時に危険過ぎるしずっと気を張っとくのも土台無理な話なんで提案するとフォルク先生が『緑の国』に行く時に通ったんと知識としても地理を頭に入れててくれ、ヴィーダーさんもウィプキングさんに聞いて更に大まかな地図も貰って来てくれてたんで、かなり正確に三つ程候補に上げてくれた都市を近い順から大急ぎで当たってみる事になった。
【索敵】も使いつつ、『土の国』での太陽の位置を思い出しながら方角に注意して最初に向かったんが『フルト』て国境から一番近い街で、【遠目】で確認したら海の中に小島が浮かんでてその上に街らしき痕跡はあったけど、襲撃されたんか建物は破壊され死体は無いものの澱んだ気配に眉をしかめる。
敵も範囲内でおらんかったから【浄化】を使った方がええやろと高度を下げて近付き掛けたら近くを飛んでたフォルクに腕を素早く掴まれた。
「行クナ、ダイチ。嫌ナ予感ガスル…。」
「官署もそうだったが…死体の痕跡が無さすぎる、【浄化】は出来る範囲で止めてろ。」
フォルクもヴィーダーさんも険しい表情してるし、心無しかルツも落ち着きが無いように見える。
『土の国』でも死体が無いことは何度もあって…つまり、魔獣が関係してるんやろうけどある程度敵の姿が目視できた前と、どう見ても広大な海の中に潜める今とでは勝手が違うんかもしれん。
流石に危機感を刺激されまくってあんまり近付く事は諦め、届く範囲で【浄化】を放ったら幾分か島の空気は晴れた。
安全確保したまま応急処置みたいなんは出来たし、気持ち的にも満足して次の島を目指したんやが『リフ』って街がある島がどう探しても見つからず地図と睨めっこする羽目になる。
「『フルト』からあんまり離れてないし、方角も合ってますよね?」
「ああ、確認はしたから間違いは無い筈だ。」
「余リ考エタクハナイガ、海二沈ンダノデハナイカ?確カ『フルト』ノ方ガ島ノ規模ガ『リフ』ヨリ大キカッタ。中規模ハ有ッタ筈ナンダガ、ドウ見テモ小島ニナッテイタ…ダカラ、ソレヨリ小サカッタ『リフ』は…。」
フォルクが言い辛そうに教えてくれた推測にヴィーダーさんと顔を見合わせて驚きながらも数年前とは言え実際に幾つかの島を見た事のある彼が言うなら間違いは低いように思えた。
寧ろ、本心では確信してたけど信じたく無かったって雰囲気が感じ取れて真実味しかない。
「やばいなとは思ってましたけど…島が沈んで行ってるって…。」
「作戦の見直しだな。国境まで一旦戻って夜を明かすか、最悪夜間も進むか…後は進めるだけ進んで適当な所で空中待機するか、下手な島に降りたら休む所の話じゃねぇ。」
ごもっともな意見に何度も頷き、気持ち的には急ぎたい部分も有って結局、進めるだけ進んで島に辿り着けんかったら攻撃され難い高度で待機の方針に決定した。
んで、比較的近場の島は小規模と中規模のが多かったんで諦めて予定よりもっと奥の街がある大規模な島をリストアップし直して進む事になったんで案の定、途中で完全に日が落ちる。
日が沈み切る前に断りいれて即席の光源が作れるように【光魔法】を練習して【光】を生み出して幾つか周囲に浮かべられたんで、雨降りしきる夜の海でも怖さが軽減される。
ヴィーダーさんは【夜目】も、ある程度使えるらしいけど限界があるから助かったって素直に感心してくれ、フォルクは疲れたら【火魔法】で交代してくれるって言ってくれたんで有り難い。
「ついでやから回復しとくな~。」
只でさえ周囲が物理で暗いんで気分と体力だけでも明るく行こうかと【癒しの光】と【身体活性化】を皆に掛けて墜落せぇへんように回復させる。
余裕はまだまだ有りそうやけど正直今はいつ陸に到達できるんか分からんので、念には念を入れときたい。
ついでに水と携帯食、ルツにも水と穀物を食べさせてもぐもぐする姿に和み、補給に勤しんでから一息つくと皆で周囲を見回した。
「やっぱり、日が出るまで待った方が良いですよね?」
「ああ、下手に動くと危険だ。」
「余リ止マルノモ良クハナイダロウガ、遭難シテハ意味ガ無イカラナ。」
「やでな、船で渡るより空からの方がまだ楽やと思うけどそんな全部が全部上手く行かんか…。」
呟きながら何か良い案ないかな~と光の向こうに見える真っ暗な闇を見つめてたら段々と不思議な気分になってくる。
「あんまり深淵を覗いてると帰って来れんくなるからあかんよってなんかで聞いた事あるけど、今まさにそんな状態やでな。一人じゃなくて良かった…。」
しんみり呟いてると背中を適度な威力でバッシーンと叩かれて、右手をぎゅっと握り込まれた。
背中はヴィーダーさんで手の方はフォルクと言わずもがなやけど、二人とも励まそうとしてくれたみたいや。
「セイレーンもいる海域だ、あんまり呆けてると惑わされて食われるぞ。」
「食ワセハシナイガ、気ヲシッカリト持ッテイレバヨリ安全ダ。」
「うん、まあ…はい、ほんまに食人の方多いみたいやし気を付けるな。ありがとう。」
物凄く斜め上か下か分からん励まし方されたけど、やっぱ仲間がおんのはええなと気分が上向いたんで状況は良くないけどのんびり待てる気分になった。
朝日が昇るまでの数時間、フォルクはそんなに睡眠いらんからて昨夜と同じく見張りに徹してくれて、ヴィーダーさんはどんな状況でも眠れるらしいんでルツの上で軽く仮眠取って、俺は眠らんでもって話したんやが半ば強制的にルツに座らされてヴィーダーさんに支えられて浅い船を漕いだ。
因みにフォルクが抱えて寝る案も出されたんやが、急に襲われたら大変やからとめっちゃ丁寧に断ったってか…正直、眠る所や無くなるからやねんけど、今までの距離感考えるとこんな態度取り続けるのは良くないんで無事に陸地に着いたらちょっとずつでも慣れて行きたい。
仮眠挟んだのと悶々としながらも決意固めたんで思ってたより早く朝を迎えられてほっとした。
分厚い雨雲があるとは言え、日光があるとないとでは全然違うんで明るくなり始めた早朝から勇んで移動を開始した。
「いや~、ほんま良かった。動けるようになったし今の所襲われて無いし。」
「ソウダナ。ヤハリ、飛行系ノ魔獣ガ少ナイノガ大キイダロウ。下手二海ヘ近ヅカナケレバ安泰ダ、ダガ…。」
「え?どうしたん?」
「海の魔獣ってのは小物もいるが、でかいのが多い。襲われてねぇからって安心してもいられないって話だ。」
「うわー、めっちゃ分り易く危険な説明有り難うございます。」
フォルクは若干戸惑ったりオブラートに話そうとしてくれるんやがヴィーダーさんは基本的にオープンで、どっちも有り難いし、何気に良いコンビネーションかなと何となく思いつつ順調に飛ばしてたら目的の島の『ゼーヴィント』が見えて来た!しかも!
「無事そうやないですか!」
「アア、結界モ残ッテイルシ生物ノ気配ガアルナ。」
「港の方から入れる筈だ、あの辺りに向かうぞ。」
「分かりました!」
ヴィーダーさんが指し示してくれた海岸付近には遠目からでも詰所みたいな建物と軒先で見張りしてるリザードマンぽい兵士らしき人らが見える。
竜王様が張ってるらしい結界も薄い膜みたいに目視できて大規模な島全体を覆ってるのが分かり、街の入り口になってる立派な港の門は閉じられてるんやけど、接近に気がついて門の外側に待機してる兵士の人らが二十人程槍を片手に集まり出した。
「何者か!」
雨の中やのに真っ先に躍り出て来たリーダー格っぽい青黒い鱗のリザードマンに浜に着地する前に声を掛けられたんやが、警備やろうから明かに警戒されてる。
手違いで攻撃されんように合図して空中で静止したらヴィーダーさんが口を開いた。
「俺達はラントヴィルトシャフト王国に故ある者だ!『紋印』を持参している!改められよ!」
張りのある声とやや畏まった口調が珍し過ぎて驚いてたんやが、『紋印』て言葉に慌てて腰のアイテム袋に手を突っ込んで【アイテムボックス】から物を取り出す。
「承知した!すまないが、代表の者一名だけ降りて来て頂きたい!」
持って行こうとしたらフォルクが代わりに行ってくれるって事で、『紋印』を受け渡したら浜辺へゆっくりと降りて進み出て来たリーダー格の方へ向かった。
「コレガ証拠ダ、改メテ頂キタイ。」
「拝見する。」
【遠耳】で聞き耳を立てながら様子を伺ってたら丁寧に『紋印』を受け取ったリザードマンが表裏を確認し、一つ頷いてフォルクに返す。
「確かにラントヴィルトシャフト王国の印で相違ない。しかし、何用があって我が国へ来られた?見ての通りの有事だ、持て成す余裕は無いが宜しいか?」
「端カラソウ言ッタ腹積モリハ無イノデ安心シテ欲シイ。詳シク話セナイ事モ有ルガ、支援ニ来タノダ。身元ガ信用シテ貰エタナラバ街ヘノ入場ヲ許可シテ貰エナイカ?」
「支援と…分かりました。可能であれば後程、もう少し詳しいお話を聞かせて頂きたいのでお伺いして宜しいならば許可致します。」
「感謝スル。街ノ宿屋ニ滞在スル予定ダガ…」
「それでしたら『青風亭』へ、お泊まり下さい。店主は少し変わっておりますが信頼の置ける人物です。個人的にも縁がありますので、訪ね易くもあります。」
「承知シタ。名乗リ遅レタガ俺ハ、フォルク、ト言ウ。」
「こちらこそ失礼致しました。私の名はギード。王都より派遣されている中隊の隊長をしております。お見知り置きを。」
ギード中隊長が会釈の姿勢を取るとフォルクも軽く会釈を返してからこっちに戻って来る。
警戒はされてる印象やけど街に入れるみたいやから良かった。
そして『紋印』が早速役立って、ヴェルデ様ほんまにありがとうございます!
心の中で礼をしてたら戻って来たフォルクがヴィーダーさんと視線合わせてから俺の方を見て小声で話し出す。
「コレカラ向カウ宿屋ノ店主ハ恐ラク監視ダ。疚シイ所ハ無イガ気ヲツケロ、極力一人ニナラナイヨウニ、ソシテ何カ有レバ直グニ言ウンダゾ。」
マジか!?と、思いつつフォルクの配慮に頷く。
表面上は普通に話してたんで気づかんかったんやけど、結構牽制されてたみたいや。
挙動不審に定評のある俺としては気を引き締めなあかんなと決意して出入りの時にだけ開けられる巨大な門から街へと入場し、案内に付けられたリザードマン隊員二名に付き添われて『青風亭』へ足早に移動した。
「綺麗な建物ですね。」
道中、広がってた街並みは中華風な建物が多く、二階建ての宿屋も勿論それに準じてるんやけど味のある青い壁に風を演出してるんかデザイン的な水色の線が趣味よく描かれててなんとも素敵や。
鮮やかな青色に銀の装飾がされた提灯が幾つも軒先や二階の回廊に吊るされてて夜になったら是非に灯ってる所が見たい。
興奮気味に観察してたら先にリザードマン隊員が宿に入って行って、戻って来たらルツを一人が従魔舎に連れてってくれ、俺らは中に入るように促されたんで入店させて貰った。
両開きの細かい木組が施された扉を開けると待合室みたいな空間には椅子とこれまたお洒落な模様が金糸で刺繍された濃い青の絨毯が敷かれてて、よく磨かれた木製のカウンターの中には優雅な笑みを浮かべた美人なおねーさんが座ってる。
間違いなく『青の民』なんで艶のある長い青髪を三つ編みにして右肩から流してて、耳には青い小花を閉じ込めた透明な硝子玉に黒のタッセルがついた耳飾りが揺れ、神秘的で優しそうな雰囲気を纏った青い目に切れ長な目尻には化粧をしてるんか紫のシャドウが引かれ、口元も瑞々しいんで何か薄い紅でも塗ってるんやろうか。
衣装はエーベルさんを思い出すアオザイ風で白い上衣は清潔な印象を与えてお店をより良く見せてくれる。
「異国のお客様、ようこそ我が『青風亭』へお越し下さいました。この宿屋の店主をしておりますリスムスと申します。ささやかではありますが、歓迎致しますわ。」
カウンターに近づいた所で立ち上がったリスムスさんが挨拶してくれたんやが驚きで思わず硬直してもうた。
まず、細身な印象ながらも身長や体格がフォルクやヴィーダーさんとあんまり変わらんかった事と大変失礼な目線でつるペタな胸元を確認し、極めつけが…声、完全に男性ですよね?
耳に心地好いテノール系やけどおねーさんからおにーさんに瞬時に切り替わる程度には男!なもののオネエ口調が垣間見えたとあらば日本人として空気を読むスキルは任せてくれ!
「いやあ、こんな別嬪なおねーさんに出迎えて貰えて既に幸せですわ!お世話になりますね、リスムスさん。」
へこへこーと頭も下げつつ挨拶するとリスムスおねーさんは少し驚いてから嬉しそうに相好を崩す。
「あらやだ、随分と可愛いらしい子が来たのねぇ。彼氏達がいるみたいだけど、良ければ私達とも良いコトしましょう。」
冗談なんやとは分かったけど、色気たっぷりにウインク飛ばされてのお誘いの文句に何処から突っ込むべきかと、そして『青の国』でのファーストエンカウント多分此処やないかな?と遠い目になった。
起きてたフォルク、実は眠気を感じるって言われたんで先に一旦寝て貰って、一、二時間で目覚めたんやが、少し眠れた後は見張り番をずっとしてくれてた。
三年以上眠れん生活やったから少しでも眠れたのが間違いなく嬉しかったんやろう、機嫌良さげに終始にこにこしてる彼にほんわかしながら朝の挨拶して、基本早起きで武器の手入れしてるヴィーダーさんにもきりっと挨拶してから【浄化】を皆に掛けて身支度を整えた。
んで、朝食で昨夜の夕食時に固形物は無理やったものの水分なら辛うじて取れると発覚したフォルクに作って残して置いた簡易なスープを器に入れて飲んで貰い、俺とヴィーダーさんは携帯用の固い黒パンと干し肉、くすねて来たらしいドライフルーツをデザートにおまけされたんで、有り難くもごもごしつつ水で喉を潤すと口の中が甘くて美味しい。
フォルクのゆっくりと一口一口味わう様な食事シーンも微笑ましくおかずにしながらご馳走様を終えると出発前に少し事情を聞こうと正座してから身を乗り出す。
「で、ヴィーダーさんはどの程度フォルクの事聞いてるんですか?」
昨日【解呪】を目撃されたもののそれだけでは二人の会話が成り立たん事には気づいてた。
聞きそびれてたんで此処で一旦、把握しとこうとヴィーダーさんに問い掛けたら少し考える素振りを見せてから答えてくれる。
「『緑の国』で霊獣を倒し呪いを受けた緑赤騎士。それも、本来はカイ・クレーメンス・グリューンバルト皇帝の近衛、側近中の側近で最も信頼されている懐刀。異例の若さで昇進したから噂では愛人だろうとも聞いてるな…。」
「て、こらーーー!オチはいらんねん、オチは!そんな小技は効かせんで良いし、根も葉もない風評被害ですそれ!」
途中まで真面目やったし、寧ろ俺が詳しく知らん情報も入ってて驚いてたのに最後で見事に台無しにされた!
フォルクも痛そうに頭抱えてて、ヴィーダーさんは可笑しそうにしてるから完全にからかってるだけやと思うけども、やめたげてよー!
「てか、フォルクの役職、隊長だけやなかったんやね?」
「ソウダナ…一応、上ニハ上ガイルシ対外的ナ理由モアルンダガ、大隊長ノ一席ト元々クレーメンストハ幼馴染ミタイナ間柄デ、近衛騎士ガ本来ノ役職ニナル。兼任ト言ッタ感ジデ、エーベルモ近イ事ヲシテイタシ…今ハ完全二任セキリニナッテイルナ。」
「そうやったんか…めっちゃ凄いし、任せてるのは今は仕方ないんで無事に戻ってから目一杯恩を返せば良いと思うで!」
「アリガトウ、ダイチ。」
話してる内に謙遜とは別にちょっとしんみりしてる雰囲気になってたんで励ますとフォルクが目を細めて微笑んでくれる。
気を取り直してくれた様子を確認してからヴィーダーさんに他に知ってて教えて貰える事ないか確認したら首を振られた。
ウィプキングさんからは正確やけど最低限の情報と仕事内容に関係する事しか聞いてないらしく、一応情報規制してくれたみたいや。
個人的にはフォルクが丸め込まれてる件も聞き出したかったんやけど、様子見てる限り無駄骨になりそうなんで敢えて追求はせん。
「まあ、戻って来た時にでも取っ捕まえて洗いざらい吐かせよか…。」
「…ダイチ。」
「お、やるな。」
ウィプキングさんとは友人になった訳やし、膝付き合わせてみっちり語り合うのも一興やなと珍しく黒い笑顔と雰囲気出したらフォルクには軽く心配されてヴィーダーさんには感心された。
「じゃ、そろそろ出発しましょうか!」
神様にフォルクの件で連絡をとも思たんやけどヴィーダーさんには話し通してないし、そもそも神様の話しをしてええんか信じてくれるんかも謎なんで、新しい国行ったらどの道連絡せなあかんタイミングが出て来るやろうから少しだけ先伸ばしにさせて貰う。
声を掛けて昨日と同じように皆で飛躍し、本日も晴天の空を『青の国』に向かって出発した。
「めっっっちゃ、雨やないかーい!」
朝出発してから既に時刻は三時のおやつ過ぎて夕方に近づいた頃合いぐらいに『土の国』と『青の国』の国境付近にある官署が見えて来たんやが広がってた景色に衝撃が走る。
見渡す限り海みたいになってるのも不思議ポイントの一つやけど、こっち側は晴天で向こう側は雨天とボス戦の砂漠現象と似たような事が起こってて立ち往生した。
豪雨までは行かんものの、それなりにしっかりと雨が降ってるんでこのまま素直に突っ込むと余り宜しくないのは分かる。
暫く首を捻りまくって思案してから、ダメ元で【無敵の盾】を展開した範囲内で腕だけ雨の中に伸ばしてみたらなんと!濡れんかった。
「【無敵の盾】恐ろしい子…!」
万能感に戦慄しつつも有り難さしかないんで心得たように待機してくれてた二人に方針をサクッと説明して、纏めて皆を結界内に覆ってからあちこち破壊されてる官署の上に移動する。
一応、【索敵】で調べたら生命の反応は無く、地面も水没してる上に雨で痕跡も消えてるものの明らかに襲われた痕跡があるし感じる雰囲気的にも【浄化】は間違いなくしといた方がええやろと浮いた状態を維持しながら気合い入れてスキルを発動させる。
すると『土の国』と同様に澱んだ空気が晴れ、光の粒子が曇った空に向かって次々に上がって行ったんで効果は間違いなくあったと思うんやが、何と無く聞こえた声は啜り泣くようで不思議な寂しさに胸が締めつけられた。
「何なんやろ?『土の国』とは違う所が有るのは分かるんやけど、物凄く弱ってるみたいな…寂寥とか哀愁とか、俺とは縁遠い感じの気配がする。」
「ダイチニハ縁遠ク合ッテ欲シイノハ間違イナイガ、ソウダナ…ドウニモ良クナイ気配ガ蔓延シテイルト思ウ。」
「竜王が弱ってるってのも関係してるんじゃないか?この国も特殊と言えば特殊だ。」
「何が特殊なんですか?」
「竜王が言葉通り直接国を守護してると言えば良いのか、膨大な魔力を使って街に結界だの竜脈を経由して土地や海を肥沃にしたり色々やってたらしいが…それにも問題があるだろうよ。」
「アア、竜王ガ安定シ制御出来テイレバ素晴ラシイ効果ヲ発揮スルダロウガ…ソウデナケレバ…ト言ッタ所カ。」
なるほど、つまり歪みの他にも今現在弱ってる竜王様の影響を受けて民を含む国自体が全体的により疲弊してるって感じかな。
細かい事は正直分からんけど、状況としては思ってたより宜しくないのだけは分かる。
「一先ず先を急ぐぐらいしか今は出来んけど【無敵の盾】のお陰で雨も問題無くなったし、首都を目指そうか。飛行してたら到着も早いやろうし…あ、只、今日はもう日が暮れそうやから無事な近場の街見つけなあかんな。」
夜通し移動するって手も無くはないが、万が一何か合った時に危険過ぎるしずっと気を張っとくのも土台無理な話なんで提案するとフォルク先生が『緑の国』に行く時に通ったんと知識としても地理を頭に入れててくれ、ヴィーダーさんもウィプキングさんに聞いて更に大まかな地図も貰って来てくれてたんで、かなり正確に三つ程候補に上げてくれた都市を近い順から大急ぎで当たってみる事になった。
【索敵】も使いつつ、『土の国』での太陽の位置を思い出しながら方角に注意して最初に向かったんが『フルト』て国境から一番近い街で、【遠目】で確認したら海の中に小島が浮かんでてその上に街らしき痕跡はあったけど、襲撃されたんか建物は破壊され死体は無いものの澱んだ気配に眉をしかめる。
敵も範囲内でおらんかったから【浄化】を使った方がええやろと高度を下げて近付き掛けたら近くを飛んでたフォルクに腕を素早く掴まれた。
「行クナ、ダイチ。嫌ナ予感ガスル…。」
「官署もそうだったが…死体の痕跡が無さすぎる、【浄化】は出来る範囲で止めてろ。」
フォルクもヴィーダーさんも険しい表情してるし、心無しかルツも落ち着きが無いように見える。
『土の国』でも死体が無いことは何度もあって…つまり、魔獣が関係してるんやろうけどある程度敵の姿が目視できた前と、どう見ても広大な海の中に潜める今とでは勝手が違うんかもしれん。
流石に危機感を刺激されまくってあんまり近付く事は諦め、届く範囲で【浄化】を放ったら幾分か島の空気は晴れた。
安全確保したまま応急処置みたいなんは出来たし、気持ち的にも満足して次の島を目指したんやが『リフ』って街がある島がどう探しても見つからず地図と睨めっこする羽目になる。
「『フルト』からあんまり離れてないし、方角も合ってますよね?」
「ああ、確認はしたから間違いは無い筈だ。」
「余リ考エタクハナイガ、海二沈ンダノデハナイカ?確カ『フルト』ノ方ガ島ノ規模ガ『リフ』ヨリ大キカッタ。中規模ハ有ッタ筈ナンダガ、ドウ見テモ小島ニナッテイタ…ダカラ、ソレヨリ小サカッタ『リフ』は…。」
フォルクが言い辛そうに教えてくれた推測にヴィーダーさんと顔を見合わせて驚きながらも数年前とは言え実際に幾つかの島を見た事のある彼が言うなら間違いは低いように思えた。
寧ろ、本心では確信してたけど信じたく無かったって雰囲気が感じ取れて真実味しかない。
「やばいなとは思ってましたけど…島が沈んで行ってるって…。」
「作戦の見直しだな。国境まで一旦戻って夜を明かすか、最悪夜間も進むか…後は進めるだけ進んで適当な所で空中待機するか、下手な島に降りたら休む所の話じゃねぇ。」
ごもっともな意見に何度も頷き、気持ち的には急ぎたい部分も有って結局、進めるだけ進んで島に辿り着けんかったら攻撃され難い高度で待機の方針に決定した。
んで、比較的近場の島は小規模と中規模のが多かったんで諦めて予定よりもっと奥の街がある大規模な島をリストアップし直して進む事になったんで案の定、途中で完全に日が落ちる。
日が沈み切る前に断りいれて即席の光源が作れるように【光魔法】を練習して【光】を生み出して幾つか周囲に浮かべられたんで、雨降りしきる夜の海でも怖さが軽減される。
ヴィーダーさんは【夜目】も、ある程度使えるらしいけど限界があるから助かったって素直に感心してくれ、フォルクは疲れたら【火魔法】で交代してくれるって言ってくれたんで有り難い。
「ついでやから回復しとくな~。」
只でさえ周囲が物理で暗いんで気分と体力だけでも明るく行こうかと【癒しの光】と【身体活性化】を皆に掛けて墜落せぇへんように回復させる。
余裕はまだまだ有りそうやけど正直今はいつ陸に到達できるんか分からんので、念には念を入れときたい。
ついでに水と携帯食、ルツにも水と穀物を食べさせてもぐもぐする姿に和み、補給に勤しんでから一息つくと皆で周囲を見回した。
「やっぱり、日が出るまで待った方が良いですよね?」
「ああ、下手に動くと危険だ。」
「余リ止マルノモ良クハナイダロウガ、遭難シテハ意味ガ無イカラナ。」
「やでな、船で渡るより空からの方がまだ楽やと思うけどそんな全部が全部上手く行かんか…。」
呟きながら何か良い案ないかな~と光の向こうに見える真っ暗な闇を見つめてたら段々と不思議な気分になってくる。
「あんまり深淵を覗いてると帰って来れんくなるからあかんよってなんかで聞いた事あるけど、今まさにそんな状態やでな。一人じゃなくて良かった…。」
しんみり呟いてると背中を適度な威力でバッシーンと叩かれて、右手をぎゅっと握り込まれた。
背中はヴィーダーさんで手の方はフォルクと言わずもがなやけど、二人とも励まそうとしてくれたみたいや。
「セイレーンもいる海域だ、あんまり呆けてると惑わされて食われるぞ。」
「食ワセハシナイガ、気ヲシッカリト持ッテイレバヨリ安全ダ。」
「うん、まあ…はい、ほんまに食人の方多いみたいやし気を付けるな。ありがとう。」
物凄く斜め上か下か分からん励まし方されたけど、やっぱ仲間がおんのはええなと気分が上向いたんで状況は良くないけどのんびり待てる気分になった。
朝日が昇るまでの数時間、フォルクはそんなに睡眠いらんからて昨夜と同じく見張りに徹してくれて、ヴィーダーさんはどんな状況でも眠れるらしいんでルツの上で軽く仮眠取って、俺は眠らんでもって話したんやが半ば強制的にルツに座らされてヴィーダーさんに支えられて浅い船を漕いだ。
因みにフォルクが抱えて寝る案も出されたんやが、急に襲われたら大変やからとめっちゃ丁寧に断ったってか…正直、眠る所や無くなるからやねんけど、今までの距離感考えるとこんな態度取り続けるのは良くないんで無事に陸地に着いたらちょっとずつでも慣れて行きたい。
仮眠挟んだのと悶々としながらも決意固めたんで思ってたより早く朝を迎えられてほっとした。
分厚い雨雲があるとは言え、日光があるとないとでは全然違うんで明るくなり始めた早朝から勇んで移動を開始した。
「いや~、ほんま良かった。動けるようになったし今の所襲われて無いし。」
「ソウダナ。ヤハリ、飛行系ノ魔獣ガ少ナイノガ大キイダロウ。下手二海ヘ近ヅカナケレバ安泰ダ、ダガ…。」
「え?どうしたん?」
「海の魔獣ってのは小物もいるが、でかいのが多い。襲われてねぇからって安心してもいられないって話だ。」
「うわー、めっちゃ分り易く危険な説明有り難うございます。」
フォルクは若干戸惑ったりオブラートに話そうとしてくれるんやがヴィーダーさんは基本的にオープンで、どっちも有り難いし、何気に良いコンビネーションかなと何となく思いつつ順調に飛ばしてたら目的の島の『ゼーヴィント』が見えて来た!しかも!
「無事そうやないですか!」
「アア、結界モ残ッテイルシ生物ノ気配ガアルナ。」
「港の方から入れる筈だ、あの辺りに向かうぞ。」
「分かりました!」
ヴィーダーさんが指し示してくれた海岸付近には遠目からでも詰所みたいな建物と軒先で見張りしてるリザードマンぽい兵士らしき人らが見える。
竜王様が張ってるらしい結界も薄い膜みたいに目視できて大規模な島全体を覆ってるのが分かり、街の入り口になってる立派な港の門は閉じられてるんやけど、接近に気がついて門の外側に待機してる兵士の人らが二十人程槍を片手に集まり出した。
「何者か!」
雨の中やのに真っ先に躍り出て来たリーダー格っぽい青黒い鱗のリザードマンに浜に着地する前に声を掛けられたんやが、警備やろうから明かに警戒されてる。
手違いで攻撃されんように合図して空中で静止したらヴィーダーさんが口を開いた。
「俺達はラントヴィルトシャフト王国に故ある者だ!『紋印』を持参している!改められよ!」
張りのある声とやや畏まった口調が珍し過ぎて驚いてたんやが、『紋印』て言葉に慌てて腰のアイテム袋に手を突っ込んで【アイテムボックス】から物を取り出す。
「承知した!すまないが、代表の者一名だけ降りて来て頂きたい!」
持って行こうとしたらフォルクが代わりに行ってくれるって事で、『紋印』を受け渡したら浜辺へゆっくりと降りて進み出て来たリーダー格の方へ向かった。
「コレガ証拠ダ、改メテ頂キタイ。」
「拝見する。」
【遠耳】で聞き耳を立てながら様子を伺ってたら丁寧に『紋印』を受け取ったリザードマンが表裏を確認し、一つ頷いてフォルクに返す。
「確かにラントヴィルトシャフト王国の印で相違ない。しかし、何用があって我が国へ来られた?見ての通りの有事だ、持て成す余裕は無いが宜しいか?」
「端カラソウ言ッタ腹積モリハ無イノデ安心シテ欲シイ。詳シク話セナイ事モ有ルガ、支援ニ来タノダ。身元ガ信用シテ貰エタナラバ街ヘノ入場ヲ許可シテ貰エナイカ?」
「支援と…分かりました。可能であれば後程、もう少し詳しいお話を聞かせて頂きたいのでお伺いして宜しいならば許可致します。」
「感謝スル。街ノ宿屋ニ滞在スル予定ダガ…」
「それでしたら『青風亭』へ、お泊まり下さい。店主は少し変わっておりますが信頼の置ける人物です。個人的にも縁がありますので、訪ね易くもあります。」
「承知シタ。名乗リ遅レタガ俺ハ、フォルク、ト言ウ。」
「こちらこそ失礼致しました。私の名はギード。王都より派遣されている中隊の隊長をしております。お見知り置きを。」
ギード中隊長が会釈の姿勢を取るとフォルクも軽く会釈を返してからこっちに戻って来る。
警戒はされてる印象やけど街に入れるみたいやから良かった。
そして『紋印』が早速役立って、ヴェルデ様ほんまにありがとうございます!
心の中で礼をしてたら戻って来たフォルクがヴィーダーさんと視線合わせてから俺の方を見て小声で話し出す。
「コレカラ向カウ宿屋ノ店主ハ恐ラク監視ダ。疚シイ所ハ無イガ気ヲツケロ、極力一人ニナラナイヨウニ、ソシテ何カ有レバ直グニ言ウンダゾ。」
マジか!?と、思いつつフォルクの配慮に頷く。
表面上は普通に話してたんで気づかんかったんやけど、結構牽制されてたみたいや。
挙動不審に定評のある俺としては気を引き締めなあかんなと決意して出入りの時にだけ開けられる巨大な門から街へと入場し、案内に付けられたリザードマン隊員二名に付き添われて『青風亭』へ足早に移動した。
「綺麗な建物ですね。」
道中、広がってた街並みは中華風な建物が多く、二階建ての宿屋も勿論それに準じてるんやけど味のある青い壁に風を演出してるんかデザイン的な水色の線が趣味よく描かれててなんとも素敵や。
鮮やかな青色に銀の装飾がされた提灯が幾つも軒先や二階の回廊に吊るされてて夜になったら是非に灯ってる所が見たい。
興奮気味に観察してたら先にリザードマン隊員が宿に入って行って、戻って来たらルツを一人が従魔舎に連れてってくれ、俺らは中に入るように促されたんで入店させて貰った。
両開きの細かい木組が施された扉を開けると待合室みたいな空間には椅子とこれまたお洒落な模様が金糸で刺繍された濃い青の絨毯が敷かれてて、よく磨かれた木製のカウンターの中には優雅な笑みを浮かべた美人なおねーさんが座ってる。
間違いなく『青の民』なんで艶のある長い青髪を三つ編みにして右肩から流してて、耳には青い小花を閉じ込めた透明な硝子玉に黒のタッセルがついた耳飾りが揺れ、神秘的で優しそうな雰囲気を纏った青い目に切れ長な目尻には化粧をしてるんか紫のシャドウが引かれ、口元も瑞々しいんで何か薄い紅でも塗ってるんやろうか。
衣装はエーベルさんを思い出すアオザイ風で白い上衣は清潔な印象を与えてお店をより良く見せてくれる。
「異国のお客様、ようこそ我が『青風亭』へお越し下さいました。この宿屋の店主をしておりますリスムスと申します。ささやかではありますが、歓迎致しますわ。」
カウンターに近づいた所で立ち上がったリスムスさんが挨拶してくれたんやが驚きで思わず硬直してもうた。
まず、細身な印象ながらも身長や体格がフォルクやヴィーダーさんとあんまり変わらんかった事と大変失礼な目線でつるペタな胸元を確認し、極めつけが…声、完全に男性ですよね?
耳に心地好いテノール系やけどおねーさんからおにーさんに瞬時に切り替わる程度には男!なもののオネエ口調が垣間見えたとあらば日本人として空気を読むスキルは任せてくれ!
「いやあ、こんな別嬪なおねーさんに出迎えて貰えて既に幸せですわ!お世話になりますね、リスムスさん。」
へこへこーと頭も下げつつ挨拶するとリスムスおねーさんは少し驚いてから嬉しそうに相好を崩す。
「あらやだ、随分と可愛いらしい子が来たのねぇ。彼氏達がいるみたいだけど、良ければ私達とも良いコトしましょう。」
冗談なんやとは分かったけど、色気たっぷりにウインク飛ばされてのお誘いの文句に何処から突っ込むべきかと、そして『青の国』でのファーストエンカウント多分此処やないかな?と遠い目になった。
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